■スポアナ アスリートレポート■ 『webスポルティーバ』をご覧の皆様、はじめまして。TBSアナウンサーの上村彩子(かみむら・さえこ)です。土日のスポーツ番組『S☆1』や、『SUPER SOCCER』、TBSのスポーツ中継などを普段担当…
■スポアナ アスリートレポート■
『webスポルティーバ』をご覧の皆様、はじめまして。TBSアナウンサーの上村彩子(かみむら・さえこ)です。土日のスポーツ番組『S☆1』や、『SUPER SOCCER』、TBSのスポーツ中継などを普段担当しています。
この連載コラムでは、私が取材した大会でのエピソードや舞台裏の出来事、インタビューでお話をお聞きしたアスリートの魅力や意外な一面などを伝えていきたいと思います。月1、2回更新していければと思うので、これからよろしくお願いします!
最初のテーマは、9月の世界陸上に向けて、さらに注目度が上がってきている日本男子短距離についてです。先日、福岡で行なわれた日本選手権も現場取材に行ってきましたが、東京五輪に向けて各競技の熱戦が続くなか、とくに100m決勝にはこれまでにないほどたくさんのお客さんが詰めかけました。観客席は超満員。北京五輪・男子4×100mリレーで銀メダルを獲得された髙平慎士さんも「陸上にこんな日が来るとは……」と驚くほどでした。
現在の日本男子短距離界は、サニブラウン・ハキーム選手が9秒97、桐生祥秀選手と小池祐貴選手が9秒98と、3人が100mで9秒台を記録。また、山縣亮太選手が10秒00、多田修平選手が10秒07、飯塚翔太選手とケンブリッジ飛鳥選手が10秒08と、世界トップレベルの記録を持つ選手が増え続け、競争がさらに熾烈になっています。
その選手たちが出場した世界リレーとゴールデングランプリでは、私はウォームアップエリアのリポートを担当したこともあり、練習での日本チームの和気あいあいとした雰囲気を見ていたのですが、その時は仲間だった選手たちが、日本選手権ではライバル同士。それぞれ「こいつには負けない」という気迫が全身から出ていて、世界リレーの時からは想像できない緊張感がありました。
とくにそれを感じたのは、決勝で選手が入場する時。桐生選手の次にサニブラウン選手が入場したのですが、桐生選手を紹介する場内アナウンスは「前日本記録保持者」。そのコールの瞬間、会場の雰囲気が一気に「ピリッ」として、直後に「現日本記録保持者」のサニブラウン選手が入ってきました。結果は、サニブラウン選手が10秒02(向かい風0.3m)の大会新記録で優勝。雨中のレースを制したのです。
レース後、日本陸上連盟の方にデータを特別に見せてもらったのですが、スタートからゴールまで、スピードの低下率がもっとも少なかったのが、優勝したサニブラウン選手でした。ストライドも一番大きくて、歩数も一番少なく、それらのデータが強さを証明していました。
また、サニブラウン選手本人が、「(9秒台まで)あと0.03だったのでなんとも言えないタイム。世界はまだまだ化け物みたいな人が多いので、このままじゃ全然ダメ」と話すのをミックスゾーンで聞いた時は、目指しているレベルがもっと上なのだなと痛感させられました。さらに、9月の世界陸上について聞かれると「表彰台に上りたい」と答え、前回は逃した世界陸上の100m決勝に進むことが最終目標ではなく、その先の「メダルを取ること」を見据えているのです。
日本選手権100mの優勝はサニブラウン(中央)。2位は桐生(右)、3位が小池(左)だった。photo by Getty Images
大学からアメリカに行き、自分より速い選手たちとトレーニングを積むことがそうした考え方に影響をしているのだと思いますし、世界トップレベルを肌で感じているからこその発言。こうした環境という点について、2017年世界陸上の男子4×100mリレー銅メダルの藤光謙司さんがおしゃっていたことが印象的でした。
「海外に拠点という、僕らがやらなかったことをやっていてすごい。早く気づいて挑戦すべきだったかもとは思う。彼が新たな道を切り拓いてくれている」
つまり、アメリカの大学に行くことや、海外を拠点にすることの準備を、中学、高校時代からしておくこと、その意識を早くから持っておくことが、これからはさらに重要になってくる。実際、サニブラウン選手は中学、高校の時から英語を勉強して準備をしていたといいます。
サニブラウン選手は以前、『S☆1』のインタビューでこう言っていました。「Practice makes perfect」──。これはフロリダ大の監督がいつも言っていることで、練習の重要性を常に言われているそうです。こうした環境で自分の走りを突きつめているサニブラウン選手は、これからまだまだ伸びていくのだと思います。もちろん、日本国内でも、この先9秒台を出す選手が増えていくでしょうし、競争が激しくなって今よりもっと切磋琢磨していく環境がつくられていくはずです。そして、サニブラウン選手が結果を出し続けることで、日本の育成環境が刺激を受けてより良くなることも考えられます。
そのサニブラウン選手も走る可能性が高い世界陸上の4×100mリレーは、誰が何番目に走るのかを予想することが楽しみのひとつ。サニブラウン選手は大学では2走になることが多いですが、拠点がアメリカなのでバトンパスの練習が一緒にできないという不安材料もあるため、9月の世界陸上ではアンカーが濃厚と見られています。あるいはケンブリッジ選手が4走になることもあり得ます。そして、桐生選手が得意な3走を務めると考えると小池選手が2走。また、1走は実績のある山縣選手や多田選手が候補になってきます。
今年の世界陸上でチームの連係、信頼関係が高まってくれば、来年の東京オリンピックでの走順もまた変わってきて、サニブラウン選手がバトンを受けて渡す2走になる可能性も十分あります。さらに、リーダーシップもあり抜群の安定感もある飯塚選手、ダイヤモンドリーグ・ロンドン大会で4走を走った白石黄良々選手もいます。たくさんのパターンに悩んでしまうほどメンバーが揃っていることにワクワクしてしまいますよね。
世界リレー前のインタビューで、桐生選手はこう話していました。「東京で金メダルを目指しているけど、今のままではちょっときつい。個々の走力をもっと上げないと」。この先、ライバル国もバトンの練習に力を入れてくることが予想されます。チームの総合力を上げて、アメリカ、ジャマイカ、イギリスなどの強豪国に競り勝っていけるよう、日本チームが積み上げてきた技術・伝統を引き継いで、お互いが刺激し合って一丸となって進んでいってほしいです!
プロフィール
上村彩子(かみむら・さえこ)1992年10月4日千葉県生まれ。