男子テニス界ではBIG3が長年頂点に立っているものの、彼ら以外にも素晴らしい選手は多い。BIG3相手に毎回タイトルを争うとは限らなくても、時には名勝負を繰り広げ、このスポーツをより魅力的にして…

男子テニス界ではBIG3が長年頂点に立っているものの、彼ら以外にも素晴らしい選手は多い。BIG3相手に毎回タイトルを争うとは限らなくても、時には名勝負を繰り広げ、このスポーツをより魅力的にしてくれるベテラン・中堅勢を紹介していこう。

今回取り上げるのは、引退会見から一転、再起に向けて動き出したアンディ・マレー(イギリス)。

かつてロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)と共にBIG4と呼ばれたマレー。80年近く英国人に無縁となっていた「ウィンブルドン」優勝を2013年と2016年に達成したほか、2012年の「全米オープン」も制覇するなど、45のATPタイトルを獲得している彼の偉業について今更説明する必要はないだろう。

そんな彼が2019年1月、同シーズン限りの引退を表明した際には大きな話題を集めた。まだ31歳、2017年8月まで世界1位だった彼が涙ながらに口にしたのは、1年以上にわたり臀部の痛みに苦しめられており、テニスはおろか、日常生活すら満足に送れていないという悲痛な叫びだった。「大好きなテニスを楽しめなくなっている」

その会見から数日後、マレーは「全豪オープン」1回戦でロベルト・バウティスタ アグート(スペイン)に敗れはしたものの、2セットダウンからフルセットに持ち込む粘りを見せた。試合後に「これが現役最後の試合になるなら素晴らしい終わり方だった」と、痛みをこらえてすべてを出し尽くした表情は、どこか晴れやかだった。

2018年1月に手術を受けた臀部に再びメスを入れたのは2019年1月下旬。その目的は、テニスを続けるためではなく、あくまでも日常生活を楽にすることだった。今回の手術は成功し、ゴルフや犬との散歩が再び楽しめるようになった彼は、テニスの復帰に関してダブルスで様子見をする意思を3月に表明。これは似た手術を経てコートに帰ってきた前例であり、手術などに関して意見を聞いているダブルスのボブ・ブライアン(アメリカ)を参考にしたようだ。そしてエイプリルフールの4月1日には、壁打ちする動画をインスタグラムに投稿した。

大きな困難を経てテニスに対する考え方が変わったとマレーは語る。「痛みが消えて、家族や友人と一緒にテニス以外のことを楽しめるようになると、リラックスして、コートに戻れるかどうかが気にならなくなった。そうできたら素敵だけど、もし無理でも構わないよ。再びプレーできたとしても、勝利や成功に集中するよりも楽しみたいんだ」

そして手術から5カ月足らずの6月20日、ついにマレーはテニスコートに戻ってきた。大会は、シングルスで5回優勝している「ATP500 ロンドン」。友人であるフェリシアーノ・ロペス(スペイン)と初めて組んで出場すると、振り返りながらのボレーショットや強烈なフォアでポイントを重ね、「全仏オープン」でベスト4だった第1シードのペアをストレートで破ってみせた。

久々の実戦に「痛みを感じることなく再び楽しみながらプレーできた。嬉しいよ」と、手ごたえを口にしたマレー。リアクションの遅さなどを課題として挙げ、「ダブルスではそこまで問題じゃないけど、シングルスに向けてこれから数カ月かけて改善していきたい」と話している。7月1日に開幕する「ウィンブルドン」にはダブルスで四大大会すべてに優勝したピエール ユーグ・エルベール(フランス)と組んで出場する予定だが、順調にいけば「今年の終わりにはシングルスに出られるだろう」と前向きだ。

「痛みに苦しんでいた時は、プレーを楽しめなかったから勝利しても嬉しくなかった。でも僕はやっぱり子どもの頃からやってきたこのスポーツが好きだから、楽しめる限りは続けたい」と語るマレー。様々な苦労を経て「プレーする喜び」という原点に戻ってきた彼の次のステップを、世界中のファンが待ち望んでいる。

(テニスデイリー編集部)

※写真は「ATP500 ロンドン」でのマレー

(photo by Shaun Brooks/Action Plus via Getty Images)