第2弾では、5年ぶりにグラウンドへ舞い戻り、『打棒早稲田』復活へ向け尽力する徳武定祐打撃コーチ(昭36商卒=東京・早実)を特集する。在学時には主将として、伝説の名勝負といわれる早慶六連戦を経験。打撃コーチとしても、鳥谷敬(平16人卒=現阪…

 第2弾では、5年ぶりにグラウンドへ舞い戻り、『打棒早稲田』復活へ向け尽力する徳武定祐打撃コーチ(昭36商卒=東京・早実)を特集する。在学時には主将として、伝説の名勝負といわれる早慶六連戦を経験。打撃コーチとしても、鳥谷敬(平16人卒=現阪神タイガース)や青木宜親(平16人卒=現東京ヤクルトスワローズ)といったスター選手を多数輩出してきた。今回は『レジェンド・オブ・早稲田』たる徳武コーチに、これまでの経験や、秋に向けての取り組みなどを含めて語っていただいた。

※この取材は8月3日に行われたものです。

指導者と選手の『勝負』


取材に応じる徳武コーチ

――5年ぶりにコーチに復帰されました。就任に至った経緯を教えてください

 岡村監督(猛、第18代早大野球部監督)の時に(コーチを)やっていて、4年ほど間があって、選手との交流はあったんだけどグラウンドには行っていない状態で。一番の理由は小宮山監督(悟、平2教卒=千葉・芝浦工大柏)の依頼というか、「バッティングを見てもらえますか」という話からだね。普通は81(歳)になってコーチというのはなかなか日本中どこを探してもいないんだけど、私にも早稲田の血が流れているし、また監督が小宮山監督という長い付き合いをしている人で。小宮山という人は石井連藏(第9、14代早大学野球部監督)とかそういう人の脈を受けているからね、自分がやはり石井連藏の教え子であるし、まあそれが縁かなと思ってやってみようと。周りには結構反対されたんだけどね。でもやっぱり人間って壊れても受けざるを得ないものも人生であると思っているからね。最後のご奉公でできる限りのことをやってみようというようなことで受けたんだけどね。

――コーチをされていない4年間、野球部の成績などはどのようにご覧になっていましたか

 髙橋監督(広、第19代早大野球部監督)の1年目の春秋優勝(東京六大学春季リーグ戦、秋季リーグ戦連覇)の時は、岡村監督とか我々が見ていた選手たちが縦横に活躍していたということで交流があったんだけど、それ以降は何となく疎遠になっていたね。それに3年間優勝から遠ざかっているというのはね、やはり早稲田というのは1年か2年の間に1回は優勝していかないとっていうのがあったから気になっていたね、非常に。選手たち何人かは加藤(雅樹主将、社4=東京・早実)にしても何にしても交流はあったから、早稲田を気に掛けながら、でもグラウンドに行ったり球場に行ったりはしなくなっているという状況ではあったね。

――戻ってこられた時に、以前と比べて変化を感じられた部分はありましたか

 厳しさとかが足らないかなという感覚はしたね。早稲田っていうのは代々厳しくやってきているというのが我々の時もそうだったし、それからも早稲田は厳しいチームで。もちろんあいさつだとか、先輩後輩の序列の問題にしてもね。やはり早稲田っていうのは六大学でも模範になるチームだと我々は思っていたんだけども、そこと少しズレがあるかなっていうのを去年の秋来た時には感じたね。

――徳武コーチは鳥谷選手や青木選手など、プロで活躍されている選手も育てられてきました。そういった選手は学生時代どんな選手でしたか

 やっぱり貪欲に練習に取り組んだね。泥まみれになって、バットスイングも数多く振ったし、元気があってね、若くて活動的だったねみんな。青木なんかは怒られ役みたいな感じではいたんだけど、取り組む姿勢というのは厳しいものを持っていたしね。神宮でも元気はつらつ、スタンドの人たちにファイトを見てもらおうというような考え方のプレーヤーが結構多かったんだよね、当時は。やはり王道を歩いていくというのが早稲田の姿勢だなと俺は思っているしね、もう一回こう、年齢は選手たちとは違うんだけど、そういうものを一人でも会得してほしいなという思いでやっているんだけどね。

――現在も早大には加藤選手や檜村篤史副将(スポ4=千葉・木更津総合)などプロ志望の選手がいらっしゃいますが、やはり今おっしゃられたような部分は足りないものがあるのでしょうか

 でもやっぱり去年から取り組んで、毎日休まずバットを振ってきたから春あれだけの結果を残したわけだからね。2年生の春で首位打者を取って以来ずっと下降線をたどってきたわけだけど、4年の春に自分がキャプテンになって結果も残したということだしね。このままこの夏場を過ごして秋のスタートも良ければおそらくスカウトも目にとめてくれると思うんだよね。だからこれからオープン戦が始まって、法政戦、明治戦あたりまで彼のいいかたちを出していかせようと。そうすればプロのスカウトも黙っていないだろうと。それから檜村にしてもそうだね。小藤(翼副将、スポ4=東京・日大三)にしても。プロでやれるだけのものを持っているわけだから。本当にその、厳しさというものを持たないとプロではやっていけないから。何とかこっちの体験でね、厳しさとマナーをしっかり教え込んでいけばプロも放っておかないんじゃないかという気はするんだけどね。

