海外メジャーの全英女子オープンを制して、一躍、時の人となった渋野日向子(20)。凱旋帰国後も休むことなく、日本ツアーに参戦し、多くのファンを沸かせた。 帰国初戦は、北海道meijiカップに出場。ただでさえハードなスケジュールのなか、関…
海外メジャーの全英女子オープンを制して、一躍、時の人となった渋野日向子(20)。凱旋帰国後も休むことなく、日本ツアーに参戦し、多くのファンを沸かせた。
帰国初戦は、北海道meijiカップに出場。ただでさえハードなスケジュールのなか、関係各方面への挨拶や取材対応などに追われて体調を崩してしまったが、初日「70」、2日目も「70」で回って通算4アンダー、9位タイで見事に予選ラウンドを突破した。
最終日はイーブンパーに終わるも、最後に連続バーディーを奪って、13位タイでフィニッシュ。渋野をひと目見ようと駆け付けた大勢のギャラリーの期待に応え、大歓声を浴びた。
「凱旋試合」でも素晴らしいプレーを見せた渋野日向子
そして圧巻だったのは、帰国2戦目となるNEC軽井沢72トーナメントだ。
「先週は(状態が)20~30ぐらいでしたが、今週はだいぶ回復しました。50ぐらい。練習も先週よりできました」と言う渋野は、初日から5アンダー、7位タイと好スタートを切った。そして、2日目も「68」と4つスコアを伸ばして、通算9アンダー、2位タイで最終日を迎えることになった。
凱旋優勝の期待がかかった最終日も、前半からスコアを伸ばして優勝争いを展開。ほとんどの観客が渋野の組を追いかけるなか、それに動じることもまったくなかった。逆に、全英女子オープンで見せたような強気のパットを随所に決めるなど、フェアウェーからグリーン周りまで二重、三重に取り囲んでいた大ギャラリーを魅了した。
ただ、最後のバーディーパットを決めれば優勝という、全英女子オープンと同じシチュエーションとなった最終18番ホール。およそ5mのバーディーパットを外した渋野は、返しのパーパットも外してボギー。惜しくも3位タイに終わった。
「何なんですかねぇ……。最後(のバーディーパット)だけ、めっちゃ緊張したんですよ。手が震えてしまって……。ただただ情けない」
ラウンド後、渋野はそう振り返ったが、全英女子オープンからの過酷なスケジュールに加え、異常とも言える周囲のフィーバーぶりに見舞われても、苦悩の表情を一切見せず、最後まで”シブコ・スマイル”を見せてプレー。そのうえで、優勝争いまで演じたことは、正直驚きでしかない。例年をはるかに超える観客、テレビの前にいた多くのファンの期待には、十二分に応えたはずだ。
渋野のこの奮闘ぶりには、ゴルフジャーナリストの三田村昌鳳氏も絶賛する。
「(帰国2戦の戦いぶりは)本当に大したものだと思う。あれだけ疲れているなかで、優勝争いまで演じたのは『やっぱり若さだな』というのが、率直な感想。けれども、全英女子オープンを終えて、とりわけ時差が大きいヨーロッパから帰ってきて、体調は完全ではないし、しかも異常な騒動の中でのプレーを強いられながら、(一打に)集中することができて、きちんとショットを打つことができる――その能力は、相当すごいと思う。
その集中力が、渋野の持ち味。いわゆる”切り替え”がうまい。強い選手というのは、打つ時以外は、あまり考えない。ゴルフとはまったく別のことを考えたりしている。つまり、人間というのは、たとえばラウンド中の4時間、ずっと集中していることはできない。そこまでのキャパがない。でも、その少ない集中力を、ショットの際に凝縮して使用できればいいわけで、渋野はそれができる。
彼女は、ティーショットを打ったら、すぐにそのことは断ち切っている。過去のことは振り返らず、次のショットまでは何も考えない。そして、次に打つ場所に来たら、そこで瞬時に判断して対応している。
逆に、アマチュアゴルファーとかは、ティーショットを打ったあと、そのショットについて引きずったり、『ライは大丈夫かな』『ラフが深かったらどうしよう』などと次のショットについても考えたりしている。要は、気持ちの切り替えがうまくできていない、ということ。そうすると、1打、1打に対する集中力が欠けてしまうし、思考も疲弊してしまう。
渋野がプレーとプレーの間で、キャディーと喋ったり、何かを食べたりしているのは、うまく”切り替え”ができている証拠でもある。おかげで、(ゴルフに対する)集中力を無駄に消費することなく、ストレスを抱えることも少ない。結果的に、ものすごく合理的なモノの考え方ができている。そうしたことが、今回の快挙にもつながったのだと思う」
ただ今後も、渋野がこれまでと同じように活躍できるかどうかは、「わからない」と三田村氏は言う。
「今までとはまったく違う環境のなかで、しかもこれまで以上にプレッシャーがかかってくるなかで、その苦難な状況に渋野が対処できるかどうか。そうしたなかでの自分をどうやって受け止めて、それに慣れて順応できるかどうか、という問題がある。どこかしらのメディアで岡本綾子プロが、『まだまだ先は長い……』とコメントしていたけど、まさに渋野がそう思えるかどうか。
全英女子オープンでは、本当に純粋無垢で、要するに『攻めて、どこまでいけるのかやってみよう』というチャレンジャーの気持ちで戦えた。だから、パッティングにしても、何にしても、無垢な状態でプレーすることができた。でも、これからは背負うものがとてつもなく大きくなってくるので、それをどうやって、自分の中で消化していくのか。そこは、大切なポイントとなる。
たとえば、これからは自分のキャラを出しにくくなってくると思う。プレーの合間に何か食べることにも注目が集まって、食べにくくなって、本当は食べたいのに、隠れて食べたりしなければいけなくなるかもしれない。ああいうのは、おおよそ緊張の裏返しで、渋野にとってはあれが気持ちを切り替える手段のひとつだったわけで。でも、それができなくなったら、気持ちの切り替えもうまくいかなくなって、逆にストレスになったりする可能性もある。そういうことにも慣れて、克服できるのか、そこが非常に重要になる。
マスターズを勝った選手がその後、ぜんぜん勝てなくなってしまうことがある。メジャーに勝ったあとというのは、そうやって本来の自分のゴルフができるようになるまで、ものすごく時間がかかるものなのだ。
ずば抜けた人間、たとえばタイガー・ウッズなどは、ジュニア時代から注目されてきて、いわゆる周囲の騒ぎとか、突然の変化にも慣れている。というか、そういう”自分である”という認識がずっとあるからこそ、それによってどんな状況にも自ら処理して対応することができた。
しかし、渋野の場合はまさしく”シンデレラ”だからね。これからが本当に大変だと思う。
まあでも、あの性格でさらっとやっていけるようになればいいのかな、という気もする。そのためにも、このオフが大事。その間に、環境がガラッと変わったことについて、少しでも整理整頓できれば、うまくやっていけると思う。本来の自分に戻って、これからもいいプレーを見せてくれるのではないだろうか」
はたして、渋野はこれからも持ち前の笑顔でファンを魅了し、彼女自身、楽しくゴルフができるのか。そうであることを祈りつつ、今後の彼女にも大いに注目していきたい。