プロのテニスの試合では、揃いのポロシャツなどを着た少年少女がボールボーイ・ボールガール、あるいはボールパーソンと呼ばれて、コートの後ろとネット脇に控え、転がるボールを拾ってはサーブする選手に渡…

プロのテニスの試合では、揃いのポロシャツなどを着た少年少女がボールボーイ・ボールガール、あるいはボールパーソンと呼ばれて、コートの後ろとネット脇に控え、転がるボールを拾ってはサーブする選手に渡したり、ベンチで休む選手に傘を差し掛けたりしています。彼らの仕事内容はどんなもので、どうやってこの役職を得るのでしょうか。今回はボールボーイ・ボールガール(以下、ボールボーイと総称)について説明します。

■ボールを拾っては渡し、タオルを渡し、水を取りに行き…

グランドスラムなどの大きな大会では、一試合につくボールボーイは6名。コートの四隅の後ろと、ネットポストのそばに、ネットを挟んで各選手の側に1人ずつ待機。ポイントが決まれば、プレーの終わったボールを一番近くにいるボールボーイが回収、サーブする選手の側の後ろにいるボールボーイに(多くの場合、ころがして)渡します。サーブする選手の側にいる2人は、ボールを持った手を高く上げて持っていることを示し、選手が合図をしたらすぐにそのボールをワンバウンドで渡します。

テニス選手は走らなければならないのでそれだけでも汗をかきますが、「全豪オープン」や「全米オープン」などは特に、期間中に気温が35度を超えるほど暑くなることもあります。そこでボールボーイたちの大事な仕事の一つに、ポイントの間に選手の要望にこたえてタオルを渡すことがあります。ただ最近、数名の選手がタオルを渡すのが遅れたボールボーイに怒鳴ったりした、ということが問題になり、選手は自分でタオルを取りに行くべきではないかという議論が巻き起こりました。でもそれに対して、選手がポイント間の時間を取りすぎるから、と今では多くの大会でショットクロック(1つのポイント終了後からサーブを打つまでの時間を計り、25秒以上かかった場合はペナルティが科される)が取り入れられているのに、汗を拭くためにいちいちタオルを取りに行っては時間がかかってしまうという選手たちからの抗議の声も起こっています。いろいろと実験的な試みをしている、21歳以下のトップ選手たちで争われる「Next Gen ATPファイナルズ」では、コートの後方にタオルラックを置いて選手が自ら取りに行き、ボールボーイはタオルを渡さない、という試みがなされましたが、結果はやはり賛否両論で結論は出ませんでした。だから今も多くの場合、ボールボーイたちは以前と同じように選手たちにタオルを渡しています。

コートチェンジ時にコートサイドのベンチに座る選手たちは、時に大会側の用意したペットボトルのドリンクなどを取って来るようボールボーイに頼みます。日差しが強かったり雨が降れば、ボールボーイが選手に傘を差し掛けます。2018年の「ATP1000 シンシナティ」で雨のため試合が中断された時、ベンチに座っていたデニス・シャポバロフ(カナダ)は立ったまま傘を差し掛けていたボールボーイを隣に座らせ、楽しげに会話を交わしました。この微笑ましい行為について尋ねられたシャポバロフは、「僕もボールボーイをしていたから、彼らの気持ちがわかるんだ」と話しました。

■「ウィンブルドン」は特に狭き門

では、どうやってボールボーイになるのでしょうか。一般から募る場合、大会が募集することもあれば、地域のテニス協会などが呼びかけることもあるようです。1920年に世界で初めてボールボーイを採用した「ウィンブルドン」の場合は、ロンドン近郊の決まった学校から採用されることになっています。ですから「ウィンブルドン」のボールボーイになろうと思ったら、まず決められた学校の生徒でなければならず、そしてその学校から推薦を受けなければなりません。

学校から推薦を受けた生徒たちは「ウィンブルドン」で選考され、それにも受かるとトレーニングが始まります。ボールボーイの最も大切な技術は2つ、選手にボールを渡す役のボールボーイに転がしてボールを渡す「ローリング」と、選手にワンバウンドでボールを渡す「フィーディング」。ボールボーイたちはこの2つと、プレーの終わったボールをできるだけ早く回収して持ち場に戻る、それらを絶対に選手やプレーの妨げにならずに行わなければなりません。そのためのトレーニングは厳しく、やるべきことができないと判断されればどんどん外されていきます。そして残ったボールボーイ250名の中でも最も優秀なチームだけが、センターコートにつくことを許されるのです。また本番中にちゃんと仕事ができていたかどうかも厳しく評価され、評価の低い学校は翌年は呼んでもらえないことになります。

■涙のアクシデントも…

そんな厳しいトレーニングを経てコートに立っているボールボーイたちにも、時には返球しようと走ってきた選手に勢いあまってぶつかられたり、球を拾おうとしていたところに練習の球が激しくぶつかったり、屋根もないコートサイドに立ち続けて熱中症になってしまうといった辛い出来事もあります。でも前述のように選手が親しく話しかけてくれたり、以前にもボールボーイをしていたことを選手が憶えていて挨拶してくれたり、また「ウィンブルドン」では最終日の男子シングルス優勝者の表彰式の前にキャサリン妃からねぎらいの言葉を戴いたりと嬉しいこともあります。

多くの大会ではボールボーイは年齢制限があって十代半ばぐらいが中心ですが、「全米オープン」のように年齢制限は「14歳以上」で上限はない大会もあります。厳しい選考とトレーニングをくぐり抜けなければなりませんが、プロ選手のプレーを間近で見、その役に立つことができるボールボーイ。あなたも挑戦してみてはいかがでしょうか。

(テニスデイリー編集部)

※写真は「ウィンブルドン」のボールボーイ(Photo by Simon Bruty/Any Chance/Getty Images)