――ご自身の現役時代と比べた時に、現チームとの差は今おっしゃられた厳しさなどの部分でしょうか

 やっぱりね、勝たないと評価されないわけだよ。我々の頃は、今でも伝説として残っている早慶六連戦というものを俺がキャプテンとしてやっているからね。自分としては大学時代に命懸けで死に物狂いでやって、何十年たっても光り輝く六連戦というものをやってきているから。ちょっと今の選手たちにそういうことを言っても、やはり勝たないとその味は分からないから、まず何をおいても勝つと。そうすると、すべてが、いろんな体験をやってきたことが生きてくるんじゃないかと。とにかく秋1回優勝すると。そうすると、今度4年生たちが社会に行ってもプロに行ってもそれが勲章になって頑張れるという。俺は早慶六連戦で天皇杯をもらっているから、人生をそれ以降ずっと勝ち組でやってきたわけで。早慶戦で負けていたらずっと負の人生を生きなきゃいけなかった。天皇杯を手にできたから80いくつまでいい道を歩いてきたというのがあったから、今の選手たちにも何があったって勝って、勝ち組の人生を行かなあかんということを知らしめたいんだよね。負けの中においては何も生きてこないんだよね。やっぱり何をしようがけんかしようが勝つと、周りの目もファンもOBもいろいろなところの目が向いてくるわけだから。今、春万全でやって早慶戦で惜しくも負けた、さあ夏の期間を過ごして今度どうかっていうちょうど節目のところで練習を続けているわけだから、ここを乗り切って、明治の森下(暢仁主将、4年)とかやっぱりいいピッチャーがいるけど、そういうのを打ち込んでとにかく優勝するということで、これからの早稲田にも良いものを残していけるわけでしょ。それは俺も監督も一番思っていることだよね。早稲田の伝統というのがあって、それを下に受け継いでもらっていくというようなことを考えながら、今の加藤に檜村にしろやってもらいたいと思っているんだよね。そこが一番大事じゃないかな。簡単にいかないんだけど、そこを何とかして手にしたい。それの手助けをできる限りしてやりたい。だから接戦になった時に何とかして点数取って勝つという早稲田の粘っこさとか。きょうのオープン戦(東北大戦、◯5xー4)でも最後に眞子(晃拓、教3=早稲田佐賀)という普段あまり出ていない選手からサヨナラ打が出るということは、周りの選手にもいい影響を与えたと俺は思うんだよね。彼はあまり大学に入ってから日の当たるところに来ていないわけだから。それがたまたまああいう状況の中でバッターボックスに立っていたという。その中で、あれが三振したりしたら消えていっちゃうわけだから。自分の何とかしなくちゃいけないという気持ちがあるからああやって抜けていくわけだから。で、チームにも活気を生むという。こういうのが少しずつ出てきながらシーズンに向かっていきたいんだよね。それがやっぱり早稲田の野球、『一球入魂』というテーマなわけだから。あの一打がやっぱりね、腹の飛び上がるほどうれしいわけだよね。たかがオープン戦といいながらも勝負なんだから、ああいうふうに一打出たというのは非常に良かったと思っているんだよね。そういうのが少しずつ出てきて、意外とリーグ戦でも勝っていって今度早慶戦で優勝が懸かるぞっていうシーズンを送りたいよね。そしたら盛り上がるもん。今まで何年間かそういうのがないんだから。今も汗水たらしてバットを振り込ませたんだけど、そういうのがどこかで生きてこないといけないんだよね。ふつう今までだったら試合終わったらそれで練習終わりなわけだよ。それを食事してからもう一回外に出て、汗だくになりながらもう一回振り込むっていうのが当たり前のようになってくるとチームは強くなってくる。試合が終わったらこれで終わりっていうのもそれは終わりかもしれないけど、食事したらもう一回出てきて夏の一番暑い時に振り込んでいるっていうのはどっかで生きるんじゃないかなと、俺はそういう気がするんだけどね。

――先ほどのお話にもあったように、思うように点が取れないシーズンが続いており、打撃力・得点力アップを期待されてのコーチ復帰だったと思います。特に昨年までは加藤選手のような力のある選手が実力を発揮できていませんでしたが、再生への具体的なプランなどはありましたか

