「やっちゃいましたね、本当に。なんで勝っちゃったんですかね。本当にいらんことしてしまった、ハハハッ(笑)」 日本女子ツアーを席巻する「黄金世代」のひとり、渋野日向子(20歳)がとてつもない快挙を成し遂げた。今季女子海外メジャーの最終戦、…

「やっちゃいましたね、本当に。なんで勝っちゃったんですかね。本当にいらんことしてしまった、ハハハッ(笑)」

 日本女子ツアーを席巻する「黄金世代」のひとり、渋野日向子(20歳)がとてつもない快挙を成し遂げた。今季女子海外メジャーの最終戦、AIG全英女子オープン(8月1日~4日/イングランド)において、世界を驚かす圧巻のゴルフを披露。3日目を終えて単独トップに立つと、最終日も世界トップクラスの面々との競り合いを制して、頂点に立ったのだ。

 渋野にとっては、初の海外試合であり、初の海外メジャー挑戦だった。しかし、その大舞台にあっても、彼女に気負いはなかった。期せずして優勝争いを演じることになっても、楽しんでプレー。最後まで持ち味である”攻めのゴルフ”を貫いて、1977年の全米女子プロ選手権を制した樋口久子以来、日本勢としては42年ぶり、2人目のメジャー制覇を果たした。



全英女子オープンを制した渋野日向子。photo by Getty Images

 とにかく大会を通して、渋野から重苦しい緊張感が伝わってくることはなかった。大会前も、渋野らしい(?)スタンスで、メジャー初挑戦の抱負をあっけらかんと語っていた。

「イギリスですか? 楽しいと思います、ハハハッ(笑)。(コースは)なんか『イギリスっぽくない』って、めっちゃ思いました。日本っぽいかな、と。芝生の感じも『北海道みたいな洋芝だ』と思ったので、やりやすいのかな、と。練習もいつもどおりにできたので、まだ緊張とかまったくしていなくて。メジャー感もまったくないです。周りの人たちを見て、外国人が多いな、と。

(目標は)私は、予選通過ができたらいいかなと思っているんですけど、コーチとトレーナーは『来年の出場権(上位15位タイ以内)をとる』と勝手に言っています、ハハハッ(笑)。私は知らないですよ。まずは予選通過が目標で、予選を通過したら、また上位争いができるようにしたいですね。

 グリーンは練習した感じではまったく読めていなかったので、たぶん手こずるだろうな、と。コーチがキャディーを務めてくれるんですけど、コーチもあまりパターは得意じゃないので、(グリーンを)読むのが下手な者同士でなんとかがんばります(笑)」

 迎えた初日、渋野はいきなり世界を驚かせた。「手こずるだろう」と言っていたグリーンも攻略し、7バーディー、1ボギーの「66」でラウンド。世界的には無名の存在ながら、トップと1打差の6アンダー、2位タイと好スタートを切った。

「出来すぎのスコア。正直、びっくり。(スタート前は)初めて(の海外メジャー)なので、苦しい1日になると思っていました。実際、前半はボギーから始まって、なんとか耐えてイーブン。でも、後半に爆発できて。(自分でも)なぜ? みないな(笑)。

 前半はパッティングがかみ合っていなかったんですけど、10番で長いパットが入って、そのあと(11番で)ショットでもピンにつけて、そこでバーディーが取れて、流れに乗れました。(以降は)なんでこんなにバーディーが取れるのか、『気持ちわるぅ』って思った。

 ピン筋を狙っていこうと思ったのは、(4番で)ボギーを打ってから。グリーンの傾斜が結構ピンに向かっていたので、右からピンに向かって寄せようと。グリーンが止まるので狙いやすかったのもありますが、やけくそでピンを狙っていました(笑)。

 今日の出来ですか? 出来すぎなので、120点。いつもスロースターターなので。初日がいい時は、だいたい(成績が)悪い。最終ホールで、キャディーをしてもらっているコーチと(スコアがよすぎて)『やべぇな』という話をしていました」

 2日目も、渋野は”攻めのゴルフ”を見せて、4バーディー、1ボギーの「69」。通算9アンダーとして、単独2位の座をキープし、目標の予選通過を難なくクリアした。

「今日は、バーディーパットを決めたいところで何個か入らないところがあったんですが、ボギーを最小限に抑えられたところはよかった。プロテストを合格して1年ちょっとですけど、(目標の)予選ラウンドを通過できて、『今年は本当に調子がいいんだな』と思いました。その理由はわからないんですけど(笑)。1年前は(日本ツアーの)レギュラーツアーに出られていればいいな、と思っていたぐらいですから。(日本ツアーでも2勝している)今の状況は本当にびっくり。みんなも、びっくりですよね? 本人もびっくりですから(笑)。

 今日も朝は緊張していなかったんですけど、パターが入っていくじゃないですか。それで、変な(上位の)順位に自分がいくわけじゃないですかぁ~。それで、『やべぇな』と思って(笑)。そこから、だんだん自分で緊張してきた。こんなの初めてですよ。微妙な距離のパーパットを打つときは、全部緊張していました。

