F1第9戦・オーストリアGPで、レッドブル・ホンダが勝った。 メルセデスAMGを抜き、フェラーリを抜き、4位から自力でトップに立って勝つという、このうえなく力強いレースだった。 もちろん、アップデートによって進化したRB15の車体性能…

 F1第9戦・オーストリアGPで、レッドブル・ホンダが勝った。

 メルセデスAMGを抜き、フェラーリを抜き、4位から自力でトップに立って勝つという、このうえなく力強いレースだった。

 もちろん、アップデートによって進化したRB15の車体性能もある。ピットインを遅らせ、周囲のライバルより10周フレッシュなタイヤでレース終盤に備えた戦略の巧みさもある。バルテリ・ボッタス(メルセデスAMG)のピットインをきっかけに、各車が早々にピットインしてくれた幸運もあった。



レッドブル・ホンダを勝利に導いたフェルスタッペン(右から2番目)

 しかし、ホンダも勝負を賭けていた。

 田辺豊治テクニカルディレクターはこう語る。

「今回はレース週末前から、チーム側からも『行けるところまで行きたい』と言われていましたから、我々も『行けるところまで行くよ』と話をしていました。それで、レース中もエンジンの状況を見ながら、『もっと行っちゃうよ』と我々のほうから話をしました」

 レースでは、パワーユニットにかかる負荷を抑えながら走らせるのが通常だ。1レースで使える負荷の蓄積にも、一定の基準がある。

 しかし、レッドブルの地元レースである今回は、次戦以降の分を”前借り”してでも、いつも以上のパワーを絞り出したかった。

 50周目、マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)はタイヤの終わりかけていたセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)を抜いて3位に上がり、メルセデスAMGのボッタスを追撃していく。ファステストラップを記録しながら、ボッタスも抜いて2位へ。

 首位シャルル・ルクレール(フェラーリ)との差は5秒弱。5秒先に、これまでずっと追い求め続けてきた勝利が見えていた。

 そこで、ホンダが動いた。

「エンジンライフのなかでやりくりをして、ちょっと(次戦以降分のライフを)前借りしたような形です。最後は行くしかないので。(トップまで)4秒ちょっとの差でしたので、追いかけるしかないですから。そこで手を緩める必要なんてどこにもないし、トップに行くまで(エンジンパワーを)使いきろうと、パフォーマンスを上げる設定で走らせました」

 まさにホンダらしい、アグレッシブなレース屋魂だった。

 タイヤの10周分の差と、パフォーマンスを増したパワーユニット。フェルスタッペンは1周で0.8秒速い圧倒的なペースでルクレールを追い詰め、残り2周で抜いた。

 ただ、接触しながらのオーバーテイクはスチュワード(審査員)の審議対象となり、裁定が下るまでに、実に1時間45分を要した。

 結果的に、エイペックス(※)を抜けた先のアクションは、いずれか一方のみに責任があったわけではないと判断。接触はレーシングアクシデントということで、フェルスタッペンの優勝が確定した。

※エイペックス=コーナーを曲がる時、クルマがもっともインに寄るコーナー内側の頂点のこと。

 しかし、そのペナルティがあろうとなかろうと、コース上において最速で、いずれルクレールを抜いて最初にチェッカードフラッグを受けていたのは、フェルスタッペンであり、レッドブル・ホンダだった。そのくらい、レース終盤のフェルスタッペンは神がかった速さを見せた。

 それは、タイヤを保たせ速く走らせるドライバーの腕と、高速コーナーを速く走るダウンフォースを手に入れたマシンと、アグレッシブにパワーを引き出したパワーユニットと、その性能を最大限に結果につなげたレース戦略……それらすべてを合わせた、レッドブル・ホンダという”パッケージ”の速さであり、強さだった。

「今日のレース展開を見れば、ペナルティが出ようと出まいと、最初にゴールを切ったという事実は変わりませんし、あそこまでの戦いができたのは間違いないことです」(田辺テクニカルディレクター)

 もちろんそれは、レッドブル・リンクというサーキットでのことであり、気温34度・路面温度56度という特殊なコンディションでのことでもある。今後どのレースでも、常にこのようなパフォーマンスを発揮できるよう、さらに”パッケージ”を進歩させていく必要がある。

 一歩一歩、少しずつ着実に……というのが田辺テクニカルディレクターの口癖だったが、これが本当の意味での、その第一歩だ。

「F1に復帰してからこれまでいろいろと経験して、ちょっと時間がかかりましたけど、まずは最初の一歩を踏み出せたかなと思っています。ドライバーを含めてのマシンパッケージの結果だと思いますし、この先まだまだいろんなタイプのサーキットがありますから、これからさらにパフォーマンスを上げて、常にこんな戦い方ができるようなところに持っていきたい。そのために、ホンダとしてはパワーユニットのパフォーマンスをさらに上げて、サーキットに持ち込んでいきたいと思います」