「芝が嫌いというイメージはなくなってきた」--開幕前の言葉を、錦織圭が実地に示している。 ストロークで相手を窮地に陥れ、ネットプレーやドロップショットでとどめを刺す。相手のサーブを読み切って、…

「芝が嫌いというイメージはなくなってきた」--開幕前の言葉を、錦織圭が実地に示している。

 ストロークで相手を窮地に陥れ、ネットプレーやドロップショットでとどめを刺す。相手のサーブを読み切って、強打のリターンでウィナーを取る。逆に相手の読みを外しながら、サーブで得点を重ねる--芝仕様にアジャストしたプレースタイルを、1回戦に続いて披露した。

 ネットアプローチは32回試みて、24回成功させた。頻度も、その成功率75%も、まずまずだ。

「前に行く行き方もよかったし、攻める姿勢を常に持ってできていたと思う」と錦織。1回戦、この2回戦と、ストロークで崩し、できるだけ簡単なボレーで決める形を実践している。この得点パターンを会得したと見ていい。このところ、他のサーフェスでもネットでフィニッシュする形をよく試みるが、球足の速い芝ではとりわけ有効だ。

 ネットをはさんで互いに短いボールを切り返す場面も何度かあった。予測できないボールのやりとりに観客が大きく沸いた。反応の速さと読みのよさ、そして遊び心--すなわち、錦織の強みが最も生きるのが、こんな短いラリーだ。

 ファーストサーブ時のポイント獲得率は79%、セカンドサーブのときでも67%と高い数字が残った。1回戦でもファーストサーブ時のポイント獲得率は78%をマークしている。彼には悪いが、これまでにないほどのサービスゲームの安定感だ。

 もちろん、急に球速が上がったわけではない。配球のうまさと、球足の速い芝の特性を考えたサーブで得点を増やしている。

「僕みたいなサーブでも、ワイドに打ったり、スライスで曲げたりすれば、結構簡単にポイントが取れたりする」

 と錦織が秘訣を明かした。長年、芝の大会に参戦し、サービスゲームのキープに苦しむこともあったが、芝でのサービスゲームの面白さがようやく分かってきた、というところだろう。

「芝では力だけでなく頭の勝負だったりするので、そういう所も面白い」とポジティブに考えられるようになったのは大きな変化だ。当然、リターンゲームでも同じように読み合いや駆け引きがある。相手のサーブをいかに読み、これを破るか。芝はビッグサーバーに有利とされ、錦織も対戦を嫌がった。しかし、そもそも相手との読み合い、駆け引きは得意分野だ。今後、ビッグサーバーと対戦しても、読み合いで相手を制し、リターンを炸裂させる場面が増えるかもしれない。

 それにしても、第3セットは圧巻だった。2セット連取で試合の流れを掌握、このセットに入ると「プレーが安定して、ミスなくプレーできると感じた」という。ボールが一段と伸びるようになり、気分よく打っているから、おのずとショットの選択も冴えた。

「あんまり反省点がないくらい、プレーは良かった」

 自己採点は100点満点だ。アンフォーストエラーは3セットでわずか17本、ウィナーは34本に達した。1回戦に続くストレート勝ち、わずか1時間48分で試合を終えたのも、先を考えれば大きな意味がある。

「いい意味でセンターコートだと思わなくなってきた」と言うように、テニスの聖地の独特の雰囲気に縮こまることもない。もちろん、キャメロン・ノリー(イギリス)に集まる地元の声援を気にすることもない。攻撃的に、自由に、楽しそうに3セット戦った。

「芝が好きになってきたというか、去年、芝のプレーが分かってきた感覚があったので、それがリラックスしてできる要因になっているかもしれない」

 芝と仲よくできるようになった錦織は、3回戦では、どんなプレーを見せてくれるだろうか。

(秋山英宏)

※写真は「ウィンブルドン」での錦織(Photo by Clive Brunskill/Getty Images)