23歳ながら頼れるエースに成長している武田は、どんな意識を持ちながら日々の準備、そしてトレーニングに励んでいるのか。また、球場を離れた時には、どんな姿があるのか。親交が深く、プロ野球界の大先輩でもある野球解説者の野村弘樹氏に若きエースの素顔…

23歳ながら頼れるエースに成長している武田は、どんな意識を持ちながら日々の準備、そしてトレーニングに励んでいるのか。また、球場を離れた時には、どんな姿があるのか。親交が深く、プロ野球界の大先輩でもある野球解説者の野村弘樹氏に若きエースの素顔に迫ってもらった。

■3連覇を目指すホークスの若きエースが抱く意識とは?

 日本シリーズ3連覇に向け、好位置につけるソフトバンク。今季の強みは、何と言っても、盤石な投手陣だろう。先発ローテーションでは、今季から日本球界に復帰した和田毅が12勝でトップに立つが、そのベテラン左腕に追いつけ追い越せの勢いで迫るのが、若きエース・武田翔太だ。

 8月8日現在、19試合に投げて11勝4敗、防御率は2.71と順調に勝ち星を重ねている。3月27日楽天戦で完封勝利を飾ってスタートした今季は、4月10日オリックス戦から7連勝。6月27日ロッテ戦で3回6失点と荒れた後こそ、1か月ほどは勝ち運に恵まれなかったが、7月26日楽天戦で今季2度目の完封勝利を収め、早々に2年連続2桁勝利を決めた。

 デビューから5年を迎える今季は、投球内容に安定感が生まれた。19試合で投げて、実に13試合でクオリティスタート(QS、6回以上を投げて自責点3以下)をマーク。6回を持たなかった試合は、わずか3試合だけだ。チームに勝機をもたらす、あるいは先発として責任を持った回数を投げる、という簡単なようで難しい条件を着実にクリアしている。四球数が多いという課題は残るものの、今季はすでに100奪三振を超え、被打率は.225と打者を圧倒する右腕へと成長した。

 2014年の日米野球で侍ジャパンに初招集されて以来、日本代表でも欠かせない存在となりつつある。来年に開催される第4回WBCでは、菅野智之(巨人)、大谷翔平(日本ハム)らと揃って、投手陣のキーマンとなることは間違いないだろう。

 23歳ながら頼れるエースに成長している武田は、どんな意識を持ちながら日々の準備、そしてトレーニングに励んでいるのか。また、球場を離れた時には、どんな姿があるのか。親交が深く、プロ野球界の大先輩でもある野球解説者の野村弘樹氏に若きエースの素顔に迫ってもらった。

■ソフトバンク入団で気付かされたこと「選手の意識が高い」

野村弘樹(以下、野村):2011年にドラフト1位でソフトバンクに入ったでしょ。当時からホークスは強かった。投手陣も揃う中で、プロに入って気付かされたことって、どんなことだったんだろう?

武田翔太(以下、武田):全体的に、意識が高いと思いました。僕は最初3軍だったので、3軍、2軍、1軍って段階を踏むにつれ、意識が高くなることにも気付きましたね。全然違うなって。

野村:例えば、どの辺りが違うと思ったのかな?

武田:周りを気にしない人が多いですね、1軍だと。自分のことだけ、しっかりとやる。

野村:1人1人が自分は何をすればいいか、どういうことをすれば、どういう結果が生まれるかを分かっている……。

武田:そうですね。年も離れているし、僕は付いていくので一生懸命。でも、僕は結構人に話を聞くタイプなんですよ。試合中でも、場面場面やポイントで疑問に思ったことは、すぐに聞いていましたね。「ここは絶対に抑えておかなければいけない」ってこともあるんですけど、試合の流れの中で経験しないと分からないこともある。だから、ベンチでも試合の中でも勉強させてもらいました。

野村:特に参考にした投手とかいる?

武田:毎年いろんな選手と一緒に練習をさせてもらっています。摂津さんだったり、2年目は五十嵐さんと一緒にアメリカにトレーニングに行ったり。その中でいろいろな野球の話をしたり、何をしているのか見て覚えたり。もちろん、質問したりしますけど、みんな「見て盗め」みたいな感じ。自分の感覚になっちゃいますけど、見て盗んで理解しています。

■肩を痛めた2014年「自分の体が弱すぎることが本当に悔しかった」

野村:去年は4年目にして初めて2桁勝利に届いた。それまでも投げればいい投球をしていたから、2桁に届いてもおかしくなかったと思うけど……。

武田:故障らしい故障はないんですけど、弱かった。1試合というより、1年間の肩肘の体力ですね。2014年に疲労で肩を痛めたんですけど、その時、自分の体が弱すぎることが本当に悔しかった。そこからトレーニングを見直して、自分なりにデータをとって注意を払うようにしました。

野村:どういったデータを取っているの?

