「リオデジャネイロ五輪テニス競技」(8月6~14日/オリンピックテニスセンター:バーハ・オリンピック・パーク/ハードコート)の男子シングルス準々決勝で、母国の観客に支えられたブラジル人選手を相手に長いこと苦しんだ末、ラファエル…

 「リオデジャネイロ五輪テニス競技」(8月6~14日/オリンピックテニスセンター:バーハ・オリンピック・パーク/ハードコート)の男子シングルス準々決勝で、母国の観客に支えられたブラジル人選手を相手に長いこと苦しんだ末、ラファエル・ナダル(スペイン)が強烈なバックハンドで最終的に主導権を取り戻し、ブレークチャンスを生み出した。

 おそらく、ブラジルの旗を振るファンたちの怒りを危惧し、ナダルは感情表現を抑えていた。彼はここまでのリオで見せてきたように、飛び跳ねたり、拳を突き上げたりはせず、「バモス!」と叫びもしなかった。

 ナダルは観客の大部分が自分に敵対するアウェー環境に対処しつつ、世界54位のトーマス・ベルッチ(ブラジル)を2-6 6-4 6-2で破り、2008年北京五輪以来となる2度目の男子シングルス金メダルを目指し、準決勝に進んだ。

ラファエル・ナダル(スペイン)

 左手首の故障のため、2ヵ月半を回復とリハビリに費やしてきたナダルは、「大会のための準備がまったくできなかったから、いったいどういったわけでこうもことがうまく進んでいるのかわからないほどだ」と言う。

 前回のロンドン五輪金メダリストのアンディ・マレー(イギリス)もまた、男子シングルスで2度金メダルを獲得する最初のテニス選手になることを目指し、一歩一歩進んでいる。しかしこの日の彼はスティーブ・ジョンソン(アメリカ)に6-0 4-6 7-6(2)で勝ったとはいえ、ナダル以上に厳しい接戦をくぐり抜けることになった。

 「もう少しで負けるところだった」と試合後、マレーは言った。彼は2試合連続で第3セットでブレークを許してリードを奪われたにも関わらず、なんとか挽回勝ちに成功している。

 「こういうことが大会が進むにつれ、自分に有利に働くこともときにはある。だんだんフィーリングがよくなり始め、少しリラックスできるようになるってことがね」

 土曜日に行われる準決勝で、ナダルは2009年全米オープン覇者のフアン マルティン・デル ポトロ(アルゼンチン)と戦うことになった。一方、マレーが対戦するのは日本の錦織圭(日清食品)だ。

 1回戦で世界1位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)を倒したデル ポトロは、この日の準々決勝でロベルト・バウティスタ アグート(スペイン)を7-5 7-6(4)で下した。

 日本の錦織圭(日清食品)はガエル・モンフィス(フランス)と対戦し、最終セットのタイブレークで一時0-4と劣勢に立ったものの、そこから巻き返して7-6(4) 4-6 7-6(6)の大接戦の末にモンフィスを退けた。

 シングルスの準決勝で何が起ころうと、ナダルは少なくとも1つのメダルを手に、リオをあとにすることになった。ナダルは同日夜、マルク・ロペス(スペイン)とペアを組んだ男子ダブルス決勝で、フローリン・メルギア/オリア・テカウ(ルーマニア)を6-2 3-6 6-4で破り、金メダルを獲得した。

 膝の故障のために2012年のロンドン五輪出場は叶わず、完全に治癒していないという左手首の故障を抱えて今年のリオ五輪にやってきた男にしては、悪くない結果である。

 「彼はキャリア最高の時期にはいないかもしれないが、かなりいいプレーをしているのは確かだよ」とベルッチは言った。

 ナダルは元世界ナンバーワンで、これまでに「14」のグランドスラム・タイトルを獲得している。サンパウロに住むベルッチもまた左利きだが、ふたりの類似性はそこに留まる。ベルッチは2010年の全仏オープンで初めてグランドスラムで4回戦に進んだ少しあとに、キャリア最高の21位に至った。リオ五輪開始時のベルッチの今季戦績は11勝18敗だった。

 ところが、危ういスタートを切ったのはナダルのほうだった。第1セットのナダルは10本のアンフォーストエラーをおかし、ウィナーはわずか2本だけだった。2度ブレークされ、ブレークチャンスは一度もつかめていない。

 第2セットでナダルは舵を正した。5-3から一度ブレークを許したものの、フォアハンドのランニングパスを決めて次のゲームですぐにブレークバックし、勝負をファイナルセットに持ち込んだ。

 第3セットの序盤でナダルはフォアハンドを打ち損ねたあとに、足でコートを蹴った。その際にはフラストレーションのサインであるかに見えたのだが、エンドチェンジのときにナダルはベンチで靴を脱ぎ、メディカルスタッフを呼んでテーピングを施した。

 そして、治療のための長い中断のあと、ナダルはブレークを果たして3-1とリードを奪い、そのままの勢いで試合に決着をつけたのである。 

トーマス・ベルッチ(ブラジル)

 敗れはしたが、ベルッチは間違いなく会場の雰囲気を楽しんだ。

 ファンたちはナダルのミスや、ときにサービスのフォールトにさえ喝采を送り----これは通常、テニスではやってはいけないことだが----ベルッチの素晴らしいショットにはあたかも各ポイントに勝負がかかっているかのように、轟轟たる拍手と歓喜の声を捧げた。

 ベルッチがゲームを取ると、彼らはサッカーのエールのやり方で「オレ、オレ、オレ、オレ、トーマス、トーマス!」と歌った。彼らはベルッチが敗れたあとにさえ、このコーラスを繰り返したのである。

 「僕にとっては、本当に素晴らしい雰囲気だったよ」と試合後、ベルッチは言った。(C)AP