昨季J1リーグを8位で終えた清水エスパルス。「トップ5入り」を目標に掲げて臨んだ今季、開幕から苦戦が続いた。 リー…
昨季J1リーグを8位で終えた清水エスパルス。「トップ5入り」を目標に掲げて臨んだ今季、開幕から苦戦が続いた。
リーグ最多の大量失点に苦しみ、2分4敗と未勝利のまま、第6節を終えたところでついに最下位に転落した。第7節のジュビロ磐田との”静岡ダービー”でようやく今季初勝利を挙げると、続くセレッソ大阪戦も勝って2連勝。この時に一瞬、急浮上への期待も膨らんだが、第9節から無得点での3連敗を喫し、順位は再びJ2自動降格圏内に沈んだ。
そこで、チームが好転する可能性が低いと判断したクラブは、昨季から指揮を執ってきたヤン・ヨンソン監督を解任。新たな指揮官として、篠田善之コーチを昇格させた。
すると、この監督交代劇を契機にして、チームは一変する。
新指揮官・篠田監督の初采配となった第12節の大分トリニータ戦で、チームはリーグ戦4試合ぶりの得点をマーク。当時3位と勢いのあるチームを相手に1-1と引き分けた。そして、続く第13節のベガルタ仙台戦では、終了間際にFWドウグラスが勝ち越しゴールを決めて、撃ち合いとなったゲームを4-3で制した。
さらに、第14節の松本山雅戦を終盤に追いついてドロー(1-1)に持ち込むと、その後、第15節で横浜F・マリノス(3-2)、第16節で名古屋グランパス(2-1)と、上位陣を連続撃破。混戦模様の下位グループを抜け出して、暫定ながら第16節終了時点で12位へと順位を上げた。
チーム浮上の要因となったのは、いったい何なのか。
ひとつは、篠田新監督の取り組みと、チーム、選手たちへのアプローチにあることは間違いない。
指揮官に就任する時、「走り負けないこと。戦う姿勢を見せること。攻守の切り替えの早さと、球際を激しくいくこと」と、チームのベースとなる方向性を示した篠田監督は、選手たちに対しても「やるべきことをやらない選手は試合では使わない」と、前向きな姿勢を促した。
そのうえで、練習では次の対戦相手をはっきりと意識したメニューを課した。その際には、相手のチーム名を連呼し、攻撃パターンに対する守備の対策など、個々のメニューの目的も明確にした。そのなかで、篠田監督の声が練習場全体に響き渡り、いいプレーには褒め言葉が、よくないプレーには厳しい檄が飛んだ。
そんな篠田監督について、主力選手のひとりであるMF金子翔太はこう語る。
「指示の声が大きいのもあるけど(笑)、メリハリのある練習によって(選手の)気持ちを前向きにさせてくれる。監督自ら『相手に絶対に勝つ』という思いを前面に出して(選手たちを)試合に送り出すなど、(篠田監督は)モチベーターだと思う」
その”モチベーター監督”の選手起用も、チームを好転させた。「練習から前向きに取り組んでいる。練習試合でもよくゴールを決めている」(篠田監督)と、前監督のもとではリーグ戦での出番がなかったルーキーのMF西澤健太を積極的に登用。後半から送り出した横浜FM戦、初めてスタメンで起用した名古屋戦と、2試合連続でアディショナルタイムに決勝ゴールを叩き込んだ。

2試合連続で決勝ゴールを決めた西澤健太
篠田監督の抜擢に見事に応え、一躍チーム浮上の立役者となった西澤。今後のさらなる活躍へ、その意欲は増すばかりだ。
「(自分が)がんばっている姿勢を(篠田監督は)評価してくれたのだと思う。(試合に)起用してくれたので、絶対にその期待に応えようと思った。まだミスもあるので、反省しながら次のステップを目指したい」
好調・清水を支えるもうひとつ要因は、チームの”エース”であるドウグラスの完全復活だ。
昨季途中に加入して、15試合出場で11ゴールを量産したドウグラス。シーズン終盤を7戦負けなしで終え、残留争いに加わっていたチームを最終的に8位まで押し上げたのは、間違いなく彼の力によるところが大きい。今季「トップ5入り」という目標を掲げたのも、そんな”絶対的エース”の活躍を見越してのことだった。
しかし、今季開幕前に不整脈が発覚して戦線離脱。シーズン序盤まで、母国ブラジルに帰国して治療に専念していた。ようやく復帰したのは、第5節の湘南ベルマーレ戦。途中出場でピッチに立ったが、長いブランクの影響もあり、本来のキレのあるプレーぶりからはほど遠い状態にあった。
それでも、徐々に調子を取り戻していったドウグラスは、篠田監督の初陣となった大分戦で今季初ゴールを記録。「ほぼ100%(の出来)に戻った」と自信の表情を見せると、そこから前節の名古屋戦まで5試合連続、計6ゴールを決めた。まさに”エース”の完全復活が、快進撃の原動力となっているのだ。
それほどの活躍を見せても、ドウグラスが驕ることはない。
「チームメイトが自分にボールを出してくれなければ、ゴールを決めることはできない。(結果を出せたことは)チームメイトに感謝したい。そして、もっとゴールを決めるためにも、これからも毎日、しっかりと練習する」
これまで、サンフレッチェ広島や徳島ヴォルティスなどでプレーしてきたドウグラスは、日本語も堪能。自ら通訳としての役割も買って出て、他のブラジル出身選手と日本選手とのスムーズなコミュニケーションを実現させている。
常に「チームのために」と口にする”エース”は、日本選手からの信頼も厚く、「神」と呼ばれている。そんなドウグラスが万全となった今、チームの勢いはますます加速していくに違いない。
こうした状況にあって、周囲もチームのV字回復の可能性を感じ取っている。その視線の先には、開幕当時にはぼやけて見えなかった目標の「トップ5入り」も、はっきりと見え始めているはずだ。