ロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)が10年以上にわたりトップクラスを誇る一方、台頭する若手の少なさが憂慮されていた男子テニス界。し…

ロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)が10年以上にわたりトップクラスを誇る一方、台頭する若手の少なさが憂慮されていた男子テニス界。しかし、その状況はようやく変わりつつある。着実に成長している若手選手を、その生い立ちや人となりも合わせて紹介していこう。

今回取り上げるのは、2000年代生まれとして初めてATPランキングでトップ100入りし、今では19位につけるフェリックス・オジェ アリアシム(カナダ)。

ここ数年、多くの若手が台頭してきたが、中でも彼の急成長ぶりには目を見張るものがある。2000年生まれで、テニスコーチの父に教わって5歳の頃にテニスを始めたオジェ アリアシムは、2017年にプロへ転向。翌年3月の「ATP1000 インディアンウェルズ」で予選から勝ち上がり本選でも1勝をあげ、「全米オープン」で四大大会の本選に初出場。直後の「ATP250 成都」では当時23位のチョン・ヒョン(韓国)らを破り準々決勝に進出した。

2019年に入ると、「ATP500 リオデジャネイロ」、「ATP250 リヨン」、「ATP250 シュツットガルト」の3大会で準優勝し、「ATP1000 マイアミ」と「ATP500 ロンドン」でベスト4。リオデジャネイロからの15大会で初戦敗退はわずか2回だ。四大大会に関しては、「全豪オープン」は予選敗退、「全仏オープン」は内転筋のケガで欠場したが、「ウィンブルドン」では本選ストレートインで3回戦まで勝ち進んでいる。

世界ランキングは、シーズン当初の108位から89上がって19位。今年だけですでに12回もキャリアハイをマークしている。ATPツアーでの優勝経験こそまだないものの、若手として数々の記録を更新する19歳は、VOGUE最新号に取り上げられ、「長らく続くBIG3時代への大いなる脅威」「テニス界に嵐を呼ぶ存在」と紹介されるように、若手の中でも特に注目の存在だ。

プレースタイルは親友のデニス・シャポバロフ(カナダ)に比べるとやや守備的でスロースターター気味だが、動きは機敏で強烈なフォアハンドで攻撃することもできる。年齢に似合わぬ成熟したプレーと落ち着きを見せることから、フランシス・ティアフォー(アメリカ)には「まだ10代なのに35歳みたいだ」と評される。武器の一つは190cmを超える長身から繰り出すサーブで、今年6月にはサービスエースの多さ(1試合平均が去年の6本から17本に急増)をATPに称賛された。ビッグサーバーで知られた元世界1位のアンディ・ロディック(アメリカ)も「10代の時は動きもパワーもどんどん向上していくものだが、彼はそのいずれもすでに高いレベルにある。サーブもどんどんスピードを増していて、多くの選手の脅威となるだろう」と太鼓判を押す。

現役選手の多くも彼に注目している。オジェ アリアシムにジュニア時代を含めて5連敗中のステファノス・チチパス(ギリシャ)は「彼がいつかナダルやジョコビッチ、フェデラーと戦う機会が来たら、勝てると思う。来年か再来年にはトップ5に入るだろう」と発言。ジョコビッチも「非常に成熟していて、本当にナイスガイだよ。マナーを心得ていて、学ぶことに貪欲で努力家だ。若手選手の中で一番のお気に入りだよ。まだ10代だが、世界有数の選手の一人だ」と称賛。コート内外での礼儀正しさが似ているとも言われるナダルも「彼はちゃんと教育を受けたナイスガイで、スポーツに対して非常に情熱的だ。トップに立って優勝する姿が見たい選手の一人だね。それに値すると思うから」とエールを贈る。アンディ・マレー(イギリス)も期待の若手の一人にオジェ アリアシムの名前を挙げた。

急成長ぶりについて本人は、「ここ1年あまりで肉体的にも精神的にも大きく成長した。格上にも勝てるという自信が持てるようになったね。ストローク、リターン、サーブも良くなっている。以前はトップ20の選手を破っても、それを同じ大会の中で繰り返すことができなかった。でも今年は、これまでやってきた積み重ねのおかげでうまくプレーできている。自分のリズム、ビートを見つけられたよ」と分析している。

8月8日に19歳となった彼のアイドルは、同じ誕生日でちょうど19歳上のフェデラー。まだ対戦経験はないが、2017年にはドバイで彼から誘われて一緒にトレーニングを行ったという。「子どもの頃は彼との間にすごい距離を感じていた。まるで神のようにね。でもドバイで彼と話したりプレーすることによって、その距離がちょっとだけ縮まったよ」と回想。そんなフェデラーは19歳の時は世界35位で、ATPツアー決勝進出は1度のみだった。19歳になった直後に四大大会初優勝を果たしたナダルを別にすれば、オジェ アリアシムの早熟ぶりは際立っていると言えるだろう。

「子どもの頃、プレーしていない時の記憶がないくらいずっと練習していた。すごく幼い時から父に、プロのテニス選手になりたいと言っていたよ。テニスで一番好きなのは、まるでチェスのゲームか剣闘士の戦いのように、一種の決闘であること。二人の選手が向かい合い、どうやったら相手に勝てるかを探り合うんだ。そんなところに惹きつけられるね」と語るオジェ アリアシムにとって一番大事なものは、勝利ではない。「もちろん試合に勝てれば素晴らしいけど、それがすべてじゃない。僕にとって一番大事なのは、ボールをうまく打てた時の音を聞くことなんだ」

もちろん満足できるプレーが毎回できるとは限らないが、「できることをやるだけ。もっとうまくなるよう、練習あるのみ」と、日々の積み重ねの大事さを理解している。そこには、彼がトップ30に入っても「しっかり練習し、自分を見失うな」と助言する父や、「今の調子で続けていれば、いいことが起きるだろう」と激励した元世界1位のボリス・ベッカー(ドイツ)、10代の頃から活躍してきたナダルの存在も大きく関係している。

四大大会での優勝について「別に急いではいない。時が来るのを待つだけだ」と語っているが、今度の「全米オープン」は彼が最も得意とするハードコート。1年前はシャポバロフとの1回戦で暑さにやられて無念の途中棄権となったが、第18シードとして臨む今大会の初戦の相手は奇しくもそのシャポバロフ。前回の雪辱を果たせるだろうか。

(テニスデイリー編集部)

※写真は「ATP1000 マイアミ」でのオジェ アリアシム

(Photo by TPN/Getty Images)