夏休み明けの第13戦・ベルギーGPに、ホンダはスペック4パワーユニットを完成させてきた。スパ・フランコルシャン、モンツァ、ソチとパワーサーキットが続く後半戦のスタートに合わせて、開発を進めてきた新スペックだ。フェルスタッペン(左)の新…

 夏休み明けの第13戦・ベルギーGPに、ホンダはスペック4パワーユニットを完成させてきた。スパ・フランコルシャン、モンツァ、ソチとパワーサーキットが続く後半戦のスタートに合わせて、開発を進めてきた新スペックだ。



フェルスタッペン(左)の新たなチームメイトとなったアルボン(右)

 ターボやMGU-H(※)などはそのままに、ICE(内燃機関エンジン)の燃焼系を改良してきた。つまり、パワー向上の本丸にメスが入った。

※MGU-H=Motor Generator Unit-Heatの略。排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう語る。

「メインはICEの燃焼系の向上です。パフォーマンスと信頼性のバランスは常に取っているんですが、その両方ともバランスが取れた形で向上したスペックになります」

 ICEの改良によってどのくらいパワーが向上しているかという点については、20馬力とも25馬力とも報じられている。だが、レッドブル側から漏れ伝わってくる数字は、かなり正確なもののようだ。田辺テクニカルディレクターは具体的な数字は明かさないものの、スペック2やスペック3の投入時とは違って、「出力面で明確な進歩がある」という点は明言した。

「(具体的な数字は)秘密です(笑)。でも、ちゃんとした目に見える形でステップアップしたものを持って来ています。スペック3でもICEは上がっていますけど、今回はそれの進化版ですね」

 レッドブルの車体改良とともに、ホンダのパワーユニットはスペック3で改良が進み、セッティングの熟成も合わせ、攻めて使えるようになった。そのことがシーズン中盤戦、オーストリアGP以降の快進撃を支えている。

 フェラーリやメルセデスAMGに、パワーでも追いつきつつあるという見方もある。だが、田辺テクニカルディレクターは差が縮まっていることは認めつつ、まだ追う立場であることはしっかりと強調した。

「近くまで来ているなとは思っていますし、(パワーサーキットが)苦手だから逃げ出したいということもありません。今も我々は追いかける立場です。ドライバーからすれば、パワーはあるに越したことはない。この間の(ハンガリーGP決勝のフェルスタッペンの)ように『もっと(パワーを)くれ』という話になります。もっともっとパワーがあれば、うれしいですけどね」

 スペック3では当初、熱対策の点でコンサバティブな点があり、パワーユニットを守るために出力を落とす「セーフモード」に入りやすい状況があった。さらにドライバーのスロットル操作に対して、スムーズにパワーがついてこない「ラグの問題」もあった。そういった課題をレースごとに解消し、セッティングを煮詰めていったのがスペック3だった。

 スペック4ではそういったこともなく、最初からスムーズな運用が可能なはずだと言う。

 ただし、期待されていたエクソンモービルの新型燃料は間に合わず、ここには投入されていない。スペック4のパフォーマンスを最大限に引き出すためには、その燃焼系に合わせて開発された新型燃料が必要不可欠だ。

 そういう意味では、今回はまだスペック4の真価を発揮することはできないのかもしれない。とくに、メルセデスAMGやフェラーリと戦ううえで重要と言える「予選でのスペシャルモードの実用化」は難しいかもしれない。

 その一方でレッドブルは、アレクサンダー・アルボンをトロロッソから昇格させ、不振のピエール・ガスリーをトロロッソに乗せる人事を決めた。ほとんどの関係者が知らず、当のドライバーたちも発表の数時間前に聞かされたという、急な決定だった。

 田辺テクニカルディレクターも、これには驚きを隠さなかった。だが、ホンダとしてとくに何かをするわけでもなく、従来どおりのエンジニア布陣で臨むという。

 つまり、アルボンはこれまでガスリーを担当していたスタッフと組み、ガスリーはアルボン担当チームと組む。これはチーム側のエンジニア体制と同じで、ドライバーとエンジニアの組み合わせよりも、チームとホンダのエンジニア同士の組み合わせを固定するほうを優先したものだ。

 ガスリーは、約9カ月ぶりのトロロッソ復帰。ただ、エンジニアは昨年ともに働いた布陣ではなく、ブレンドン・ハートレイとアルボンを担当していたピエール・アムランらのチームと組むことになる。

 サマーブレイクの2週間の閉鎖を経て、両ドライバーがチームに合流できたのはレース週の月曜日。トロロッソの本拠地ファエンツァのファクトリーにシミュレーターがないガスリーは、レースに向けた準備も決して十分とは言えない。

「(人事異動は)個人的にはある意味、ちょっとビックリしましたね。でも、我々がやることは変わりませんし、スタッフもドライバーと一緒に(チーム間を)動かさず、まったくそのままキープしています。揉めることも一切なかったですね。両ドライバーにとって、ポジティブな形になってくれればと思います」(田辺テクニカルディレクター)

 レッドブル、トロロッソの各チーム1台ずつにのみスペック4を投入したのは、2台ともにグリッド降格ペナルティで最後方からのスタートを強いられ、レースの勝負権を失うのを避けるためだ。今回投入しなかった2台は、来週のイタリアGPで投入してペナルティを消化することになる。

 レッドブルもトロロッソも現在のランキング争いを優先するため、昨年のようにペナルティを何度も受けながら、翌年に向けたパワーユニット開発を進めようとは思っていない。

 またホンダは、開発アイテムの進捗状況と待ち受けるサーキットの特性から、ここでスペック4の投入をチームと協議のうえで決めた。このスペック4とこれまでの手持ちストック分を合わせて、残り9戦を走り切ることが可能かどうか、ぎりぎりのラインにある。

「もう1基投入すれば、またペナルティになりますし、それをどう考えるか。とくにICEを、どう使っていくか。これからレース状況を見ながら、やりくりを一生懸命やります」

 いずれにしても今週末、同じサーキットで2チームの同じマシンにそれぞれスペック3とスペック4が搭載され、直接比較することが可能になる。通常は確認が難しいパワーユニットの差異を確かめるには、絶好の条件だ。

 そして、それがシーズン後半戦、レッドブル・ホンダがどこまでメルセデスAMGやフェラーリとの優勝争いに加わっていけるかを占う。レッドブルとホンダにとって、極めて重要なレース週末になる。