2m27を唯一成功させて日本選手権で優勝した戸邉直人 男子走り高跳びの戸邉直人(JAL)は、今年2月の室内シリーズで出した2m35の日本新記録を筆頭に、2m30台を3回記録するなど安定した跳躍で世界室内ツアー総合優勝を果たした。屋外シー…



2m27を唯一成功させて日本選手権で優勝した戸邉直人

 男子走り高跳びの戸邉直人(JAL)は、今年2月の室内シリーズで出した2m35の日本新記録を筆頭に、2m30台を3回記録するなど安定した跳躍で世界室内ツアー総合優勝を果たした。屋外シーズンに入ってからのベストは2m28ながらも、6月16日のダイヤモンドリーグ・モロッコ大会では、2016年リオデジャネイロ五輪3位で、その大会で優勝したボーダン・ボンダレンコ(ウクライナ)と同記録ながら2位になり、世界と戦える力を示していた。

 その戸邉が、6月27日から福岡で行なわれている日本選手権に出場し、記録は2m27ながらも、想定通りの戦い方で4年ぶり3回目の優勝を飾った。

「2m30は跳べると思っていたので、跳べなかったのは残念」と戸邉は振り返ったが、今大会の結果で、世界選手権ドーハ大会の代表内定第1号選手に決まった。

 ただ、その戦いは最初から完璧だったわけではなく、序盤は不安も感じさせるものだった。6月は6日と16日のダイヤモンドリーグ出場でヨーロッパに遠征した疲労もあり、「公式練習の時からいまいち技術がかみ合わないというか、助走から踏切にかけての流れがちょっとぎこちないところがあった」と振り返る。

 さらに、トップ選手が10人ほど出場するだけのダイヤモンドリーグとは違い、日本選手権は20名が出場して2m05の高さから競技が始まることもあり、必然的に待ち時間が長くなり、調整方法が難しくなる。救いは、湿度は高いものの、風は穏やかで走り高跳びの条件としては恵まれていたことだ。

 その中で2m15からスタートした戸邉は、まずは余裕を持ってクリア。次の2m20は、1回目で踏切位置が近すぎると感じるジャンプをしてしまい、2回目でクリアした。2m24も1回目はバーに尻が当たって落とし、2回目でクリア。2m10から跳び始めたライバルの衛藤昴(味の素AGF)が2m24までを1回目でクリアと、順位的には劣勢に追い込まれていた。

 それでも戸邉は冷静だった。

「衛藤さんも6月は僕と同じようにヨーロッパ遠征をしていて互いに調整が難しい中での試合だったので、2m27が勝負になるだろうなと予想していました。だから、2m27でいい跳躍ができるように組み立てていこうと思って。

 助走の流れの中で踏切の3~4歩手前では、少し重心を下げていかなければいけないのですが、うまく下げられずにバランスを崩してしまっていたので、そこに焦点を当てながらやった感じです。技術がかみ合わないところが20と24の1回目に出てしまいましたが、何が悪いかはわかっていたので、しっかり修正できました」

 さらに、2m24の1回目を失敗した後、助走の目安となるマークの位置を1足分手前に移動させた。それが功を奏して次の跳躍を成功させると、最初に勝負どころになると考えていた2m27は1回目でクリアした。

 以前は同じ高さを跳んだ場合、すべての失敗試技数の差で順位が決まっていたが、今季からは成功した最もいい記録の失敗試技数の差で順位が決まり、それでも同じだったらその次にいい記録の失敗試技数が参考になる。2m20を終えた時点で、1回失敗した戸邉はクリアした7名中5位。2m24の終了後には、4名中3位だったが、2m27の一発クリアでトップに躍り出た。

 この時点で戸邉は、衛藤も2m27をクリアしてくるだろうと予想し、次の2m30が勝負になると考えていた。ところが衛藤は3回ともに失敗して、その時点で戸邉の優勝が決まった。

「今日は条件もよかったので、自分の中では来年の東京五輪参加標準記録の2m33を超えれば100点だなと考えていました。2m30を3回の跳躍の中でいい形にまとめて、33に挑戦できればいい流れでいけるのかなというところまで計算していました。

(2m30の成功は)あと少しというところでした。30の3回目の跳躍もクリアランス(バーを越える時の空中姿勢)に入るのをもうちょっと我慢しなければいけなかったけど、それがちょっと早すぎたので頭がぶつかってしまった感じです」

 今年2月に2m35を跳んだあとに戸邉は、それ以上の高さを跳ぶためには踏切位置を、これまでより少しバーから遠くしなければいけないと話していた。遠くすることで跳びあがった時のバーとの距離感も変わり、そこの動きの微調整も必要となり、今はまだそこに苦しんでいる状況だ。

「僕は東京五輪で金メダルを獲ることを目指しているので、今年の世界選手権はメダル獲得くらいの争いをしなければと思っています。そのためには、決勝で2m30台後半を跳べるようにしなければいけないのですが、今はまだ技術的にはあまりまとまっていない。体力的にはすごくいい状態ですが、技術はまだ50%くらいかなと思う。あとは踏切地点の安定と、クリアランスの動きをもうちょっと微調整すれば高さも跳べるようになると思います。

 このあと、7月には1カ月間トレーニング期間を設けて8月からまた試合を始める予定なので、この1カ月間は後半戦や世界選手権へ向けてすごく大事なものになると思う。そこでうまくまとめられるようにしっかりやっていきたいですね」

 戸邉は4年ぶりのタイトル獲得を安堵すると同時に、東京五輪を見据えたうえで、まずは世界選手権に向けて意識を高めている。