「突き進め柏! 止まらない柏!」

 このチャントにあるように、柏レイソルの勢いが止まらない。

 8月25日の第29節FC岐阜戦を4-0で制し、これで第19節ジェフユナイテッド千葉戦から“リーグ戦11連勝”という破竹の快進撃。今、J2の首位をひた走っている――。

 昨季、J2降格の憂き目にあった柏は1年でのJ1復帰に向け、選手の流出を最小限に留めた。J2トップレベルの戦力で開幕前から昇格の第一候補と目されていたため、柏が首位を走っていることに大きな驚きはないだろう。

 だが、J2はそんな簡単なリーグではない。

 歯車がひとつでも狂えば、トップクラスの戦力を誇っていたとしても、1年でのJ1復帰どころか、数年間チームとして停滞してしまうパターンも少なくはない。「J2沼」や「J2は魔境」とサポーターたちが揶揄するように、J2を戦い抜くことは決して容易ではないのだ。

快進撃につながる瀬川の信念。

 事実、柏もシーズン序盤は苦しんだ。相手チームは守備を固め、キーマンを徹底的に潰してくる。個のレベルはJ1より劣れど、徹底した戦いを見せてくる相手に攻撃がかみ合わず、停滞感が生まれた試合も多々あった。リーグ開幕4連勝こそ飾ったが、第5節と6節で連敗、第8節から11節まで4戦連続引き分け、その後の第12節では今季J2に昇格した鹿児島ユナイテッドに1-2で敗れるなど、一時は大きく順位を落とすこともあった。

 しかしチームは、そこからV字回復以上の快進撃を見せる。しかも1試合2点以上の複数得点の試合が格段に増えた。ただの好調だけではないこの変化はなぜ起こったのか。注意深く見てみると、MF瀬川祐輔の存在に目が留まった。

 瀬川はエースのクリスティアーノに次ぐ得点源として期待されていたが、第2節の町田ゼルビア戦で今季初ゴールを挙げた以降は得点から遠ざかっていた。左サイドハーフとしてボールを受けることに注力し過ぎて、持ち味である裏抜けや動き直しを結果に反映しきれていないような印象を受けた。

 実際にスタメンから外れたこともあったが、それでも瀬川は「もっとリスクを負うべきところは負ってもいい。そうしないと攻撃に厚みが出ない。自分がそれをやり続けることで、いつかこのチームが持っているポテンシャルが引き出されると思っています」と、冷静にチーム全体と自分自身を分析し続け、その上で自分のプレーに信念を持っていた。

強いチーム=守りきれるチーム。

「これまでの経験から確かに言えることは、強いチームは守備がしっかり統率されているチーム、守りきれるチーム。その面で今年のレイソルの守備はボールの取り所が共有されているし、奪えなくてもプレッシャーをかけられる状況で、意図も持てている。

 あとはプレッシャーをかけるというか、クサビに対して誰も行かないことがない。たとえそのクサビが通っても受けた選手が自由に前を向いたり、仕掛けるプレーを簡単にはさせない。(新チーム)スタートから『レイソルはもっと強いチームになる』という感触は持っていました」

 守備はいい。だがその分、攻撃で停滞してしまう。開幕4連勝でも、開幕戦のレノファ山口戦で2-1の勝利を収めて以降はすべて1-0での勝利。4戦連続引き分けでも、FC琉球に1-1以外はすべて0-0だった。守備は機能しても、攻撃で複数得点が奪えない状況が続いた。

瀬川がゴールから遠ざかった理由。

 瀬川はその状況で、常にどう自分が動けば攻撃が活性化するかを考えながらプレーをしていた。だからこそ、結果が出なくてもその信念を曲げなかった。彼の言葉を鑑みれば、「レイソルは絶対に良くなる」という確信があったからこそ、迷うことなく突き進むことができたのだ。

「レイソルは素早いカウンターを得意としている。それは大きな武器として持ちながらも、逆にボールを落ち着かせてゆっくり回す機会が少ないからこそ、どれだけ自分がボールを受けたり、セカンドボールを拾うことでマイボールの時間を作ることができるかを意識してきた」

 右サイドハーフに入るクリスティアーノが高い位置に張り出し、サイドからの崩しを得意としているだけに、逆サイドの瀬川は全体のバランスを取らなければいけない。結果、ゴールという結果から遠ざかってしまう時期もあったが、それでもチームの攻守のバランスを整えるために、自己犠牲をいとわなかった。