 コミュニケーションをよくとりながらね、それは一気には変わらなかったよ。ずっと冬の間、室内でやったり、キャンプ行ってこうしたりオープン戦で試行錯誤して、お互い心がいらいらしてきたり、ずっと同じことを言われてもういいわ、というような時もあったよね。でも、やっぱり結果が出てくると、ここが指導者と選手の勝負なんだよね。春に加藤が前と同じ成績だったら一つもこっちには向いてこないんだよね。でもあれだけの結果を出したならば、やっぱり徳武の理論でやっていればいいものは出てくるっていうのが指導者と選手との勝負なわけだから。プロ野球でもそう。結果を出さなければいくらうまいこと言ってもなかなか指導者としても駄目なんだよね。だから選手たちも頑張ってうまい具合に3割バッター3人、4人出してベストナインも4人出したっていうところが春だったから、これが俺からしてみれば一つの土台となって、ここから今度も良いものを出していかないとなって考えているわけだよね。だから加藤も今度はまた首位打者争いをするとか、檜村がどうだとか、こういうものの結果が問われてくるわけだから、そこがもう勝負なわけよ。1割か2割しか打てなかったら俺がコーチをやっている意味合いがないわけだから。加藤とかも丁々発止やりましたよ。ああだこうだしながら、足幅どうしようか、スイングはああしようかこうしようかってやりながらずっと半年くらいやってきたわけで、それがシーズン入った時にいい方向にいってくれて。これはお互いの運の強さもあっただろうし、喜びに変わったよね。やっぱり加藤っていうのは去年おととしはのたうち回っていたんだから。もう自分のバッティングも分からなくなって、去年なんかはベンチに引っ込んだりといった状況にあった男だからね、それがやっぱり自分でもプロに行きたい、自分でも何とかしなきゃいけないっていうのが呼応したっていうことだからね。檜村にしても、何かがあったからリーグ戦で結果が出たわけで。今ではこっちも檜村のことを分かっているから、あと何日かすれば一対一で取り組んでいきながらまた作らないかんなと。小藤は小藤できのうおとといから取り組んで、その結果がきょうホームランに出たことが、本人からしたら「こういうかたちでやっていけばいいかたちがでるんだな」となってくれるのが俺からしたらありがたいことなんだよね。

――ここ最近は小藤選手とマンツーマンでやられていたのですね

 この2日くらい前にね。(秋季リーグ戦が)近くなって迷うというのが一番良くないから今のうちにということで、室内で30分くらい打たせて。「こういうのでいくぞ」というお互いの心をつくって、それできょうああいった立派なホームランが出るっていうことはね、それはやっぱり、本人からしても「徳武とやっていればいいものが出るな」と思わざるを得ないでしょう。一対一の特打をやった後だから。檜村はきょう2本打っているんだけど、俺から見ると春打っていた時のスイングじゃなくたまたま打っているだけで、崩れている。だからもうちょっとしたら本人と一対一で、春みたいなかたちのものにしようぜという話し合いもしているわけよ。バッティングコーチとしてはこういうことを言うのもあれだけど、100何人いる中で全員は見れないわけよ俺は。1軍で出てベンチに入っている10何人を集中的につくっていかないと。やっぱり全体っていうのはなかなか見れないんですよ。だから限られた何人かとやっているんだけど、やはりそういうのをシーズンまでにつくっていって、監督に渡して、それを監督が使うという図式になっているわけだよね。自分もプロで指導者というものを何年もやってきているからね、ちょうど谷沢(健一氏)なんていうのも中日に入ってきて、苦労したよ。全然インコース打てないんだから。それをもう取り組んでやっていって首位打者を取ったんだけどね。今の選手たちにもプロで教えてきて間違いないなっていうものを指導しているんだよね。だって俺は他の事は言えない。自分がやってきたことをやっていかないと。自分がプロで指導者としてやってきたことを教えていくっていうのが一番いいわけだよね。難しいよ、本当に。結果が出なければ駄目なんだから。だから、心と心のふれあいっていうかな、信頼し合うとか、そういうものが見えないところにないと。いま田中(浩康コーチ、平17社卒=香川・尽誠学園)がどういう考えでやっているか分からないけどね、今まで彼は指導者をやっていないからね。プレーヤーから今年コーチになったからどういう考えでやっているか分からないけど、俺なんかは何十年という指導をやってきているから、とにかく自分は間違っていないぞという精神で、それを思い込ませることが大事なんだよね。その辺を葛藤しながら。だけど81歳になって、7時の電車に乗って8時から練習ってのはえらいことよ。馬鹿かと思われる(笑)。でもやっぱり早稲田の血が流れてるからさ、どうしたってここら辺まで来るとガラッと気合い入れちゃって顔つきが変わっちゃうわけだから。それまではデーンとしながら電車に乗って来たってここら辺まで来りゃ、ぴしっとしないと選手に申し訳ないからね。

