ザクセンリンク・サーキットで行なわれた第9戦・ドイツGPを終え、2019年のMotoGPは20日間の夏休み期間に入った。この前半9戦を振り返ると、MotoGP、Moto2、Moto3の3クラスで、日本人選手たちはそれぞれに印象的な存在…

 ザクセンリンク・サーキットで行なわれた第9戦・ドイツGPを終え、2019年のMotoGPは20日間の夏休み期間に入った。この前半9戦を振り返ると、MotoGP、Moto2、Moto3の3クラスで、日本人選手たちはそれぞれに印象的な存在感を発揮していると言えそうだ。



MotoGPで2年目のシーズンを戦う中上貴晶のサムネイル画像

 MotoGPクラスでは、ロードレースの世界最高峰で2年目のシーズンを迎える中上貴晶(なかがみ・たかあき/27歳/LCR Honda IDEMITSU)がランキング12位につけている。

 チャンピオンシップ12番手という数字自体は、けっしてめざましい成績ではない。だが、昨年仕様のマシンで戦う中上は、ほぼ毎回、予選で上位選手が争うQ2に進出し、決勝レースも転倒で終えた第5戦・フランスGPと第8戦・オランダGPを除き、コンスタントにトップテンフィニッシュでチェッカーフラッグを受けている。

 とくに、今回の第9戦・ドイツGPでは、先週のオランダで転倒に巻き込まれた際に左足首のじん帯を傷め、歩くこともままならないような体調でレースウィークに入った。走行中の左足首は、シフトチェンジや体重移動の操作などで頻繁に使用するため、セッションを重ねるごとに負傷部位はどんどん悪化していった。

 それでも、土曜の予選ではQ1からQ2に進出して、10番グリッドを獲得。この段階では、「この足の状況では30周のレースはとても無理」と述べるような状態だった

 日曜は、朝のウォームアップと決勝前に鎮痛剤の注射を打って臨み、「今回の目標は完走すること」と話していたにもかかわらず、14位でチェッカーフラッグ。2点のチャンピオンシップポイントを加算した。

 ドイツGPは、10年連続優勝を果たしたマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)に最大の注目が集まるレースウィークだったが、負傷を抱えた身体でポイント圏内フィニッシュを果たした中上も、その勇気と闘志でファンに大きな感動を与えた。

 2019年前半戦の中上は、今のところ与えられた条件下で可能なかぎりの好結果を残してきた、と言っていい。8月から始まるシーズン後半戦では、ホンダ、ヤマハ、スズキ、ドゥカティのファクトリー勢へさらに迫り、上位陣を脅かすパフォーマンスも期待されるようになっていくだろう。

 中小排気量クラスに目を転じると、Moto2では長島哲太(ながしま・てつた/27歳/ONEXOX TKRR SAG Team)がドイツGPを12位でゴールし、シーズン前半戦を折り返してランキング10番手につけている。今回のレースではフロントまわりに抱えていた課題を最後まで解決できなかったが、それでも決勝レースではマシンの課題を自らのライディングで埋め合わせ、レース後半まで力強く走りきった。

「今年は毎戦、安定してポイントを獲得し、チャンスがあるときにはシングルにも入れている。今日みたいに問題を抱えていても、抑えて走ればポイントを獲れているので、シーズンの流れとしては悪くない。今までできなかったことをできるようになった、という意味でも成長できていると思います」

 そう話すとおり、ノーポイントは転倒で終わった開幕戦のカタールGPのみで、以後の8戦は取りこぼしなくコンスタントにトップ15フィニッシュを続けている。

 2017年の長島は、前半9戦終了段階でわずか1ポイントを獲得したのみのランキング28番手だった。昨年の2018年シーズンも、ドイツGP終了時の成績は6ポイントでランキング24位。それらの結果と比較しても、今年は確実にひとつ上のレベルに進んでいることがよくわかる。