「僕のトライに対して、ネルシーニョ監督はしっかりと見てくれていた。監督はダメだと言ったことを『絶対にやってはダメ』とは思っていなくて、『やってもいいけど、チームにリスクがあるんだったらそれはやらない方がいい』と方向性を示してくれていたのであって、それで縛りつけようとしていたわけではなかった。

 だからこそ、ゲームの流れ、チーム状況を見ながら、タイミングよく前に出る積極性や常に意識を前に置くことは凄く重要だと思った」

勝利を重ねるごとに出てきた柔軟性。

 シーズン序盤はボランチがそのポジションでプレーすることに固執しているように見えた。DFラインはあくまでCB2枚を中心に守り、ボランチはその前でブロックを作る。奪ったボールは素早くクリスティアーノや前に張り出したFWにつける。

 チーム戦術としては何の問題もないが、たとえば2列目でボールを受けたり、両CBの間にボランチが1枚落ちて、後ろを3枚にして、両ワイドやボランチラインを前に押し出すような展開が少なかった。ボールが落ち着かずに自陣と敵陣を行き来するような展開になることもあった。

 だが、11連勝中のチームを見ると、この瀬川の意識は徐々にチーム内でも共有ができるようになっていった。勝利を重ねるごとに攻守において柔軟性が出てきたのだ。

「ミカ(オルンガ)が僕らを信頼してくれるようになって、キープをしてから周りを使ってくれたり、ボールをはたくタイミングが早くなった。クリスに関しても徐々に全員が彼のやりたいプレーを理解し、うまく引き出せるようになった。

 僕自身もクリスがボールを持った時に、『これはチェンジサイドだな』、『これはクロス上げるな』、『ここに仕掛けてくるだろうな』とか、思い描いているプレーがわかるので、そこに僕や(江坂)任くんが連動して裏を取ったり、ボールを受けに落ちたり、絞ったりとプレー選択ができている」

「確信」に変わった岡山戦。

 ホームで迎えた第23節ツエーゲン金沢戦以降、瀬川は右サイドのクリスティアーノ、前線のオルンガを生かす存在として左サイドハーフにポジションを固定されると、さらにチームへの貢献度は高まっていった。

「僕の中で自分のやっていることや、レイソルに感じていたポテンシャルが『確信』に変わったのが、(第25節の)ファジアーノ岡山戦でした。この試合、僕も今季4点目が取れて、4-0で勝利することができたのですが、あの試合は終始僕らのプラン通りに試合を進められ、試合をしていて絶対に崩れない自信があった。守備のはめ方も相手のポゼッションの枚数の掛け方で変化できたし、チームとしての共通理解がピッチに色濃く出た試合でした」

一番大事にしているのはセカンドボール。

 続く、第26節FC琉球戦でも今季初の2試合連続ゴールを挙げ、今季5ゴール目をマークした瀬川。この辺りから柏の勢いは本物の実力となって加速し始める。

「クリスが前で残っている分、僕まで前で残ったら、後ろは6人(ダブルボランチと4バック)で守備をしないといけなくなる。クリスが前に残る意義はチームとして大きくあるし、欠かせない得点源だからこそ、逆サイドの僕が守備でしっかりとリスクマネジメントをしないといけない。

 その上で僕が一番大事にしているのはセカンドボール。セカンドボールは取れるか取れないかで試合の流れを大きく変える重要な要素。僕のサイドでセカンドが落ちそうなときは、自分がいち早く到達できるようにしている。そのために味方選手がクリアできそうかできないかの状況はしっかり見ている。

 たとえば、味方CBが相手FWとくっついた状態で競り合うときは、ボールは遠くに飛ばないので、近い距離まで戻ってあげる。もしフリーでヘッドやクリアしそうだったら、一発に裏に抜ける動きをする。左サイドバックの(古賀)太陽が相手のサイドハーフをマークして、そこにボールが入ったら、相手のコントロールミスを狙って挟みに行く。常に次ボールがどこに行くかを予測しながら、セカンドボールを拾っています」

 瀬川、江坂、ヒシャルジソンのトライアングルがセカンドボールを徹底して回収し、ボランチの一角の大谷秀和がDFラインに入ったり、両サイドバックの裏のスペースをカバー。こういったメカニズムは快勝した岐阜戦でもフルに発揮されていた。

