昨季、屈強な相手に立ち向かい、最前線で体を張り続けたフランカー幸重天副将(文構4=大分舞鶴)とフランカー柴田徹(社4=神奈川・桐蔭学園)。全国大学選手権(大学選手権)では5年ぶりの準決勝に進むも、明大に敗戦。目標には届かなかった。最終学年…
昨季、屈強な相手に立ち向かい、最前線で体を張り続けたフランカー幸重天副将(文構4=大分舞鶴)とフランカー柴田徹(社4=神奈川・桐蔭学園)。全国大学選手権(大学選手権)では5年ぶりの準決勝に進むも、明大に敗戦。目標には届かなかった。最終学年となり、チーム内で重要な役割である寮長、副将にそれぞれ就任。私生活、競技面2人のリーダーは現在どのような心境か。日本一への思い、ラストイヤーにかける思いを伺った。
※この取材は3月30日に行われたものです。
「年越しを経験できたのは大きかった」(幸重)
落ち着いた口調で話す幸重副将
――昨シーズンを今改めて振り返るといかがですか
幸重 昨シーズンは監督が変わったということで、春はチームのやりたいことが浸透できていませんでした。最初は思ったような結果が出なくて厳しかったのですが、夏合宿の帝京大戦などの色々なターニングポイントを経てチームがどんどん成長していきました。結果的には年を越すことができたというのは、一つのカベを超えられたという点では大きな成果だったと思います。ですが、何度も言うように、やはりまだ「日本一」というところには届いていません。しかし、昨年出た結果というのは今年につながると思うので良かったと思います。
――久々に「年を越した」というのはチームにとってもいい方向に進んでいる、ということですね
幸重 そうですね。やはり去年は全学年が年越しを経験していなかったので、未知の世界でした。今年日本一をとるに当たって、一度経験できたというのは大きかったと思います。
――最後の試合になった明大戦を振り返っていこうと思います。明大に及ばなかったと思うところはどこだと考えますか
幸重 やはりセットプレーの部分でプレッシャーを受けてしまったことと、明大さんのゴール前で取り切る力がすごかったことです。強みを全面に押し出してフォワードで取り切るところで、自分たちが我慢しきれませんでした。対抗戦とは異なり、「やられてしまった」という印象です。
――明大が22年ぶりに大学選手権で優勝したということで、意識される部分はやはりありますか
幸重 決勝戦を見に行っていたのですが、正直天理が勝つのかなと思っていました。ですが明大が勝ったことで、留学生がいなくても勝てるというのを明大が証明したと思います。関東大学対抗戦(対抗戦)で1回勝っている明大が優勝したというのは、「自分たちもあの場に立てていたら」と考えると、すごく悔しかったです。悔しい気持ちで試合を見ていました。
――柴田選手は大学選手権の明大戦で佐藤真吾前主将(平31スポ卒)と交代されましたが、その時に交代に対してどのような気持ちでしたか
柴田 「手の打ちようがないな」と感じていたので、真吾さんに「この状況を打開してほしい、頼みます」というような思いでした。「任せた、お願いします」という感じでした。
――昨年度の変化として、皆さんが「主体性」をキーワードに挙げている印象です。主体性を重んじる体制になってみて、実際にどのようなことを感じましたか
幸重 ラインアウトやスクラムの分析は、昨年まではコーチがやってくれたものを提示されて、それを受けて「こうしましょう」と言われたことをやっているだけでした。今年は、試合を学生が分担して分析して、「ここはこうだからこうしよう」というのを、自分たちで理解してやっています。修正できたり意見を言い合ったりできるようになったことは、2年前とかに比べたら成長したところかなと思います。
難しかったところは、自分たちでやっていくなかで、コーチと合わなかったりすることがあったことです。「自分たちでやっていてうまくいくのか」と思うときがあったり、コーチ陣と上手くいかないときもあったりして、難しかったですね。
柴田 選手の方から考えて動いているな、という感じはありました。しかし、「主体性を磨いていこう」という中でも、試合になると誰かに頼ってしまう雰囲気はあったので、そこは今年生かせる反省材料かなと思っています。もっと一人一人が頭を使って考えられるようになればいいかなと思いますね。
――コーチ陣と上手くいかないときに、橋渡し役となる方は誰だったのでしょうか
幸重 ラインアウトとかに関しては、ラインアウトリーダーをやっている人、去年だったらロック下川甲嗣(スポ3=福岡・修猷館)が、選手とコーチ両方と話して、ちょうど上手く取りまとめてくれたという感じでしたね。
それぞれ副将と寮長に就任
――今年度の役職についてお聞きします。幸重選手は副将に就任しましたが、どのタイミングで自分が副将になると意識し始めましたか
幸重 3年ぐらいから飲み会のときとかに、「お前じゃね?」みたいなことはあって。それから「俺なのかな…?」と感じる部分はありました。学年で投票してもらったときに、結構たくさんの票を入れていただいて。そこでやはり「これだけ思ってくれる人がいるんだ」と思い、ありがたかったです。その中で直人(SH齋藤主将、スポ4=神奈川・桐蔭学園)に指名してもらえたというのは、「頑張らないといけないな」という気持ちになりました。
――副将になってから少し経ちましたね
幸重 僕としては、副将になったから人を変えようというのはあまりなくて、後輩とも今まで通り接しています。ただ、練習の中で意識して声を出したりするところは変わったかなと思いますね。
――こういう副将になりたい、という理想像はありますか
幸重 自分は最初Aチームには絡んでいなかったですし、そこから上まで経験してきたということは他の選手にはないところだと思います。その経験をもとに、下の選手の目線に立ったり、自分が下にいたときにしてほしかったことやチームの状況を考えたりして、そのときの反省を生かしてチーム全員に同じ方向を向かせられるような副将になりたいと思っています。