――小宮山監督も朝早いのには慣れないとおっしゃっていました

 監督はつらいもん。夜だって一番遅くまでいながら次の日も一番早くに来ているわけだから。まだ1年目で張り切っているからいいけど、監督っていうのはどんどんプレッシャ―がかかってくるわけで、体壊さなきゃいいなと思っているんだけど。でもやっぱり今まで早稲田っていうのは世間の認知度が少なかったと思うんだ。小宮山になって目が早稲田というものに向いてきていると感じるんだよね。今までだと何か早稲田って地味な感じの野球じゃなかったのかなと思っているんだけどね。でもやっぱり早稲田の野球っていうのは、OBたちが来てグラウンドを見ると「早稲田の選手は違うな」と思わせるようなのが一番だから。我々の頃はスタンドに5万人入ったんだから。早慶戦の時なんかは帰んないで徹夜して並ばないと切符買えないんだから。早慶六連戦をやっている時に、早慶で売り上げを分けたんだよね。今は六大学全部で分けているんだけど。だから早慶六連戦の時に35万人以上の人間が入ったから野球部はものすごく潤った(笑)。今は結構厳しい入場者だけどね、当時は「アリの入れる隙間もない」と表現する人がいたくらいにお客さんが入った。だからやる方も気合が入ってくるよね。お客さんも燃えてくるし。だから早慶戦っていうのはそういうのがあって今まで脈々とくるわけだよね。この秋の早慶戦はまた両方優勝が懸かってやりたいなあ。去年の秋は早慶戦に勝って、棚ぼた式に法政が優勝したんだろ。小島(和哉、平31スポ卒=現千葉ロッテマリーンズ)と岸本(朋也、平31スポ卒=現明治安田生命)がものすごい気合入って、普通は誰が見ても慶応の勝ちだよな。それが2勝1敗で。黒岩(駿氏、平31スポ卒)っていうのが超人的な活躍をしたんじゃないの。早慶戦の花形みたいな感じでヒーローになって。またそういうのを再現したいよね。昔も早慶戦男っていうのがいたんだよ。早慶戦になるとやたら強いっていうのが。だから今度も誰か早慶戦で強いっていうのが出てきてほしいね。やっぱり早慶戦で2位、3位っていうんじゃ面白くないもの。この春も明治が優勝決まっていたんだよな。(明大2回戦で)柴田(迅、社3=東京・早大学院)がゴロをはじいて、次のやつにセンターオーバーか何かの逆転ホームラン打たれて。あそこで1つ勝っているとまた違ったんだよな。1勝2敗とか2勝1敗っていうのはまた違うからね。0勝2敗とは。だからどこかにキーポイントっていうのがあって、この秋もまたそういうのが出てくるといいね。

○○は「『できる男』だと思っている」

――『鋭いスイングと強く速い打球』というのがテーマとおっしゃっていましたが、それを実現するためにどんな練習をされていますか

 やっぱり振り込むことだね。数多くバットを振らせるという。それと、強い打球を打つにはポイントがあるわけなんだよね。そのポイントを守らせた上で数多くスイングさせているんだけどね。これだけは守ってほしいというものがあって、それを去年から同じテーマを持ちながらやってきているから、それが実ってくれているわけだよね。そういう一つのスパイスっていうものがあって、強く速い打球になると。スイングが良くなってくると、打球っていうのはいいところに飛んでいくんだよ。逆にスイングが悪いといい当たりしても捕られちゃうっていうのがあるんだよね。きょうの加藤なんかもライナーがあったけど、いま加藤は少し崩れているから、あんないい当たりでも取られたら1打席ヒットが出ないわけだから。でもいいかたちでやっていると詰まったり、先っぽに当たってもヒットコースに飛んでいくっていうのが原理にあるんだよね。だから強く速い打球にはそういうポイントを俺が見逃さないでやって、振って体に染み込ませていくというのをやっているんだけどね。

――『投手に向かっていく姿勢』も重要だとおっしゃっていましたが、詳しく教えてください

 それが一番でしょう。向こうは崩そうと思って放ってくるわけだから。のけぞらせたりして。そこで向こうの術中にはまらないためには勇気でしょう。いかにして勇気でハッタリかまして向かっていけるかという。そのまま引いちゃっていたら打てないからね。だからアドバイスとしては、気を出すという。自分のへその下に丹田(たんでん)っていうものがあって、そこから気を出していくっていうことを選手たちによく言うんだけどね。やっぱりピッチャーに対して気を出せているということは、それだけ勢いをつけてバットを振れているということだから。のけぞらされても気持ちがしっかりしていれば、ぶつかってもいいやってまた向かっていける。そうしたらピッチャーのほうが観念してくるわけだから。だから気を出して、勇気をいかにして持てるかというのがピッチャーに対するときのバッターにとって一番大事なことなんじゃないかと思うんだよね。

――首脳陣の役割分担という面では、打撃は徳武コーチに一任というかたちでしょうか

 そうね。人間っていうのはいろんなところに簡単に口出しできるんだけどね。俺はきょうも選手に言ったんだけど、人間は岡目八目っていう言葉かあるように、見て「こうだよああだよ」っていうのは言える。でも自分自身のことはなかなかわからないんだよね。だから、だれかOBが来て、「君こうこうこうだよ」っていうようなのは一つも役に立たない。やっぱりバッターっていうのは意固地になって、自分が決めたことをやり通すんだっていう。そうすると他のコーチも簡単には言えないわけよ。責任があるわけだから。俺が選手たちにいろいろ言っているのは責任があるから言っている。他の人が勝手にああだこうだって言うんだったら「あなたがバッティングコーチをやりなさいよ」となっちゃうわけ。悪いときはその人は何も責任を取らないわけだから。そういうところが野球の中にしても組閣で大事なんだよね。てきとうなことをやっても長続きしないんだよね。そういう分担というのはしっかりしないと。だからいま守備コーチは田中がやっているんだから、俺が守備のことを選手に言ったとしたら「俺いまこういうことを言ったよ」というのを田中に報告しておけば何のいざこざもないわけね。それを俺が勝手に偉そうにやったら田中も面白くないし、選手たちも「どっちの話を聞いたらいいんだろう」となってプラスにならないわけだから。だから俺はバッティングには責任があるから、OBが来たとしても俺はNOって言うわけよ。その代わり監督は別だよ。監督はオールマイティだからね。監督っていうのはすべてだから、よっぽどじゃないと監督は選手に言ってこないわけだから。頭の悪い監督だったら平気でガンガン言うんだろうけど、ちゃんと野球を分かっている人だったら、「こういうふうに筋道立ててやっていかないと立場がおかしくなるぞ」というのを考えるからね。会社だって社長がいるのに専務がガタガタガタガタやったら会社がおかしくなっちゃうのと一緒だよ。監督は何に口出したっていい。悪いときは監督が責任取るんだから。バッティングは他の人たちに言わせないくらいの自信を持ってやっていかないと務まらないよな。朝起きた時に「きょうはこれをしなくちゃいけない」、夜寝る時に「あしたスイングはこうしなきゃいけない」、電車でここに来るまでの間も「こうしなくちゃいけない」って、担当になると責任があるからそういう考えになるじゃんか。ここだよね、大事なことは。世の中で間違うのは、飛び越していって何かやるからぎくしゃくしちゃって、そうなると選手に迷惑が掛かっちゃうわけだから。