 予選を突破して学んだことですか? なんだろう……何を学んだんだろう……。いろいろと学びに来たんですけど、何も学んでないな、どうしよう……。この成績が自信になっているか? これで自信になったら(自分は)天狗になってしまうので、ならないと思います。とにかくあと2日間、どうせ緊張すると思うので、そのなかでどれだけスコアメイクができるか。自分にプレッシャーをかけるわけではないですが、自分との戦いでがんばっていこうかなと思います。それで、来年の出場権が得られる順位で上がれれば」

 3日目、決勝ラウンドに入って渋野がついに単独トップに立ってフィニッシュした。初日と同じく7つのバーディーを奪って、「67」をマーク。通算14アンダーまで伸ばして、2位に2打差をつけて最終日を迎えることになった。

「3パットでボギーにしてしまうのが一番嫌いで、それを(9番で)やって、ブチッと切れた。スコアも8アンダーまで落ちて、すごく悔しかった。でも、『あとハーフある』と気持ちを切り替えて、10番でバーディーをとったことで、気分が楽になりました。(後半は)悔しさからピンしか狙っていかなかったのですが、そうやって強気にいけたのがよかったと思います。

 明日? この位置なら、優勝も狙わないわけにはいかないですね。でも欲張らず……、優勝を狙うのに欲張らずっていうのも変ですけど、攻めていかないことには優勝はないと思うので、しっかりと攻めていきたい。吐きそうなくらい緊張するかもしれないですけど、がんばります。

 地元ファンの声援? 楽しいです。小さな子どもたちもハイタッチとかしてくれて、うれしかった。子どもたちの声援は、めちゃくちゃ可愛くて、すごく癒されました」

 そして最終日、歴史的な歓喜の瞬間が訪れた。3番で4パットのダブルボギーを叩いて一度は首位の座を譲るも、この日も得意のバックナインで爆発した渋野。日本のファンに限らず、世界中のファンが驚愕する”超攻撃的なゴルフ”で、途中からトップに立ったリゼット・サラス(アメリカ)を猛追。最終18番ホールで劇的なバーディーパットを決めて、メジャータイトルの栄冠を手にした。

「ウイニングパットは、入れる気ではいました。(実際に)入るかどうか、そこまで考えている余裕はなかったです。(2打目の時点で)プレーオフはしたくないと思っていて、バーディーを取るか、ボギーを打つか、3パットするか、シャンクを打つか……ハハハッ(笑)。(セカンドは)ピンを狙って打ちました。で、最後(のパット)も強気でいって、壁ドンで入ったんで、『やり切ったー!』って思いました。

 一番緊張したのは(3番で)4パットしたところ。(パーパットとなる)返しの下りのパット。あの距離は緊張しました。ちょっと震えていたかもしれないです。自分の思っている方向に打ち出せなかったので。

 優勝を意識したのは、10番でバーディーをとってからです。そこで、私が14アンダーになって、トップが15アンダーでしたよね? それで、まだ1打差だったので『イケるわ』『まだ(優勝を)狙えるわ』と思って。(初日と3日目と)後半で「30」をマークしたのも10番でバーディーをとった時だったので、10番でバーディーが入ったときに、『まだイケるかも』『このあといいスコアができるかもしれない』と思いました。

 この興奮をもう1回? それって、海外でプレーするってことですか。う~ん、味わってみたいのかなぁ……。できれば、こういう思いはもうしたくないですけど(苦笑)。この4日間、本当につらかったので。笑っていましたけど、気疲れが半端ないんで(笑)。あの(上位の)位置にずっといることで、かなり気を遣っていたと思うんで。何回『疲れた』と言ったか、何回『帰りたい』と言ったか。

 今回優勝してうれしかったけど、(私は)『日本が好きだな』とあらためて思いました。日本でもっとレベルアップして活躍したい、という思いはこれからも変わらないと思います。とりあえず、今年の目標は(日本ツアーでの)賞金1億円突破なので、それに向けてまたやります」

 樋口がメジャーを勝って以降、日本人選手がメジャータイトルに近づいたことは何度かある。だが、その最終日に見た光景の多くは、外国人選手がスコアを伸ばしていくなかで、ズルズルと後退していく日本人選手の姿だった。

 ゆえに今回も、3番ホールで渋野がダブルボギーを叩いた際には、頭の中で嫌な予感をかすめたファンもいたのではないだろうか。しかし、渋野は違った。果敢に攻めて、勝敗のカギを握るバックナインでスコアを伸ばして、世界一線級のプロたちを振り切った。

 渋野のゴルフは、見ていて気持ちよく、本当に楽しかった。それこそ、勢いを増す「黄金世代」の真骨頂かもしれない。新たな時代に突入した日本女子ゴルフ界の今後がますます楽しみだ。