イギリスの新聞『The Telegraph』のインタビューに対し、世界ランキング195位のノア・ルビン(アメリカ)は「テニス業界ではアルコール依存と薬物の乱用が蔓延している」と語り、プロツアー…

イギリスの新聞『The Telegraph』のインタビューに対し、世界ランキング195位のノア・ルビン(アメリカ)は「テニス業界ではアルコール依存と薬物の乱用が蔓延している」と語り、プロツアー選手の生活が、決して多くのファンが思い描くような華やかなものではないと訴えた。23歳の彼は、2014年度「ウィンブルドン」ジュニアの部、男子シングルスで優勝した後、2015年にプロに転向。その後はキャリアの大部分をATPツアー下部大会であるチャレンジャー大会の参戦に費やしている。

自己最高位125位のルビン、ATPはトーナメント・シーズンを短縮し、賞金を増やすべきであると主張する。

「他のスポーツには適切なオフシーズンが設けられているが、それに比べて11か月続くテニスのシーズンは過酷すぎる。50位以内に入っていない選手は、よりポイントを得るために多くの大会への参加を強いられ、そのことで身体への負担も増えてしまう」

自らも怪我で苦しんできているルビンはこう語りつつ、長いツアー生活は身体への負担だけではなく心への負担も甚大だと続けた。

「11か月のシーズン中、多くの選手たちは1人で行動をしている」「多くの選手が無気力な試合をして、"八百長ではないか?"と言われたりするけれど、実際のところは、ただ疲れてしまっていたり、飛行機に乗り遅れたくないだけの様な場合が多い」

「孤独と失敗の積み重ねなんだ。常に自分が "できそこない" な気持ちになってしまう。ツアー生活は本当に大変で、休養する選手も少なくない。精神的に不安定になる人間も多い。アルコール依存や薬物乱用も多く見られる。それが、多くの選手たちにとって、プロテニス生活をするということなんだ」

ルビンは長いシーズンが選手たちに与える影響をこう語り、さらにこうした状況を悪化させる原因が賞金の低さにあることも言及した。

「現在の賞金のしくみにも問題はある。毎年増加するグランドスラムの優勝者への賞金を、予選敗退者にも分配できれば、彼らの経費をまかなえるはずだ。そもそも、多くのトーナメントで、十分な賞金が支払われていない」

ルビンは、問題の根はもっと深いと考えている。「僕が問題視しているのは、賞金だけではなく、テニスを観客がお金を払ってでも、見に行きたいと思えるスポーツにしなければと思う。グランドスラム以外のトーナメントは空席ばかりだからね」

この観客が少ないという問題は少し複雑だ。実は、グランドスラム以外の全トーナメントにおける観客動員数は、2018年に過去最高を記録している。しかしながら、上位選手のビッグマッチであっても、実際の観客数は少ない場合が多い。先日、行われた「ATP1000 シンシナティ」における、アンディ・マレー(イギリス)のシングルス復帰戦ですら、全体の半分ほどの席が埋まっているかどうかという状況であった。

「テニス界は今、死にかけている。ファンも以前と同じように熱狂的ではないし、新しいファン層も獲得できていない。8歳の子供に4時間ずっとテニスの試合を観戦させることはむずかしいし、そんなことは誰もしたくない。5セットマッチは必要ないんだ。誰がなんて言おうと、5セットマッチは必要ないし、ばかげている」

ルビンのこうした主張は、グランドスラムの熱気にかき消されてしまい、なかなか議論が進むことはないが、「若い観客を増やすためには、試合はもっと短い方がいい」というノバク・ジョコビッチ(セルビア)の発言や、アンディ・マレーも「長すぎる試合はテニス界にとっていいとは言えない」という言葉もあり、長時間に及ぶ5セットマッチはトップ選手からも疑問の声が上がっていることは事実だ。

「フェデラーがトロフィーを掲げている間に、ドイツやメキシコのチャレンジャー大会で戦っている選手たちがいることを、ほとんどの人が知らない」とも話すルビン。華々しい活躍の裏側に隠れたエピソードや、選手たちが抱える葛藤、熱い想いなどを伝えるインスタグラムのプロジェクトを始めた。

「Behind The Racquet—ラケットのうしろに」と題された彼のアカウントには、ラケットを顔の前にもった写真とともに、選手たちやテニス関係者がパーソナルな想いが投稿されている。ルビンは、記者会見で普段聞けない様な言葉、プレーヤーの生の声を伝えることで、プロ選手とファンとの距離を縮めたいと考えている。さらには、ファンが選手たちのアスリートとしてだけではない一面に触れ、テニスへの関心を高めてくれることを望んでいる。

また、怪我などが原因で一時的なうつ状態に陥り、メンタルに問題を抱える選手も少なくない。こうした問題にもスポットライトを当てることで、テニス界だけではなく世界を変えたいとルビンは夢見る。アスリートたちも生身の人間。彼らの語るストーリーには多くの人々が共感できるはずだ。困難を乗り越えながら、世界の舞台に挑戦する選手たちの言葉を読んだあとには、試合もさらに、面白く見えることだろう。

※写真は2014年度「ATP250 ウィンストン・セーラム」でのノア・ルビン

(Bryan Pollard / Shutterstock.com)

(テニスデイリー編集部)