海外女子メジャーの今季最終戦、AIG全英女子オープン(8月1日~4日/イングランド)の最終日、最終組でプレーした渋野日向子(20歳)が大歓声に包まれながら、最終18番グリーンに上がってくる姿をグリーン奥から見つめていた。多くの女子ツア…

 海外女子メジャーの今季最終戦、AIG全英女子オープン(8月1日~4日/イングランド)の最終日、最終組でプレーした渋野日向子(20歳)が大歓声に包まれながら、最終18番グリーンに上がってくる姿をグリーン奥から見つめていた。多くの女子ツアーのトーナメントを見てきたが、1人の選手に対して、観衆がこんなにも味方した試合を見た経験は、これまでなかった。

 グリーン上、入ればメジャー初優勝という緊張の場面だったが、当の渋野は相変わらず軽やかな笑顔を浮かべていた。ラインを決めて躊躇なく打った5mのバーディーパットは、スライスラインを描いてカップの向こう側に一度当たったあと、見事に沈んだ。

 その瞬間、グリーンを取り囲んで見守っていた大ギャラリーは、歓喜に沸いた。喜んだのは、観衆だけではない。決勝ラウンドの2日間、最終組でともにプレーしたアシュリー・ブハイ(南アフリカ)も、思わず両手を上げてガッツポーズ。イギリス国内のテレビ放映を担当していたスカイスポーツのリポーターも、右手を大きく上げていた。同様に、この試合を見ていた世界中のゴルフファンが、テレビ画面の前で歓喜し、叫んでいたに違いない。

 そんな大歓声のなか、渋野が「入っちゃった!?」といった驚きの様子で、歓声に応えてお辞儀をしながら笑い続けている姿もまた、印象的だった。



渋野日向子に世界中のゴルフファンが注目している

 日本勢としては42年ぶり、1977年に全米女子プロ選手権を制した樋口久子以来、2人目のメジャー制覇という快挙である。しかし、この勝利が世界のゴルフ界にもたらしたものは、それ以上に大きなものだった。

「スター誕生」「カリスマ、セベ・バレステロスの再来」「今、ゴルフ界が求めていたもの」……これらはすべて、世界のメディアが伝えた”渋野評”だ。

 アメリカ国内で今回の全英女子オープンを放映した三大ネットワークのひとつ、NBCテレビは2日後に同大会の視聴率を発表。その数字は、2014年にミッシェル・ウィー(アメリカ)が勝利した全米女子オープンに次ぐ高視聴率だった。

 世界のゴルフファンが魅了されたのは、渋野の笑顔とそのプレーの速さだった。それによって、「ゴルフはこんなにも楽しいものなんだ」と、あらためて多くのファンに知らしめた。その意味は、本当に大きいと思う。

 3日目、首位に立つプレーをした渋野は、すでに大会の”主役”だった。多くのギャラリーから行く先々で声援を送られ、ハイタッチの手を差し出されていた。そして、その一つひとつに手をかわしていた渋野が、18番ティーに向かう時だっただろうか。小さな子どもが、渋野にグローブをねだった。

 それに気づいた渋野は立ち止まり、しゃがみ込んで自らのグローブにサインをして、その子どもに手渡した。プレー中にはあまり見られない、珍しい光景だった。無論、その映像も世界中に流されていた。

「えっ? ダメですか? だって(子どもは)無視できないじゃないですか」

 ラウンド後、そのシーンについて問われた渋野は、そう言って屈託なく笑った。爽やかな笑顔そのままの、渋野のそんな思いやりにも、世界のファンは魅了されたことだろう。

 その渋野の笑みは「シンデレラ・スマイル」と呼ばれ、「笑顔はユニバーサルランゲージ(世界共通語)」であることを、再認識させてくれた。

 そしてもうひとつ、渋野の決断力の速いプレーも、世界中のファンを惹きつけた。セカンド地点では、渋野があまりにも早くショットを打つので、テレビカメラマンから「渋野のショットを取り逃した」と嘆く声が聞かれた。それほど、渋野のプレーはスピーディーだった。

 スロープレーは、ゴルフ人口減少の大きな要因のひとつ。ゆえに、渋野のプレーは「今のゴルフ界に最も必要なこと」と称賛された。

 さて、世界の舞台において衝撃的なデビューを飾った渋野には、世界中から今後の動向についての関心が集まっている。

 渋野は今回の勝利で、アメリカLPGAツアーのメンバーになる資格を得た。今季の残り試合から、すぐさまフル参戦、あるいは来季からルーキーとして参戦することも可能だ。しかし、渋野本人は「まだまだ日本で腕を磨きたい」と、主戦場を移すことを考えていない。

 渋野のその気持ちは十分に理解できるが、今すぐにでも米ツアーに参戦して活躍してほしい、という思いもある。日本のファンに限らず、世界中のファンが彼女のプレーを見たいと思っているからだ。

 ともあれ、これから5年間、渋野はメジャー勝者として、全米女子オープンなどメジャー大会に挑戦することができる。そうして、いつか準備が整ったら、戦う舞台を世界に移すかもしれない。その日が来ることを、世界中のファンとともに待っていたいと思う。