恥骨炎からの、完全復活間近である。 9月のワールドカップに向けて代表候補60名を42名に絞り、6月8日から宮崎で始まったラグビー日本代表合宿。ケガや遠征で参加していない6名を除き、唯一別メニューで調整していたのが、「ブレイブ・ブロッサムズ…

 恥骨炎からの、完全復活間近である。

 9月のワールドカップに向けて代表候補60名を42名に絞り、6月8日から宮崎で始まったラグビー日本代表合宿。ケガや遠征で参加していない6名を除き、唯一別メニューで調整していたのが、「ブレイブ・ブロッサムズ(勇敢な桜の戦士たち)」の大黒柱、FL(フランカー)リーチ マイケルだ。



宮崎合宿から練習に参加できるようになったリーチ マイケル

 合宿当初、3カ月もグラウンドから離れていたリーチは、選手たちのタックル練習を羨望のまなざしで見ていた。ひとり黙々とランニングに精を出しながら、「ボールを持って走りたい!」気持ちを抑えていたという。そしてようやく、6月17日からスクラムやモールの練習に参加することができた。

「走るスピードは、ほぼ100%。まだ安心はしていないが、違和感はない。スクラムもPR(プロップ)から文句を言われていないから問題ない。今のところ大丈夫。これから少しずつ負荷をかけて、どれくらい股関節に影響するかを見ているところ。問題なければ、どんどん進めていく」

 練習後、リーチは険しい表情で語りながら、ややホッとした様子も見せた。

 日本代表はワールドカップ過去8大会で、いまだに決勝トーナメントに進出したことはない。それでも、リーチは「ベスト8」「ベスト4」、そして「出場するからには優勝を狙う!」と、徐々に目標を上方修正していった。それは、チームとして仕上がってきた自信の表われでもあるのだろう。ケガから完全復活すれば、リーチは日本代表の躍進に欠かせない選手となる。

 当初の予定では、リーチは今年1月に休暇を取った後、日本代表候補合宿や特別編成チーム「ウルフパック」を経て、4月からスーパーラグビーのサンウルブズで戦う予定だった。実際、3月上旬までは元気な姿を見せていた。だが、3月中旬の沖縄合宿中に恥骨炎を発症してしまう。

 恥骨炎とは、「グロインペイン」という呼び名でもよく知られており、サッカー日本代表の中山雅史、中村俊輔、長谷部誠なども苦しんだケガである。リーチはオーバーワーク、つまり筋トレのやり過ぎで発症してしまったようだ。リーチらしいと言えば、リーチらしいのだが……。

 リーチは別メニューでリハビリを重ね、5月の「ウルフパック」のオーストラリア遠征メンバーとして復帰すると思われていた。しかし、住まいのある東京・府中から成田空港、成田空港からシドニー、シドニーからキャンベラと、移動で15時間ほど座りっぱなしの状態が続き、恥骨炎を悪化させてしまう。

「骨折はくっつけば治るけど、(恥骨炎は)よくなったり悪くなったりを繰り返すので……」。さすがのリーチも、この時はメンタル的に落ち込んだという。

 ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)も、リーチの心情を察して気遣った。

「リスクを伴いたくなかったので、オーストラリアでの出場は避けました。ワールドカップでプレーすることが第一優先。(日本代表にとって)大事な選手なので、110%安心して試合ができるようになるまで守りたい」

 ジョセフHCはセカンドオピニオンとして専門医を紹介し、リーチは遠征途中にニュージーランドで治療を行なった。その成果もあり、リーチはようやく宮崎合宿の初日、約3カ月ぶりにスパイクを履いて走れるようになった。

 ただ、リーチの不在は、日本代表チームにとって悪いことばかりでもなかったという。

 国内外で6試合行なった「ウルフパック」の目的のひとつに、ジョセフHCは「リーダーシップの育成」を掲げていた。ジョセフHCは就任後から選手たちの自主性を重んじ、現在リーダーシップグループは8人で構成されている。リーチが不在でも、ほかの選手がリーダーシップを発揮し、チームに刺激を与えるようになった。

 ジョセフHCはリーダーシップグループについて、こう語る。

「積極的に働き続けること、信頼関係を構築すること、チームの理念や取り組む姿勢を他の選手に促すこと……。彼らはいい仕事をしてくれています」

 対するリーチも、チームメイトがリーダーとして成長する姿をこう見ていた。

「(リーダーシップの育成は)うまくいっています。僕がキャプテンしなくてもいいくらい(リーダーシップグループが)積極的に動いている。姫野(和樹)、流(大)、松島(幸太朗)、稲垣(啓太)……みんな自分から動いていました」

 リーチは宮崎合宿最初のミーティングで、チームメイトにこう語りかけた。

「サンウルブズでもない、ウルフパックでもない。日本代表なので、日本代表の自覚を持って行動しよう。一日一日を大事にして、いい準備をしよう。そして、人に言われる前に行動しよう」

 6月24日から、宮崎合宿は第2クールに突入する。リーチは様子を見ながら、徐々に本格的な練習に参加する予定だという。ただ、昨年12月の試合を最後に実戦から遠ざかっているため、「ゲームフィットネスは試合をやりながらつけていきたい」と語り、7月末に岩手・釜石で行なわれるPNC(パシフィック・ネーションズ・カップ)のフィジー代表戦での復帰を目指している。

 ワールドカップを2度経験し、運動量豊富でランニングスキルも高いリーチは、日本代表が躍進するために必要不可欠な存在だ。世界クラスの「6番」の完全復活は、もう間近である。