「リオデジャネイロ五輪テニス競技」(8月6~14日/オリンピックテニスセンター:バーハ・オリンピック・パーク/ハードコート)の大会7日目、男子シングルス準々決勝。 錦織圭(日本/日清食品)は敗北を覚悟していたはずだ。そして見て…

 「リオデジャネイロ五輪テニス競技」(8月6~14日/オリンピックテニスセンター:バーハ・オリンピック・パーク/ハードコート)の大会7日目、男子シングルス準々決勝。

 錦織圭(日本/日清食品)は敗北を覚悟していたはずだ。そして見ているほうにとっても、敗戦は免れないと思われた。しかし、錦織は第3セットのタイブレークで3-6と追い詰められるも、2つのマッチポイントをしのぎ、相手のダブルフォールトで追いつくと、その勢いのまま5ポイントを連取して逆転勝利を収めた。  7-6(4) 4-6 7-6(6)。敗れたガエル・モンフィス(フランス)は失望してすぐにコートを去り、錦織はタオルをかぶり、しばらくベンチに座ったままだった。彼は喜ぶと同時にほっとしていたが、最後は少しの運にも助けられた。しかし、これで準決勝に進み、夢見ていたリオでのメダル獲得まであと一つに迫った。  第3セットのタイブレークまで、試合内容はほぼ互角だった。最終的にはアンフォーストエラーが51本を数えたモンフィスのほうが、よりリスクをおかして戦っていたといえる。ただ、最後に明暗を分けたのは6-5のマッチポイントでの痛恨のダブルフォールトだろう。  しかし、このタイブレークで錦織はいきなり0-4とリードを奪われた。そこからウィナーを決めてミニブレークで初ポイントを奪い、続くポイントでモンフィスがミスをすると、チェンジエンド。錦織が追いつきそうな雰囲気だったが、モンフィスが盛り返して6-3としてトリプルマッチポイントをつかんだ。あと1ポイント、数本のナイスショットで勝負は決まる。このとき錦織は何を考えていたのか?  「もう何も失うものはないと、開き直ることができた。タイブレークの序盤は少し集中力が欠けていたのかもしれない。でも、そこからよりアグレッシブに戦おうと思えた」  最初の2つのマッチポイントで錦織は実際にアグレッシブに戦ってものにし、3つ目ではモンフィスがかなりリスクをおかしてきた。セカンドサービスでも強打して、ネットにかけてしまったのだ。  「あそこで運があったのは自分でもわかっている」と試合後に錦織は振り返る。この“プレゼント”をもらったあとは、一度もミスをおかさなかった。  モンフィスも最後まであきらめずに戦い、パッシングショットに飛びつくが返せず、錦織がマッチポイントを握る。最後はモンフィスのバックハンドがラインを越え、こちらは3つもマッチポイントを必要とせずに、一発で勝負を決めた。  モンフィスは明らかに失望した様子でアリーナをあとにした。「勝つためにすべてを試みたが、自分自身を責めることはできない」と試合後に語った。3つ目のマッチポイントでリスクをおかした場面については、沈黙を貫いた。  準決勝で錦織は2012年ロンドン五輪の金メダリスト、アンディ・マレー(イギリス)と対戦する。マレーは金曜日にスティーブ・ジョンソン(アメリカ)に6-0 4-6 7-6(2)で勝利。相手を圧倒したのは第1セットまでだった。その前のファビオ・フォニーニ(イタリア)との3回戦で見せたような、弱さ、不安定さを露呈してしまった。  錦織のマレーとの過去の対戦成績は1勝6敗。唯一の勝利は2014年にロンドンで行われたATPファイナルでの試合だ。

 「アンディとの試合では、もっといいプレーを見せなければならない。彼に対しては長いこと勝てていないから。でも今大会は、何とかよいスタートを切れたので大きなチャンスだと思う」  錦織がメダル獲得にここまで近づいたのは初めてのことだ。4年前のロンドン五輪では準々決勝でフアン マルティン・デル ポトロ(アルゼンチン)に敗れ、8年前の北京五輪では1回戦でライナー・シュトラー(ドイツ)に敗れている。  もう一方の準決勝は、1回戦で世界1位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)を倒したロンドン五輪銅メダリストのデルポトロと、北京五輪金メダリストのラファエル・ナダル(スペイン)が対戦する。  ここまで勝ち上がった4人は、誰が金メダルを獲得してもおかしくないほど、実力が拮抗している。

(テニスマガジン/ライター◎Doris Henkel、翻訳◎編集部)