――小藤選手から「冬くらいに徳武コーチと選手何人かでお話をされる機会があった」とお聞きしたのですが、どのようなお話をされていたのでしょうか

 各自10点ずつ打点を取れって言ったよ。取らなかったら飯を俺に食わせろって言ったのに、そのままになっているんだよ。やっぱり打点っていうのはチームが優勝するのに一番必要なわけで、加藤、檜村、小藤、福岡(高輝、スポ4=埼玉・川越東)、こういうやつらで50点取れと。一人10何点取らなければいけないけど、やりますって言うからじゃあ賭けようと。50点取ったら一流のところにお前らを飯食わせに連れて行くから、お前ら負けたら俺に何かしろよって言ったのにふいにしやがって(笑)。秋まで継続して打ってくれたらいいよ。まあやっぱり得点を取ってもらうっていうのが優勝に一番近付くわけだから、そういう意味でノルマ的にやったんだけどね。ちょっと大変かもしれないね。40点にしてもいいかな。40でも一人10点挙げたらすごいよな。だから10点下げてやろうと。そういうようなことをやりながら切磋琢磨していくのが選手も野球を楽しく思うし、気持ちの上で張りもできるしさ。ただやってりゃいいっていうんじゃ面白くないもんな。そういうところが、長いこと体験してきてずっとやってきているからふとそういうのが出るんだよね。40にするとやってくれるかもしれんね。このままだと加藤の代は四年間優勝なしで出ていかなきゃいけないだろ、これはつらいで。四年間やっていて優勝がないっていうのは。田中浩康がキャプテンの時も4年の時優勝がないんだよ。やっぱり4年生の時に勝つと社会人になった時にいい思い出になるんだよな。特に卒業する時に勝つとその後も残るよね。

――金子銀佑選手(教3=東京・早実)には「目立つ存在になれ」ということをおっしゃられたとお聞きしました。2番打者としての自己犠牲との狭間で悩んでいるようでしたが、金子選手についてはいかがですか

 打線の中で一つのキーマンなわけだよね。クリーンアップにつなげる一つの役割を担っているし、俺が見ても『できる男』だと思っているから、やっぱりそういうことをやると金子っていうのは自然と目立ってきて、それこそプロも放っておかないという選手に、なってこないといけないんだよ。何か華みたいなものをあいつは持っているわけだから。それで足もあるし。かたちもいいわけだから。ああいうのが一つの礎になってチームのためにやってきたら評価が上がってくると思うんだよね。そういう意味では金子は3割以上打って、相手から嫌なバッターだなと思われる選手になってほしいわけよ。春やってみてつくづくそう思ったわ。春は東大戦であいつホームラン打って、あれで駄目になっちった。あいつはホームランバッターじゃないわけだから。それよりもヒットを2本、3本打った方が彼の味が出てくるわけだから。そういうのを彼と話して、気持ちの中でフォームがぐらつかないようにして、自分はこれでいいんだというものをつかんでシーズンに臨むと。それで人のやれないようなことを自分が犠牲心を持ってやっていくとチームを引っ張っていく存在になれるんだから、やらなきゃ駄目だという話はしているんだけどね。だってあれが結果を出してこないと、チームとしてつながりがなくなっちゃうんだよな。瀧澤(虎太朗、スポ3=山梨学院)がいいバッターで、瀧澤とクリーンアップの間にいるわけだから。彼がいろんなことを考えて、犠牲心を持ってバッターボックスでやっていくとなるとチームが盛り上がってくるから。そういうところが俺の彼に対する注文なんだよね。本人もその気になっているのかな。

――早慶戦前の対談の際には、結構悩んでいるというような話をお伺いしました

 あいつ結構悩むんだよな。だけどリストもいいし、スイングもちゃんとやるからいいかたちになってる。あいつは人気者になるよ。プレーヤーとしてね。そうすると周りがだんだん放っておかなくなるっていうね。そういう選手になってもらいたいんだよね。そういうプロからも呼ばれる選手にしていかなきゃあかんなと俺は考えているんだよね。

