16歳の望月慎太郎が、USオープンのジュニアの部に挑む 2019年USオープンでは、世界ランキング1位を保持する日本人選手2人が出場している。1人は大坂なおみ。もう1人は望月慎太郎(ジュニア男子ITFランキング1位)だ。 望月は今年、ウイン…



16歳の望月慎太郎が、USオープンのジュニアの部に挑む

 2019年USオープンでは、世界ランキング1位を保持する日本人選手2人が出場している。1人は大坂なおみ。もう1人は望月慎太郎(ジュニア男子ITFランキング1位)だ。

 望月は今年、ウインブルドン・ジュニアの部に初出場だったにもかかわらず、男子シングルスで初優勝して周囲を驚かせた。ウインブルドンが望月にとって、グランドスラムのジュニア2大会目だったこともあり、なおさら衝撃的だった。

 これまで日本男子ジュニア選手が誰も獲得できなかったグランドスラムタイトルを、16歳でつかみ取った望月だが、当の本人は、歴史的な偉業をやってのけた感触はなく淡々としていた。

「快挙と言われても、そんな実感がないんですけど、ウインブルドンに限らず、まずは優勝できたことが、自分にとっての成長だと思う」

 望月が小学5~6年生の時に指導した、「TeamYUKA」代表の吉田友佳さんは、わが子のことのように望月のウインブルドン制覇を喜んだ。

「いつかはグランドスラムのジュニアで勝つ時がきて、そしてプロになるんだろうなって思っていました。ただ、グランドスラムのジュニア2大会目での優勝には、ただただびっくりしました(笑)」

 望月が優勝する瞬間に立ち会った、ジュニアデビスカップ代表監督の岩本功氏は、長年、日本男子ジュニアの海外遠征に携わってきただけに、望月がグランドスラムの頂点に達したことに関して、本人以上に感慨深げだった。

「やっとここに届いたというか、扉を開いてくれたという思いです。今まで(日本男子ジュニアはグランドスラムで)ベスト4が最高だったので、望月が結果を出したことで、ほかの選手たちもみんなできると思えるようになって今後につながると思います」

 そして望月は、ウインブルドン終了後、7月15日づけのITFジュニア男子ランキングで初の世界1位に輝いた。

 岩本監督は、望月の快挙を喜びつつも慎重な姿勢も崩さない。

「うれしいですね。16歳で世界の頂点にいったので、エリートの仲間入りかもしれないですが、エリートとはまだ認めたくない。まだ先があるので」

 望月のテニスの特長は、俊敏なフットワークを駆使しながらコートを広く使って、しっかりコースを突き、相手の弱点を攻略できることだ。さらにネットプレーでフィニッシュしてポイントにつなげられるのが望月の強みで、ウインブルドン初優勝への原動力にもなった。

 これは、望月が自分の弱点を理解しつつ、どうすれば活路を見出し勝利に結びつけることができるのか、試行錯誤を重ねたうえで生まれたオールラウンドプレーだ。

「パワーでは確実に勝てないので、できるだけ違うことで、何が自分の強みなのかを探りながらやった結果です」(望月)

 そんな望月の非凡な才能を岩本監督は次のように評価している。

「変則とまでは言いませんが、ネットに出るタイミングがうまい。望月の持っていたセンスのよさであり、見極めもいい。その点をグラス(天然芝)で活かせた。ネットプレー自体もうまい。まさに流れるような感じでネットにつめられて、相手の打ったボールに対して素早く反応できる」

 また、吉田さんは、望月のネットプレーだけでなく、バックハンドストロークのうまさには昔から目を見張っていた。

「もともとバックハンドストロークが得意ですね。タイミングの上げ下げができていて、習ってやるというよりは、元から備わっていた。」

 望月は、13歳の時に「盛田正明テニス・ファンド」の奨学金サポートを受けて、錦織圭も拠点にしているフロリダのIMGアカデミーで海外テニス留学を始めた。

「盛田ファンド」の卒業生である錦織にとって、望月のような後輩が活躍することを長い間待ち望んでいた。

「めちゃくちゃうれしいですよ。プレーを見ていても、この1年ぐらいで、すごく上達しましたし。楽しいプレーをするので、将来が楽しみな選手のひとりです」

 錦織は自身の経験も踏まえたうえで、今後プロに転向していくに違いない望月にアドバイスを送る。

「正直1位になったり、グランドスラムを取ったからといって、何の(将来の)保証にもならない。彼の活躍は、率直にうれしいですけど、まだまだプロのスタート地点にも立っていない。彼はすごく努力家です。まじめすぎる部分もあるので、そういう部分を、プラスにもっていければいいのかなと思う」

 錦織が、ATPのチャレンジャー大会やツアーの予選に果敢にチャレンジしていたのが17歳の時で、ツアー本戦に上がることもあった。望月は、来年17歳になるが、今後はジュニア大会よりも一般のプロ大会に挑戦する機会を増やしていくことになりそうだ。

「この人になりたいという感じはないですけど、自分の今やっていることを積み重ねて、自分だけのものをつくりたいと思っています」(望月)

 この思いを汲むかのように、吉田さんも教え子がプロテニスプレーヤーとして活躍する未来像を膨らませる。

「結果よりも、みんなが見て楽しいと思えるプレーヤーになってもらえたらいいかな。
“第2の錦織”というよりも、望月慎太郎としてテニス選手の形を築いてほしい」

 9月1日(現地時間)に始まるUSオープン・ジュニアの部では、世界1位の望月が第1シードになる予定で、ジュニア活動の集大成あるいはプロへの試金石となる戦いになるだろう。望月が再びグランドスラムタイトルを獲得できるか、大いに注目したい。