文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦谷村里佳は185cmのインサイドプレーヤーで、今年になって日本代表デビューを果たした。26歳と代表選手としては少々遅咲きだが、外に開いてシュートの打てるパワーフォワード、いわゆる『ストレッチ4』として指揮官トム…

文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

谷村里佳は185cmのインサイドプレーヤーで、今年になって日本代表デビューを果たした。26歳と代表選手としては少々遅咲きだが、外に開いてシュートの打てるパワーフォワード、いわゆる『ストレッチ4』として指揮官トム・ホーバスの信頼を勝ち取っている。さいたまスーパーアリーナにチャイニーズ・タイペイを迎えた8月の国際強化試合、その第2戦で起用されると、2本の3ポイントシュートを決めて6得点、さらに4リバウンドと結果を出した。

「私のやるべきことは3ポイントシュートです。役割が明確なので迷うこともないし、ボールをもらったら積極的にシュートを狙うことだけを考えていました」。日本代表が押し進めるスモールバスケットを完成させる最後のピースが、谷村なのかもしれない。

「迷わず全部打っていい、は信頼の証」

──今回の国際強化試合、手応えはいかがでしたか?

第1戦は出場機会がなかったので、相手のオフェンスやディフェンス、日本がどうしたら攻められるかをしっかり見て、それを今日のプレーに生かすことができました。自分がボールをもらったら積極的にシュートを狙うことだけを考えて、それはうまくできたと思います。

私に求められているのはとにかく3ポイントシュートです。ヘッドコーチからは「空いたら迷わず打っていいよ」と言われます。練習で指摘されるのも、打たなかった時に「今のは打っていいよ」というのが多いのですが、私は「打たなくて怒られるって幸せだなあ」と思って(笑)。普通なら「ここで打っちゃダメ」と言われますよね。「空いたら迷わず全部打っていい」というのはトムさんの信頼の証というか、これが自分の持ち味だと思ってくれているからです。

──シャンソン化粧品では3ポイントシュートがメインのプレースタイルではありませんよね。代表では完全に『ストレッチ4』ですが、意識はどう使い分けているんですか。

もともとメインは2点なんですけど、3ポイントシュートは空いたら打つ感じで、トムさんはそれを見て代表に呼んでくださったんだと思います。代表では4番ポジションで3ポイントシュートがメインとはっきりしていて、ゴール付近で2点を打つのではなく、ずっと外で合わせて3ポイントシュートって感じです。チームと代表では自分の役割は全然違いますね。チームで3ポイントシュートを求められていないわけじゃないんですが、私がチームで一番大きいので、まずはインサイドのプレー。3ポイントシュートは1試合で打っても2本か3本ですね。

もともと練習は好きだったので打っていたんですけど、中学、高校、大学と3ポイントシュートを打つ選手ではありませんでした。ずっとポジションは5番だったんです。シャンソンに入って2年目から4番ポジションをやるようになって、そこから試合で打ち始めました。

「もっと頑張れば、もっとできるようになる」

──前回のオリンピック、リオ五輪の時はまだシャンソン化粧品のルーキーでした。当時は選考にも入っていなかった谷村選手が、いまや日本代表に定着しつつあります。

リオの時はファンとして見ていました。同じチームの本川(紗奈生)さんを見て「すごいなあ」って(笑)。当時は自分が日本代表に入ることなんて全く考えていなかったです。

その意識が変わったのはシャンソンでの2年目ですね。初めてスタートで試合で使ってもらって、やっていくうちに「やれることが増えているな」と自分で気付いたんです。自分から見たらすごい選手を相手に点数が取れるようになって、「もっと頑張れば、もっとできるようになる」と感じました。そこからは「もっと上手くなりたい」という気持ちが今まで以上に出るようになりました。

──『ストレッチ4』としてのスタイルを確立したのはシャンソンでの2年目ですか?

2年目が終わった時に代表に呼ばれて、その時点でトムさんからは3ポイントシュートだと言われて、自分でも意識したのですが、3年目のシーズンが始まったら河村(美幸)のケガがあってチームでは5番に戻ったんです。ただ、そこでプレースタイル自体は変えなかったのが、自分にとっては良かったんだと思います。そこで5番の仕事だけをして、3ポイントシュートを打たない選手になっていたら、トムさんには見てもらえなかったはずです。だから2年目、3ポイントシュートを練習して試合で使えるようになったことが私にとっては大きな転機になりました。

──とはいえ、いくら攻撃面で武器があっても、ディフェンスで穴になるようだと評価は得られないですよね。女子の場合はリーグに外国籍選手がいないので、国際大会になると高さとフィジカルへの対応は難しいと思います。やっぱりディフェンスは大変ですか?

最近だと中国で試合をした時に、私は4番の選手とマッチアップしたんですけど、メインの長身センターにダブルチームに行ったり寄ったり、頭をすごく使ってディフェンスしなきゃならないと思って。常にいろんなことを考えて、ケアしてケアしてケアして(笑)。どのチームとやるにも絶対に高い選手はいて、そこにやられないよう一緒にカバーして守るのは大変ですね。

「打つだけじゃなくて決めなきゃいけないんです」

──渡嘉敷来夢選手が日本代表に復帰して、インサイドの先発は渡嘉敷選手と髙田真希選手が担うことになります。インサイドの3番手を目指す谷村選手としては、国際舞台での実績が十分すぎるほどある2人とどう絡んでプレーしたいですか?

髙田さんも渡嘉敷さんもすごい選手で、チームでは絶対的な存在です。そこで自分が残っていくためには、やはり3ポイントシュートの確率を上げることだと思うので、そこは誰にも負けないぐらいやりたいと思います。

今はアジアカップの12人に残ることが目標ですが、そのためにはプレータイムをもらえたら積極的に3ポイントシュートを狙うのが第一です。リバウンドもディフェンスも大事ですが、結局はトムさんに求められているのは3ポイントシュートだとはっきりしているので。どのチームも私が入った時間帯には、一緒に出ている髙田さんか渡嘉敷さんのどちらかを警戒してきます。2人ともダブルチームに行かないと止められない選手だと思います。だから私に3ポイントシュートを打つ機会は必ずやってくるはずです。

──なるほど、そこで『ストレッチ4』の出番というわけですね。

あとは打つだけじゃなく決めることですね。打てる選手はいっぱいいるんですよ。私はたくさん求められているわけじゃないので、一つの役割をしっかり果たせるように、確率をもっともっと上げていきたいです。私が決めれば今度は、髙田さんや渡嘉敷さんにダブルチームに行きづらくなります。そのためにも打つだけじゃなくて決めなきゃいけないんです。

あとは日本はディフェンスからブレイク、走るバスケットなので、私も与えられた時間で全力で守って走って打ちます。自分の役割を理解して、やるべきことを精一杯表現したいと思います。