クリスティアーノのスーパーゴール。

 7分、クリスティアーノが右サイドから目の覚めるようなスーパーミドルを決めたが、このゴールの裏には細やかな連動があった。

 岐阜が自陣でボールを回すと、左サイドにいたDFにボールが渡った瞬間、クリスティアーノがファーストプレスに行った。その動きを見た江坂が、ボールを受けに落ちてきた岐阜のボランチの塚川孝輝にプレッシャーを掛ける。

 さらにその動きを見た右サイドバックの川口尚紀は「塚川選手がサイドにいる馬場賢治選手の姿をちらっと見たので、絶対にここに来ると思って行きました」と、塚川の馬場への縦パスを完全に読み切って、スライディングでインターセプト。そのまま「クリスに預けるまでイメージができた」と、クリスティアーノにボールをつないだ。

 そして、「尚紀がクリスに出した瞬間に、僕は『クリスは絶対にシュートを打つ』と思ったし、シュートが引っかかると思ったので、僕はそのまま裏抜けの動きをせずに中央に戻って、セカンドを拾うか、カウンターになった時にすぐに潰しにいけるようにしました」と、江坂は攻守のバランスを考えたポジションに移行。

 こうした周りの連動に支えられて、あのスーパーゴールが生まれたのだった。

4-0のスコアに裏にある柏の強さ。

 そして、3-0と一気に岐阜を突き放してから後半に入ると、次は瀬川がチームを引き締めた。後半立ち上がり、ファールでプレーが途切れると、瀬川はすぐに中央の大谷のもとに駆け寄り、両手でジェスチャーを入れながら確認をしていた。

「後半から投入された相手3トップ右の8番(フレデリック)が、ワイドに張ってもらうタイプだったので、前半と同じように僕が中に絞ってから前に出ると、一瞬だけ左サイドバックの太陽のところで2対1の局面を作られてしまうようになったんです。8番はフレッシュだし、左利き特有のカットインからのシュートを持っていたので、前半のままの守備のやり方ではなくて、外をけん制しながら守備をして、太陽のところで数的不利を作らせないようにしたいとタニくん(大谷)に話しました」

 すぐに相手の攻撃のアプローチを見抜き、守備の修正を図ったのだ。

 52分にはスーパープレーを見せた。右FKを得ると、「僕の前がガラ空きだったので、呼びこんでシュートを打とうと思ったのですが、クリスがニアに蹴った瞬間、周りを見たら自分ともう1人しかいなくて、ボールを奪われたら2対5くらいのピンチになると思った」とすぐにポジションを下げた。瀬川の予測通り、岐阜は数的優位の状態でカウンターを仕掛けてきた。

「ボールホルダーの塚川選手には太陽が時間を遅らせていたので、僕は塚川選手の視線をずっと見て、どこに出してくるかを探った。そうしたら自分の奥を見ていたし、相手のFWが2枚くらい自分の裏にいると把握していたので、そこにロングボールがくると確信して、自陣に全速力で走りました」と、裏に抜け出したFWジュニオール・バホスへのロングボールに一瞬早く触れてクリア。瀬川の機転がなかったら決定的なピンチになっていた。

 結果は4-0という圧勝に見えるスコアだが、岐阜にもチャンスはあった。だが、どれだけ点差がついてもこうした細かい守備の連携、集中を怠らないことに、今の柏の強さの秘密がある。

「規格外」の2人を生かす。

 決してクリスティアーノ、オルンガというJ2では「規格外」と呼ばれる2人の力だけでこの快進撃が続いているわけではない。2人を支える周りの連動、統一された意識と自己犠牲があってこそ、彼ら2人が相応の力を発揮できている。その象徴的な存在が瀬川祐輔だというのが筆者の認識だ。

「チームとしてポゼッションの部分ではもっとよくなると思う。僕も含めて、選手のアイデアをもっと出し合って、ピッチで表現をしていかないといけない。ミカとクリスをもっと効果的に活かしながら、逆に彼らの前への推進力が止められた時に、僕や任くんやボランチ、両サイドバックが攻撃にもっと関わって、遅攻でも切り崩せるようになれば、より相手にとって脅威の存在になれる。レイソルはもっとできるんです」

 瀬川は岐阜戦後、こう言い切った。

 この言葉は、柏が今後より独走態勢に入り、もし1年でのJ1復帰が果たせた場合、来季にさらなる上を目指すための重要なベースとなるものでもある。

 11連勝を手放しで喜ぶのではなく、チームの伸びしろへの探求心を高めるキッカケに変えていく。柏レイソルの真価はまさにこれからにある。

(「“ユース教授”のサッカージャーナル」安藤隆人 = 文)