 後半戦では、予選順位を上げてさらに高い成績を収め、ランキングもひとケタのポジションを目指していくこと。これは、けっして無理な目標ではないだろう。

 Moto3クラスは、開幕戦で鳥羽海渡(とば・かいと/19歳/Honda Team Asia)が優勝を飾り、幸先のよいスタートとなったが、この数戦は毎回トップグループを争いながらも転倒を喫してリタイア、というレースが4戦続いてしまっている。速さを持った選手であることはすでに万人の認めるところなので、表彰台の常連になるための課題は、決勝レースをずる賢く戦って最後に好結果をさらってゆくしたたかさを身につけること、だろうか。

 鳥羽のチームメイト小椋藍(おぐら・あい/18歳)は、今年がフル参戦デビューシーズンで、不慣れなコースが続く序盤数戦はやや苦戦傾向にも見えた。フランスGPでは転倒して骨折し、次戦のイタリアGPを欠場したが、復帰戦のカタルーニャGPでは予選で2番グリッドを獲得して6位でゴール。第8戦のオランダGPも6位に入賞した。

 今回のドイツGPも、予選までは苦戦傾向に見えたが、決勝レースでは安定したペースで追い上げて最後は先頭グループに追いつき、7位でゴール。レース内容は上々と言っていい。

「シーズン序盤戦は、GPライダーはさすがにうまいし強い、と思っていたけど、タイムアタックやバトルのやりとりを前半戦でいろいろと試せて、かなりわかってきたと思います。ル・マンで転倒してムジェロは欠場したけど、それ以外は完走できているので収穫も多いし、後半戦ではもう5個くらいポジションを上げられればな、と思います」

 佐々木歩夢(ささき・あゆむ/18歳/Petronas Sprinta Racing)は、第9戦・ドイツGP予選でポールポジションを獲得。参戦3年目の今年、シーズン前半は思ったような走りができずに精神的な焦りも垣間見えたが、前戦で良いヒントを掴んだことをきっかけに、本来のポテンシャルをようやく発揮し始めた。

 決勝でも、序盤から最後までトップグループで争った。結果は9位だが、浮上の契機はすでに掴んでいるだけに、シーズン後半は大混戦のMoto3クラスでさらに持ち味を発揮することを期待したい。

 鈴木竜生(すずき・たつき/21歳/SIC58 Squadra CORSE)も、ここ最近は毎戦トップグループで争っておおいに存在感を発揮しながら、転倒に巻き込まれる不運な事態も続いた結果、ランキング面では16位と低位に沈んでしまっている。

 第4戦・スペインGPでは2位表彰台も獲得したが、「結果はあくまでも数字じゃないですか。Moto3のレースをよく知らない人がランキングだけを見て、『去年と変わってないじゃないか』と思われても仕方ない。その意味では残念ですね」と話す反面、パフォーマンスの高さとランキングの不一致は、「むしろモチベーションになります」とも言う。

 ドイツGPは14番グリッドスタートで、序盤はトップグループから離されながらも少しずつ追いつき、最後は優勝者から0.749秒差の8位でゴールした。「後半戦に向けてかなりポジティブだし、後半戦では予選の小さなミスをなくして、レースでもっといい位置から楽に戦えるようにしていきたいです」。

 真崎一輝(まさき・かずき/18歳/BOE Skull Rider Mugen Race)は、Moto3の日本人勢のなかで唯一、KTM陣営のライダーだ。2017年にRed Bullルーキーズカップで年間総合優勝を果たして、2018年からMoto3クラスにステップアップし、今季で2年目のシーズンを迎える。

 2019年のシーズン前半は、リズムがうまく噛み合わないことも少なからずあり、まだ思いどおりの結果を残せないでいる。Moto3昇格以降、使い始めるようになったサムブレーキ(左手親指で操作するリアブレーキ)にも十分に順応し、技術面でも地道に向上を見せている。意欲と能力をレースリザルトに結びつける、あともう一歩の「何か」を見つけることが、夏休み以降の後半戦の課題になるだろう。