武田:エコー検査で筋肉の疲労度とかチェックできるんですよね。僕の主治医の先生が、その検査をしてデータを取る方なんですが、今は球団でもその機械を導入して、定期的にチェックできるようになりました。それで、筋肉の太さや収縮率みたいなものが、一定の数値以下になったらボールは触らないとか、自分の感覚だけには頼らないことにしています。

野村:それが去年の2桁勝利につながったんだ。

武田:そうですね。それに気を遣うようになってから、肩肘に大きな問題はないです。最低ラインは怪我をしないこと。常にパフォーマンスを上げることに意識を集中させることができるようになりました。

■走ることで体のバランス調整「リフレッシュやリセットにもなります」

野村:体力と言えば、走るのが大好きなんだって? 去年は大分走ったらしいね。毎日10キロで年間3600キロ以上走ったって本当?

武田:メッチャ走りました。走りすぎって怒られちゃったんで、今年は減らしてます(笑)。

野村:俺は「どうやって走らんとこかな」って、そればっかり考えてたけどな(笑)。でも、仕事だから走らんといけないし、体力つけないといけないし。

武田:リフレッシュというかリセットにもなっていいんですよ。ナイター終わった後に、黙々と走りに出掛ける。走るのが好きなのは高校時代からですね。走っていると、体のバランスがよくなると思うんです。10キロ走ると、さすがに疲れてバランスが崩れてくるから、体が自然にバランスを取ろうとするんですよね。だから、一種の体幹運動みたいなもの。寝ながらする体幹より、走る方が投球動作にはより近いですし。

野村:確かに、右投げだったら右の動きばかりになってしまう。そこを走ることで、左右のバランスがうまく取れるようになるんだろうね。

武田:走っている方が、体の切れもいいです。確かに、去年は走りすぎた気がするので、周りから見たら「お前バカだろ」って思ったでしょうね(笑)。

野村:バカとは思わんけど、すごいわ。でも,今年は減らすって言ってたけど……。

武田:今年はウェイトトレーニングを少し強化しています。全体的に少し筋力アップを狙っていこうと思います。

■栄養学を勉強して自炊の毎日「5、6品作ることもありますよ」

野村:食事にも気を遣っているって話を聞いたけど。

武田:そうですね、栄養学を少し勉強し始めました。

野村:そしたら、自炊もしている?

武田:お米炊いて自炊してますよ。スーパーで買い物もしてますし(笑)。メニューを作って、買い物に行って。疲れている時は「この食材入れようかな」とか、遠征に出る時は「3日分だと、これだけあれば使い切るかな」とか考えます。

野村:朝昼晩、しっかり食べているんだ。

武田:好き嫌いなく食べますね。この体を見れば分かる通り、量はそんなに食べないですけど、ほどよくバランスよく。和食を中心に、5、6品作ることもありますよ。煮物やおひたしも作りますし、魚を焼いたり。

野村:今度一度食べに行っていい?(笑)

武田:どうぞ(笑)。母が看護師で夜勤が多かったこともあり、小さい頃から自分で作るのに慣れていたというか好きだったというか。包丁使いは全然平気です。

野村:遠征先で出掛けることも、あまりないの?

武田:あまりないですね。

野村:大事なことだよ、アスリートとして。俺たちは真逆のことしてたから(笑)。現役時代は、大魔神・佐々木(主浩)さんと一緒に、投げ終わった後でアイシングを途中でやめて、食事に出掛けていたんだから。そりゃダメだよな(笑)。

武田:逆に体力ありますよね(笑)。毎日出掛けていたんですか?

野村:ほぼ毎日。でも、俺は先発日の3日前からは出なかった。やっぱり調整は必要だから。でも、あとの3、4日は、よく外食もしたし、お酒も飲んだ。典型的なダメなプロ野球選手だよね(笑)。

■独学でグラフィックデザインにも挑戦「好奇心が旺盛なんですよ」

野村:最近、野球以外にも興味のあることができたって聞いたけど。

武田:少しグラフィックデザインに興味を持つようになって……。

野村:いろいろすごいな。じゃ、パソコン使ってやってるわけだ。

武田:そうですね。パソコンは4台あって……。

野村:え!? 4台持ってるの、家に? 1台じゃ足りないの?

武田:足りないです(笑)。4台を駆使して、イラストレーターとかフォトショップとかでデザインしてますね。

野村:独学で始めたの?

武田:はい、独学です。好奇心が旺盛なんですよ。夢中になるのが早いから、面白そうだと思ったら、とりあえず始めちゃう。好きなことに関しては、かなり集中力高く臨めると思います。

野村:その集中力の高さが、ピッチングでも生かされているんだろうね。

武田:そうだといいんですけど(笑)。

野村:これだけの意識の高さと集中力の高さがあれば、今年は去年以上の活躍を期待できそうだ。

武田:頑張ります!