予選3試合を勝ち抜き、昨年の全米オープン以来の四大大会本戦出場を果たした杉田祐一。ところが、よりによって1回戦で世界ランク2位のラファエル・ナダル(スペイン)という難敵を引いてしまう。 ランキ…

予選3試合を勝ち抜き、昨年の全米オープン以来の四大大会本戦出場を果たした杉田祐一。ところが、よりによって1回戦で世界ランク2位のラファエル・ナダル(スペイン)という難敵を引いてしまう。

 ランキングポイントを考えれば、少しでも勝算の高い選手と当たりたかっただろう。だが、一方で「ナダル選手のようなトップ選手とグランドスラムで5セットの試合ができるのは貴重」という思いもあった。気持ちとしては、半々だったという。

 しかし、試合を終えた杉田の口から出てきたのは、こんな言葉だ。

「最高の1回戦だった」

 序盤から杉田が躍動した。コートの中に入り、早いタイミングでショットを繰り出す。そのテンポの速さに戸惑うナダル。試合は杉田のサービスブレークで幕を開けた。

 しかし、第3ゲームに3度あったブレークポイントを逃したことで、握りかけた主導権が逃げていった。

「2−0を3−0にできていたら、展開は変わっていた」と杉田が悔やんだ。

 ナダルはたちまち速いテンポに適応し、杉田はその壁をこじ開けられない。散発的な好プレーは随所にあったが、なかなかゲーム獲得、セット奪取にはつながらず、3セットを連取された。

 それでも「最高の1回戦」と振り返るのは、自分のやるべきテニスを、思う存分、世界2位にぶつけることができたからだ。

 ベストのプレーが最後まで持続しなかったのは、次への課題として残った。しかし、自分の進むべき道、今の方向性の正しさは確認できた。

「もっともっと試合がしたかった。できる限りコートに残っていたいという思いが最後まであった」と杉田。さらに、こう続けた。

「自分のテニスができているときは、そういう思いで試合ができるのだと思う。全力を尽くせたと思っている」

 勝ち負けは別として、そんな試合ができた選手は幸せだ。

 ウィンブルドンのスタジアムコートは独特の音響効果を備えている。芝生が雑音を吸収してしまうのか、観客の拍手、声援、溜息や歓声がスタジアム内にクリアに響く。試合を終えて退場する杉田を、満場の拍手と声援が包んだ。

「ありがたいというか、選手をやっていて、なかなか経験できないこと」

 選手冥利に尽きるとはこのことだろう。その胸中には言葉にできない思いもあったのではないか。

「芝はいつも助けてくれる。復活のきっかけにしなくてはいけない」

 杉田の言葉に実感がこもっていた。四大大会初出場は2014年のウィンブルドンだった。それまでに17回も四大大会の予選で敗退。何度も心が折れたが、この予選突破で報われた。17年のツアー初優勝はトルコ・アンタルヤ、これも芝の大会だった。念願の優勝でいよいよ本領発揮かと思われたが、昨年から失速、17年10月に36位をマークしたランキングは、今、274位まで落ち込んでいる。しかし、この4試合で、ようやく不振からの出口が見えてきた。杉田はまたも芝コートに救われたのだ。

 予選では「もっとこういう選手たちと、もっとレベルの高い所で戦いたいという思いでファイトした」。念願かないナダルと3セットを戦ったが、「もちろん、これで終わるわけにはいかない」。一つの目標を成し遂げ、さらに高い目標ができた。もう一丁やってやろうという、新たなモチベーションが生まれた。試合を終えた今、頭にあるのはこんな思いだ。

「もう一度、自分のテニスを取り戻し、トップの選手と戦えるレベルに持っていきたい。本当に大事な戦いはここからだと思っている」

(秋山英宏)

※写真は「ウィンブルドン」での杉田 (Photo by Shi Tang/Getty Images)