若い選手はチャンスを生かして急成長するものだが、これほどドラマチックに階段を駆け上がり、スターダムにのし上がる例は多くない。15歳のコリ・ガウフ(アメリカ)である。ワイルドカード(主催者推薦)…

若い選手はチャンスを生かして急成長するものだが、これほどドラマチックに階段を駆け上がり、スターダムにのし上がる例は多くない。15歳のコリ・ガウフ(アメリカ)である。ワイルドカード(主催者推薦)で出場した予選から、本戦4回戦に進出したのだ。

オープン化(1968年のプロ解禁)以降の大会最年少、15歳122日で予選を突破、シングルスでの四大大会デビューを果たした。予選決勝の前夜、あろうことか学校の科学のテストを受けていたというエピソードがほほえましい。

1回戦ではこの大会で5度優勝のビーナス・ウイリアムズ(アメリカ)に快勝した。テニスを始めるきっかけとなったのが、まさにそのウイリアムズ姉妹だった。ガウフが生まれた2004年に、ビーナスはすでに四大大会で4度も優勝していた。自分より24歳も若い選手に敗れたビーナスは「彼女の可能性は無限」と賛辞を惜しまなかった。15歳の本戦勝利は1991年のジェニファー・カプリアティ以来28年ぶりの快挙だった。

2回戦では17年に4強入りしたマグダレナ・リバリコバ(スロバキア)を破った。その快進撃に、錦織圭はこうコメントしている。

「15歳とは思えないくらいのプレーをしていた。サーブも、テレビで見ると、俺より速いんじゃないかと思うくらい」

3回戦の相手は自己最高ランク35位の28歳、ポロナ・ヘルツォグ(スロベニア)。4月に7年ぶり3度目のツアー優勝を飾るなど、今季は好調だ。ガウフは第1セットを落とし、第2セットも先にブレークを許して0‐2となった。その瞬間、右手からラケットがこぼれ落ち、わずかに落胆の色も見えた。しかし、15歳はそこから生き返る。

2−5からのサービスゲームで一度、さらに3−5からの相手のサービスゲームでも一度、ヘルツォグのマッチポイントがあった。しかしこれを逃れたガウフは、このセットをタイブレークでものにする。セットポイントでは32本というロングラリーを制した。

最終セットは4−2からブレークバックを許し、4−4に追いつかれたが、そこでこらえた。相手の揺さぶりに耐え、マッチポイントをものにしたガウフは、ラケットを放り出し、両手を掲げてジャンプ。喜びを爆発させた。

「今は試合が終わってすごくホッとしている。長い試合で、彼女が信じられないプレーをしていたので」

興奮も冷めぬ中での試合後の第一声だ。しかし、すぐに落ち着きを取り戻し、こう話した。

「みんな、(1回戦、2回戦を戦った)1番コートが私のコートだと言うけれど、センターコートも私のコートになるかもしれませんね」

堂々たる受け答えも、とても15歳とは思えない。

セレナ・ウイリアムズ(アメリカ)はガウフについて、「(姉の)ビーナスに似たタイプ」と評したというが、さすがによく見ている。パワーで押すだけでなく、広いリーチを生かして相手の強打を拾い、粘るときは粘ってチャンスを待つ。この3回戦はまさに対応力と粘りの勝利だった。

最終セットのヘルツォグは強打が陰を潜め、スライスに頼るプレーになった。動きが鈍っていたのは「ケイレンが起き始めていたことと緊張、その両方」と試合後に明かした。ガウフは相手の強打に備える必要はなくなったが、逆に息詰まるような神経戦がスタートした。経験豊富な相手と、緊張感の中、スライスで打ち合うのは若い選手には嫌なものだろう。全力のたたき合いのほうが精神的には楽なのだ。しかし、ガウフは終始、落ち着いて対応した。遅いペースのラリーになっても焦れず、相手の揺さぶりにも、しっかりついていった。

ガウフは2回戦のあと、対戦相手との経験の差について聞かれ、こう話している。

「正直、分かりません。落ち着いてプレーすることだけを心がけています。長いことプレーしている選手でも、その多くがコートで冷静さを失います。冷静にプレーすることがプロセスを早く進めるのは間違いないと思います」

15歳は、まさにそのプレーを実践した。正直、勝利を意識して硬くなった相手に助けられたところもあった。しかし、ガウフは神経戦を耐え抜く冷静さと図太さ、最後まで相手の罠にはまらないしたたかさを見せた。

14歳でウィンブルドンデビューを果たした元祖天才少女トレーシー・オースチンは、試合直前に、テレビカメラの前で「すでにチャンピオンのメンタリティーを備えている」と絶賛した。これからしばらく、あらゆる専門家がこうした言葉で15歳を賞賛するだろう。

(秋山英宏)

※写真は「ウィンブルドン」でのガウフ

(Photo by TPN/Getty Images)