――吉澤一翔選手(スポ3=大阪桐蔭)の野球に取り組む姿勢が良いとお聞きしているのですが、徳武コーチから見て特にどのようなところが良いと思いますか

 取り組む姿勢に必死さを感じてね。意外とあれ1年の時から出ていたのかな。それで(2年春には)ホームランも打っているんだよね。だから本来の吉澤っていうのに半分くらいしかいっていないんじゃないかと思うんだよね。もっと意欲的にやっていったらまだいい選手になれるんじゃないかと期待しているんだよね。こっちにいろいろな話も持ってくるし、そういう意味では金子あたりのライバルになっていくのがチームにとってもいいような気がするんだよね。技術的にいうとリストなんかが良くてパワーを持っているんだよね。それを今度発揮できるようなことになると、チームにとって不可欠な選手になってくるという。それを彼はできるんじゃないかなという話をしているんだよね。

――春季リーグ戦の終盤には当たりが出ていたように感じますが、それでも半分くらいなのですね

 まだ気持ちの持ちようが、あまりにも「打たなきゃ打たなきゃ」って強すぎるときにマイナスになっちゃう。もっと平常心でいった方が自分の力が出し切れると思うんだけど、ここで一発決めてやらなきゃいかんなとか、余分な力とか考え方とかを持つと内容が良くないんだよね。だから早慶戦なんかで反対方向に打ってやろうとかって思っていたのがいい結果につながったと思うんだよね。「ここで一発いってやろう」という力みが逆に彼にストップをかけてしまっているときがあるから、普通のかたちでやっていったら彼は力が発揮できると。メンタルの部分をあまりにも過剰になり過ぎないようにした方が彼はいいんじゃないかと。今度秋の早慶戦あたりに重要なポジションになってくるわけだから、そういう考え方でやっていくと、チームに不可欠な選手になってくると期待しているんだけどね。

――春季リーグ戦では中川卓也選手(スポ1=大阪桐蔭)がかなり苦戦されていました。中川卓選手についてはいかがですか

 高校日本代表でやっていた選手だけど、大学に入ってそう簡単にはいかないわけよ。六大学のピッチャーっていうのはそう簡単じゃないわけだね。高校では一流中の一流だったわけだけど。まあね、一番は最初の東大戦でね、いい当たりしたけどヒットにならなかったのがあったんだよね。あそこでヒットが1本か2本出ていると、気持ちがもっと違うかたちになって後もうまくいったんだけど、あそこでヒットにならなくって周りが打っているという中でジレンマに陥って、それがずっと尾を引いてきてシーズンが終わってしまったという。自分ではやろうやろうと思っているんだけど、それとバットスイングとのかみ合いが悪かったんだよね。でも、高校であれだけのことをやるんだからいいものは持っているわけだよ。だからいま取り組んでいるのは、春の体験を頭に置きながら、ここでもう一度かたちをつくろうと。いいものはあるんだけど、そりゃそう簡単にいったら野球ってものはつまらないよ。これを中川がいかにしてはね返して、シーズンでいいものを見せるかというのが勝負だろうと。これは俺にも責任があるわけだから、本人ともよく話していてね。秋にどういうふうにいくかっていうことを。いいものはあるわけよ。監督だってあれだけ我慢して使ったわけだから。俺も途中で監督に、「ちょっと他の者と変えて、一服させてみたらどうか」と言ったんだけど、監督が頑として、「全日本の3番を打っているような人間なんだから信じ込んで使わないかん」という姿勢で春やっていたんだよね。これを本人も感じているだろうし、こっちにも何とかしていいものを出さないかんというのがあるし。だから今は金子と中川をつくり上げないかんなと。あとはセンターに誰が入ってくるのかっていうこの三つが早稲田のこれからのテーマになってくると思うんだよね。これがきちっとはまれば、ある程度どこからでも点が取れる打線が組めるかもしれんしね。やっぱり『打棒早稲田』っていうのを俺は何としてもつくりたいっていう考えがあるから。春はある程度ヒットが出たからね、あとは打点。セカンドランナーを返すという勝負強いバッティングというものが出てきてくれるとなおさらいいなと考えているんだけどね。この1点を何とかして取るっていうね。

