「フェデラーと、ここでやれてよかったです。負けはしましたけど、強いフェデラーとやれたのは、すごくいい経験になったと思います」 29歳の錦織圭は、自分が最も尊敬している選手であり、37歳になってもなお強さを保っているロジャー・フェデラーと…

「フェデラーと、ここでやれてよかったです。負けはしましたけど、強いフェデラーとやれたのは、すごくいい経験になったと思います」

 29歳の錦織圭は、自分が最も尊敬している選手であり、37歳になってもなお強さを保っているロジャー・フェデラーと、ウインブルドンのセンターコートで初めて戦えた幸運をかみしめた。同時に悔いも残った――。



ベスト4はならなかったものの、フェデラーとしっかり握手を交わした錦織圭

 ウインブルドン準々決勝で、第8シードの錦織(ATPランキング7位、7月1日づけ/以下同)は、第2シードのフェデラー(3位、スイス)に、6-4、1-6、4-6、4-6で敗れて自身初のベスト4進出はならなかった。

 第1セット第1ゲームで、錦織がいきなりフェデラーのサービスをブレークする最高のスタートを切る。

「圭は優れたリターンをする選手。彼がリズムを見出している時は、自分のやりたいことがクリアになっている。いつもアグレッシブにプレーしてきて、とても危険な選手。もしサーブをいいコースに狙えなければ、圭はポイントにつなげられるタフさがある」

 こうフェデラーが評価したように、錦織は、フェデラーの甘くなったセカンドサーブをベースライン付近からステップインして、クロスやダウンザラインへリターンエースを打ち込んだ。フェデラーのセカンドサーブをリターンから攻略し、錦織が得意とするショットメイクによってポイントにつなげたため、第1セットでフェデラーのセカンドサーブポイント獲得率は36%にとどまった。

「1セット目はすごくリターンが合っていました。そこはかなり思い切って攻めていけたかなと思う」と語った錦織が、ワンブレークのリードを活かしてセットを先取した。

「試合序盤は自分にとってつらい時間帯だった。大事な時に良いサーブを打てるよう模索していましたが、必ずしもサーブ全体がだめだったとは思っていません。反撃を試みたけど、第1セットでは圭が自分より少しプレーがよかった」(フェデラー)

 第2セットに入ってから立て直しを図ってきたフェデラーは、「力強いスタートを切ることが重要だった」と、第2セット第2ゲームで、錦織のサービスをラブゲームで初めてブレークに成功。錦織が握っていた試合の流れは止まり、落ち着きを取り戻したフェデラーが本領を発揮し始めた。

「試合の流れが僕に傾き始めた」とフェデラーが自信を深める一方で、錦織は、フェデラーのサーブを攻略する糸口を見つけられなくなった。「(自分の)リターンゲームで、ほぼチャンスがなかったので、2セット目以降は苦しかったです。セカンドサーブに対してもタイミングが合わなかった。先にブレークできそうという光が、2セット目以降は見えなかった」

 第2セットと第4セットで錦織は、ブレークポイントを1ポイントも奪うことができず、第3セット第10ゲーム30-40の場面で、錦織にブレークバックのチャンスが唯一訪れたが、フェデラーが時速196kmのファーストサーブを入れ、錦織はバックのリターンミス。第2セット以降、錦織は一度もフェデラーのサービスをブレークできなかった。

 また、錦織は、ファーストサーブの確率が、第1セットが55%、第2セットは73%、第3セット56%、第4セット55%と第2セットを除いて低かった。「ほぼ、どの(サービス)ゲームもプレッシャーを感じながらやっていたので、(自分の)リターンゲームに気持ちが入っていけなかった」と、自分のサービスゲームでのメンタルとフィジカルのダメージから、本来得意なはずのリターンにも悪影響を及ぼす負のスパイラルに入り込んでしまっていた。

 錦織は、第1セットにできていた、いいプレーを続けられなかったことを悔やんだ。そこをフェデラーは見逃さず、第2セット以降ギアを上げて錦織を確実に追い詰めていった。

「(自分の力を)出し切りましけど……。やっぱり自分のプレーが継続できなかったので、2セット目以降は確実に相手(フェデラー)が強くなりました。ちょっと焦ってしまった。アンフォースドエラーが後半多かったかなと思う。それ(自分のミスの多さ)も彼のプレーのよさから来るプレッシャーだった。そこは彼の強さに負けた部分なのかなと思います」

 ウインブルドンで最高の選手と言われるフェデラーの牙城を崩すことはできなかった。グラスでの経験の差があったのは事実だが、錦織にもチャンスがなかったわけでない。ただ、大事な場面での数少ないチャンスを確実にモノにすることができなかった。

 今回のウインブルドンで、グラスでの苦手意識を克服していいプレーができたことは錦織にとって収穫のひとつだったはず。どのサーフェスでもいいプレーができることは一流トッププレーヤーの条件のひとつだが、錦織はそれをやり遂げたと言える。

「芝で昨年に続きいいプレーができた。昨年よりもどの試合もよかった。たぶん安定して芝でもできる」

 また、昨年のウインブルドン以来、グランドスラムでは5大会連続のベスト8で、ハード、クレー、グラス、それぞれ異なるコートサーフェスで安定した好成績を残したことなる。グランドスラム通算では12回目のグランドスラムベスト8となり、トップ10プレーヤーとしてその地位に恥じない結果を残し続けている。

「我ながらそこは評価できるかな。もちろん欲を言えば、もうちょっと上に行きたいですけど。ここまで安定して結果が出ているのは、珍しいことでもあるので、メンタルやテニスの安定を感じます」

 また、この錦織のグランドスラムでの安定した好成績は、年間成績上位8人が出場できるツアー最終戦・ATPファイナルズ5回目の出場への好材料にもなっている。ウインブルドン後に、ツアー最終戦の出場権を争う”Race to London”で、錦織は360ポイントを加算して2070点になり7位から6位に上がる予定だ。

 全仏に続いて、ウインブルドンでも質の高いテニスを披露できた錦織は、今後グランドスラムの最終戦・USオープンまで続く夏の北米ハードコートシーズンに挑む。

「ランキング的には意外と自分が思っているよりは高い位置にいるので、それは維持したいですね。US(オープン)以降も、さらにいい位置いられるようにしたい。(3月の)インディアンウエルズとマイアミがよくなかったので、ハードに対して若干不安はありますけど、フレンチ(全仏)とここ(ウインブルドン)でプレーはよくなり、調子は上がってきていると思う」

 いまだに錦織が、グランドスラム初制覇をするために乗り越えなければならない、フェデラー、ラファエル・ナダル、ノバク・ジョコビッチの”ビッグ3の壁”はとてつもなく高いことを思い知らされたフェデラーからの敗戦ではあったが、立ち止まっている時間はない。USオープンは、悲願の初制覇に向けて錦織が全精力をかけて挑む勝負のグランドスラムになる。