サマーリーグが終わり、FA選手の争奪戦もほぼひと段落して静かな時期を迎えているNBA。10月の開幕に向け、八村塁が所属するワシントン・ウィザーズのチーム構成も、おおよそ見えてきた感がある。サマーリーグで大きくアピールした八村 昨シーズン、…

 サマーリーグが終わり、FA選手の争奪戦もほぼひと段落して静かな時期を迎えているNBA。10月の開幕に向け、八村塁が所属するワシントン・ウィザーズのチーム構成も、おおよそ見えてきた感がある。



サマーリーグで大きくアピールした八村

 昨シーズン、32勝50敗でイースタン・カンファレンス15チーム中11位に終わるなど、近年のNBAにおいて存在感が乏しくなっているウィザーズは、今オフに大改革を行なった。とはいっても、大物スター選手を獲得したわけではなく、変わったのはフロント陣のほうだ。

 16年にわたってウィザーズを支え、今年4月から暫定でGMを務めていたトミー・シェパードが、正式に新GMに就任。ほかにも、地元ワシントンの名門であるジョージタウン大学の元HCや、NFLのクリーブランド・ブラウンズの元GMなど、実績がある人物たちをチームに引き入れた。ウィザーズの筆頭オーナーであるテッド・レオンシスは、まずはチームの基盤となる”ブレーン”を充実させたということだろう。

 転換期を迎えているウィザーズは、適切な方向に舵を切ったように思える。長年エースを務めてきたジョン・ウォールが今年1月にアキレス腱を断裂してチームを離脱しており、今シーズンは全休することが濃厚。トレードが噂される2番手エースのブラッドリー・ビールがチームに残ったとしても、ウィザーズが上位に進出することはありえない。昨シーズンより勝率を下げる可能性も十分にある。

 今シーズンは、新たなフロント陣と新たなキーマンたちによる”再出発”の年。目の前の勝利を目指すのではなく、若手を積極的に起用していくはずだ。ドラフト1巡目(全体9位指名)でチームに加入した八村もプレー時間は多くなるだろうが、実際にはどんな役割を担うのか。また、ファンにとっては「開幕スタメンはあるのか」というところも気になる部分だろう。

 米スポーツ専門チャンネル『ESPN.com』が発表している、ウィザーズの予想布陣(Depth Chart)は以下のとおりだ。

※左から、スターター候補、2番手、3番手……という順番
【PG(ポイントガード)】
イシュ・スミス、アイザイア・トーマス、タリク・フィリップ、ジョン・ウォール

【SG(シューティングガード)】
ブラッドリー・ビール、CJ・マイルズ、アイザック・ボンガ

【SF(スモールフォワード)】
トロイ・ブラウン・ジュニア、ジェメリオ・ジョーンズ、ジョーダン・マクレー、 アドミラル・スコフィールド

【PF(パワーフォワード)】
八村塁、デイビス・ベルターンス

【C(センター)】
トーマス・ブライアント、イアン・マヒンミ、モリッツ・ワグナー

 このチャートどおりであれば、先発5人はスミス、ビール、ブラウン、八村、ブライアントとなり、日本人のルーキーはいきなりスタメン入りを果たすことになる。

 八村はサマーリーグでの4戦で平均19.3得点、7.0リバウンドという数字を残し、ファンや関係者を安心させた。ポテンシャルも高く評価されており、トレーニングキャンプ、プレシーズン戦の仕上がり次第では、開幕スタメンを任されても不思議はない。

 しかし一方で、冷静な声が多いのも事実だ。米スポーツサイト『The Athletic』のウィザーズ番記者であるフレッド・カッツは、PFのスタメンをこう予想する。

「おそらくウィザーズは、ベルターンスをPFの1番手に据えて開幕に臨むだろう。八村もプレーする機会はあるだろうが、彼をいきなり難しい状況に放り込むべきではない。そもそも、昨シーズンの制限区域(Restrickted Area)でのFG成功率がリーグ最高だったブライアントの隣でプレーする選手として、ベルターンス以上に適したPFはいないかもしれない」

 ラトビア人のベルターンスは、昨シーズンはサンアントニオ・スパーズの一員として76試合(スタメン12戦)に出場し、平均8.0得点、3.5リバウンドを挙げた。目を引く数字ではないと思われるかもしれないが、特筆すべきは3ポイントシュートの成功率が42.9%だったこと。これはフォワードの全選手の中で2位の高確率であり、特にコーナーからの3ポイントは60 %という驚異の高さだった。

 ベルターンスのハイレベルのシュート力は、オールラウンダーのビール、インサイドの軸になるブライアント、突破力のあるトーマスらのプレースタイルとうまくフィットするだろう。だとすれば、NBAで4年目を迎える26歳の”ストレッチ4(相手チームのディフェンスを広げ、攻撃スペースを作るPF)”に、まずはスタメンを任せるのも悪くない。

 八村の素質は誰もが認めているものの、NBAレベルでのロングシュート、ディフェンス面でも不安は残っている。シーズン当初はプロの水に慣れ、その不安を解消していくことが先決。そのためにも、先ほどのカッツ記者の言葉どおり、しばらくはセカンドユニット(控えメンバー)の一員として起用されたほうがのびのびと動けるように思える。

 もちろん八村はプレー時間を増やすことを目指し、トレーニングキャンプから全開で臨むだろう。そこでの頑張りが認められ、いきなり先発で起用されることがあったら”エキサイティング”なことではある。ただ、徐々にNBAに慣れていく先に選手としての明るい将来があると考えれば、”開幕スタメン”の名誉も取るに足らない。ウィザーズ首脳陣も、数年後に目を向けた我慢強い起用をするのではないだろうか。

 繰り返すが、今シーズンはウィザーズが勝ちにいく年ではない。負けながらさまざまなことを学び、来年度のドラフトでも有望な選手を獲得したいところだ。そうして数年の間に頭角を現した選手を、残留していた場合のビール、2020-2021シーズンに復帰してくるウォールと組み合わせるのが理想の形になる。そんな未来に向けて足を踏み出したウィザーズで、新体制の軸のひとりとして期待される八村も伸びやかに成長していってほしい。