「自分が体験して良かったと思うことを今の選手たちにやってほしい」


ゲージ裏から選手の打撃練習を観察する徳武コーチ

――今おっしゃられたように、春は個々の打率は良かったものの、好機での一本がなかなか出ないシーンが多かったと思います

 それは気になっているし、相手も打たすまいと思って投げてきているわけだから、そう簡単にいかないのは分かっているんだけど、そこらへんが今の選手たちは気持ちの優しい選手が多くてね。そういう時の粘りとか、さっき言ったように気を出して強い打球を打つことによってセカンドランナーを迎え入れるというのがこれからオープン戦で選手らと話しながらやっていかなければいけないテーマでしょうね。いくら3割打ったって打点が5とかじゃいけないわけだから。2割8分でも打点が多ければ存在感も出てくるわけだからね。だから打点40は4人の中でやりながら、他の人たちがいかにしてランナーを返すかというのがテーマになってくる。そこに中川とか金子とかセンターを守るやつがどれだけの影響をそこに持ってきて、相乗効果がいい方向に向いてくれるかというのが秋のテーマだと思うんだよね。そりゃ点取るのは難しいでしょう。なかなかね。だけども取らなきゃ勝てないんだから。こっちもそれを頭に置きながら、チーム打率だけじゃなくて、打点も一番多いということになってくると、優勝争いができてくるかも知らんね。これは難しいんだけど、チャンスになった時に「何とかして打たないかん」という固さと、「もうちょっと楽にしていこう」というふうになるのかという選手の心理が難しいわけよ。あんまり楽にいってもあれだし、逆に固過ぎてもマイナスになってくるしっていうのがあるから。そこら辺の気の持ち方をオープン戦の時から意識して戦っていかないとなって思っているんだよね。向こうだって絶対点数をやるまいと思ってくるからね。ランナーが出た時はもっと気合が入ってくるわけだから、こっちもそれに負けないだけの気迫を持ってやっていかなきゃいけないっていう。バットが折れても気持ちが入ってりゃヒットコースに飛んで打点1になるかもしれんし。だからきょうも最後に打点が出たというのはスタートとしてはいいんじゃないかと思うんだよね。あれが引き分けで終わるんじゃなくて、ああいう眞子っていう人間がサヨナラ打を打って打点を挙げたというのがこれからずっといい効果としてつながってくれればいいなと思ってるわけよ。やっぱりあそこでゲッツーでも食らっていると「なんだやっぱり早稲田はいいところで打てないな」っていうふうになってくるし。逆にヒットが出ると「早稲田は楽しみだな」と。ここのギャップは大きいわけだからね。まあ何とか打点を多くするように努力していこうというのは俺の一つの考え方としてはある。これから選手たちとの戦いだね。

――春は1位が明大で、2位が慶大でした。その二校と早大との差は何だったのでしょうか

 いま振り返ってみると、慶応のピッチャー(髙橋佑樹、4年)相手にしたって、(慶大1回戦で)瀧澤がホームスチールして勝って、その次の時(慶大3回戦)に(早稲田が)なめてかかっているんだよね。いけるぞと。でも向こうのピッチャーはあの悔しさを3倍返しくらいで向けてきているわけだから、そしたらものの見事に3安打くらいしか打てない結果になっているわけだよね。だから選手たちにはやっぱり、なめて通用するピッチャーは六大学にはいないんだから、相手に向かっていく闘争心を持って打ち崩していくんだという考え方を通してやっていかなきゃいけないというのを感じてる。法政の三浦(銀二、2年)っていうのにしても、巷で「今シーズンは調子が悪い。先発で来るかわからない」って言われている中でそういう時に限って完封されている。それで2戦目に気持ちを固めていった時にいい結果が出ているわけだから。秋はやっぱりどんな時にしても上から目線じゃなくて、チャレンジ的なかたちで向かっていくのが一番ベターじゃないかなと俺は思っているんだよね。髙橋(佑)だってそりゃ屈辱でしょう。ホームスチールされて。それで月曜日(3回戦)来た時には気持ちが全然違っているわけだから。その気持ちに結果的に打線が圧倒されているわけだから。ヒット3本っていうのは考えられないよ、今の選手たちの力を見たら。勝った味を知っている選手だったらなめたりしないんだよね。勝ってないからそういう気になっちゃうんだよ。だからそれをこっちから話したり、いろいろなことをしていって、いつも挑戦していくんだという気持ちを持って神宮に入っていかないと。ちょっとでも油断して入っていったときには足元をすくわれるというのが、春やっていて一番思うんだよね。

――ここ最近で伸びてきている選手や、今後期待の持てる選手などはいらっしゃいますか

 やっぱり出ているやつでは金子と中川にいい内容のものを出してもらうという。それからきょうも2軍の試合を向こういってやっているんだけど、いい素材の者はいますよ。来季レギュラー取れるかもしれないというのがね。でも今はとにかく秋ベストメンバーでいって戦うということしか俺の頭にはないから、いま出ている選手たちをよりレベルアップさせて秋に臨まなきゃいけないなというのが強いよね。まあ来季は新チームになった時に取り組んでいくという。素材のいい者はいると俺は思っているから。だけど今は金子が頑張る、中川が頑張る、センターに入ったのがいいかたちでやってくれるという、それが他のメンバーの加藤や福岡たちとうまい具合にかみ合ったときにいいものが出てくるかなという気がしているんだよね。

――4年生に対して「秋、君たちは早稲田に野球部に何を残すか」ということを説かれたとお聞きしましたが、どのような思いが込められているのでしょうか

 とにかく自分が体験してなきゃ言えないんだけど、自分は早慶六連戦というものを体験しているわけよ。それで卒業するときにのたうち回って苦しんで勝ったというものを、今度は今の選手に味わってもらいたいわけよ。そういうことを思っているから言うことも厳しくなるし。嫌われてもいいから俺は自分が体験して良かったと思うことを今の選手たちにやってほしいという一念しかないんだよね。石にかじりついてもやり遂げるという、心の奥底の自分が持っている魂というものをいかにしてこれからシーズンの時に発揮できるかという、その一念しかないんだよね。それをやれば今の4年生から次の世代につながっていくということになるわけだから。それが早稲田の伝統だから。優勝するには大変だけど、やっぱりみんなが頑張っていって。今でも60年前のことを思い出すけどね、大変だったよ、優勝するっていうのは。天皇杯ってこんなにすごいものなのかと。俺は試合終わった後アンダーシャツを替えて整列して天皇杯もらったんだけどね。だって5戦目にノーアウト満塁だよ。9回裏、慶応(の攻撃)。どこに飛んだって1点入ってそれでおしまいなわけだから。サードを守っていて「ああもう俺駄目だ」と思ったもん。神宮はナイターがなかったからほの暗くなってきているわけよ、4時ごろで。もう俺引き分けになってもらいたいと思ってタイム掛けてベンチ行って監督に「引き分けに…」とか言って間を持ったんだよね。サードランナーが慶応の一番足の速いやつで、バッターは4番。状況としては慶応の(勝利)9分9厘だよ。我々にはもう1厘しかないわけ。で、レフトが肩が弱くて、ライトに肩の強いやつがいたから監督が4番だしレフトに飛ぶと思ってレフトとライトを交換したわけ。そしたら1球目打ったらライトに飛んだんだよ、打球が。「あー終わったな」と思って、サードランナーがスタートを切ったよ。そしたらものの見事に肩の弱いやつが一世一代のバックホームをした。あんなの何球も投げられないよ。キャッチャーがミット構えたところにバコーンと来て、かわそうとしたランナーを追っかけてタッチして、アウトよ。ダブルプレーでツーアウト二、三塁。だんだんほの暗くなってきてもう球があんまり見えない。次ピンチヒッターを敬遠してツーアウト満塁。そして、その次のバッターを三振。それで5戦目が終わったのよ。その時に俺がもっと早い回で打っていれば決着がついていたわけ。俺にプレッシャーが掛かっちゃって、当時ドラフトがないからプロ11球団からスカウトが来ていて。で、キャプテンだし勝ちたいしで頭がパニックよ。眠くてしょうがないんだけど床に入ったら目がさえちゃって寝れないの。その夜に監督室に呼ばれたわけ。石井連藏に。それで「徳武、おまえプロどこ行くか決めろ」と言われたわけよ。見かねたんだろうね、監督が。「はい分かりました、ここに入ります」。そこで初めて俺が自分の気持ちをぶつけてチームを決めた。そしたら何か知らないけど肩の力がスーっと抜けちゃって、次の日の6戦目で俺はヒット3本打った。で5対1か2で6戦目を勝ったと。だからそういうドラマチックなものってものすごくあるんだよ。もうフライがライトのちょっと横にいってたら終わりだよ。慶応の大勝利だった。それが本当にいい球放ったんだよ。だから今の早稲田でも秋誰かがそういうふうになってほしいと。春でも瀧澤があんな考えられないホームスチールをするわけよ。誰も思っていなかったよ。テレビも追っかけられないんだよな。それで次のインタビューの時に「癖が分かっていた」とかってしゃべったんだよ。だまってろっちゅうに(笑)。知らんぷりして「たまたまやったんだ」って言えばいいのに(笑)。でも瀧澤ってのは偉いよな。ずーっと髙橋(佑)の癖を見抜いていたんだから。全く同じことをやったからダーっときたんだよな。あれはすごかったよ。だからそういうふうなドラマチックなものがいい早慶戦をやった時にはあるんだよ。秋に優勝するには何かそういうものが出てくるっていうのが大事なんだよ。この選手に回ったら不思議とヒットを打つっていうのがね。そういうふうに秋臨みたいわけ。それが中川にしろ金子にしろ出てくればさ、野球の流れが全然違ってくると思うんだよね。早慶六連戦ってのはすごかったよ。本当に。今でも伝説として光り輝いているもん。ああいう早慶戦はないもん。きょうも引き分け、次も引き分けってなると他の四大学の選手たちがブーブー文句言うわけだよ。もう決めろって。またきょうも帰ってあした来なくちゃいけないって。それで5戦目に来てまた帰って6戦目に来て。今度秋の時は、俺はすごいビデオを持っているわけだから、それを早慶戦前に選手にね。今までもったいなくて見せられなかったけど、今度一回見せて、その時の画面を見ながらどれだけ選手たちが感動を自分のものにして早慶戦に臨むかという。春勝てば良かったけど春負けているから、今度は手を変えて何かそういうのを見て。1回見たら心がワーっと盛り上がるようなビデオをね。だから今年の秋に何か面白いことができるかっていうのが大事だね。だけどやっぱり小宮山監督が引っ張り込んでくれてこうやってやっているっていうのは、辛いけどありがたいと思う時もあるよ。他の人にはできないんだから。他にこんなことやっている人日本全国にいないんだから。81で指導をやっているというのはね。

――ありがとうございました!

(取材・編集 池田有輝)


『打棒早稲田』復活の先にあるのは、8季ぶりの栄光です!

◆徳武定祐(とくたけ・さだゆき)
1938(昭13)年6月9日生まれ。東京・早実高出身。1961(昭36)年商学部卒。打撃コーチ。御年81歳の徳武コーチ。「選手たちは孫以下の年齢だから、向こうもおじいちゃんだと思っているんだよな」とにこやかに話してくださいました。しかし、ひとたびグラウンドに出れば表情は一変。歳を重ねても、野球への熱い思いは現役の選手たちに引けを取りません!