――副将就任から少し経ちましたが、柴田選手から見て幸重選手はどのような副将ですか
柴田 もう本当に頼り甲斐があるというか。やはり「一皮むけたな」という感じがしますよね。3年生のときと比べて、さらに周りを見るようになったなと思います。練習中の声掛けとかもそうですけど、周りへの配慮、目配り気配りがすごいと感じますね。本当にいろんな人に話しかけるんですよ。そういうところだと思いますね。
――柴田選手に、寮長についてお聞きします。寮長は、寮の規律を決めたりすることが主な仕事なのですか
柴田 そうですね。まとめてしまえば規律を整えることですかね。注意喚起もそうですし、時間や清掃など、私生活の部分ですかね。
――寮長になった経緯を教えていただけますか
柴田 お風呂に入っているときに、直人に「徹、寮長やってくれる?」と言われて。「あ、わかった」って言いました(笑)。
――そこまでは、「自分が寮長になるのかな」とは感じていたのでしょうか
柴田 感じていましたね。寮長って、結構面倒臭いような仕事もあるんですよ。「ザ・真面目なやつがやる」みたいな感じで。みんながやりたくないからかどうかはわからないですが、「いや、徹じゃね?」みたいに前年のうちから言ってくるんですよ(笑)。それもありましたし、実際そのポジションも僕の性格に合っているのかなと思ったのもありました。
――仕事は具体的にどのようなものがありますか
柴田 毎朝7時に起床コール、夜の10時にも消灯コールをかけます。元々寝坊はしないですが、絶対に寝坊なんてできないですし、あとは色々なチェックがあります。ですが、今となってはそれがグラウンドでのプレーにもつながってくるなと実感しているので、「面倒臭い」なんていうレベルの低いことは言っていられないですね。やりがいを感じています。
――現在の寮の雰囲気はどのような感じなのでしょうか
柴田 いいんじゃないですかね。僕らの代は怖い人があんまりいないんですよ。結構フランクにやっています。脱衣所に『今日のテーマ』というボードがあって、そこに本日のテーマを書いて、その内容をお風呂で話し合ったりしています。元カノの人数とか、くだけた内容を話してコミュニケーションを図っています。そういうのも今年から始めたので、いい雰囲気で寮生活ができているのではないかなと思っています。
――「今日のテーマ」以外に、今年から新たに始めたことはありますか
柴田 掃除のシステムを変えました。毎日掃除をしていたのですが、1日強化日を作って、その代わり1日掃除の日を減らしました。それで心に余裕ができたのかはわからないですが、寝坊する人が全然いなくなりましたね。何がきっかけかはわからないですけど(笑)。少なからずきっかけではあるのかなと思います。
――掃除を1日減らしたことで、周りからの反響はありましたか
柴田 それまでは、オフの日でも掃除をするために、9時半に帰ってこなければいけませんでした。10時までに帰ってくればいいのに、30分早く帰ってこなければいけなくて。オフの日の掃除をなくしたので、しっかり遊べるということで反響はありましたね(笑)。休むところは休んで、遊ぶところは遊んでというふうに切り替えています。
フランカーとして
――お二人はどちらもフランカーで、昨年は左右フランカーとして出場する機会も多かったですね
幸重 同じポジションで、試合中は仲間ですが、プレーはいつも見ていますし、いいプレーをしていると「俺も頑張らなきゃな」と感じます。仲間でありライバルであり、刺激をもらっていますね。
――お互いのプレーで、こういうところいいなという部分があれば教えてください
柴田 僕が苦手とするところなのですが、ボールを持ってしっかりと前に出るところですかね。僕ができない部分なので、より一層輝いて見えますね。
幸重 徹は、フィットネスがあって、試合中にずっと喋り続けています。タックルはもちろんなのですが、喋り続けられるのがすごいなと思っています。声の質もあるとは思いますが、どこにいても徹の声が響いていて。「すごいな、見習わないとな」と思いますね。
――プレー面において、自分自身で課題だと感じているところはありますか
柴田 僕は、今も言った通りですが、ボールを持ったときにどれだけ前に出られるかですね。それは今年の課題かなと思っています。
幸重 タックル自体の回数だったり、体を張り続けるところだったりは持ち味として持っているのですが、その質というのはまだまだ向上できると思っています。ラスト1年で磨いていきたいと思っています。
笑顔を見せる柴田と幸重副将
――少しプライベートな内容に移ります。お互いの他己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか
幸重 柴田くんは、すごい自分に厳しく人にも厳しく、鏡のような人間です。
柴田 雑すぎ(笑)。
幸重 かと言って、カッチカチではなく柔軟性がある人だと思います。
柴田 そうなんですかね(笑)。天は、常にみんなを笑わせようとするような、明るい性格です。先輩後輩同期など年齢は関係なく誰とでも仲がいいですし、貪欲に笑いを求めていますね。でもプレーになるとしっかりスイッチが入ります。そういうメリハリがありますね。たまに怒られることもありますが、それが良さであるかなと思いますね。
――オフの日は何をしていますか
柴田 最近は就活ですかね。就活に追われています。
――卒業後はラグビーを続けるのでしょうか
幸重 僕は、ラグビーで行こうとは考えていなくて。就職先にラグビーができる環境があれば続けますし、仕事などの環境を選んでやっていこうと思っています。
柴田 僕は土日に「やろうぜ〜」って言って集まるくらいではやりたいですね。
――先日の長期オフは帰省されましたか
幸重 齋藤、下川、ロック中尾(悟、スポ4=神奈川・桐蔭学園)、瀬尾勝太(スポ4=福岡)が福岡と大分に遊びに来てくれました。福岡に遊びに行ったり、大分で温泉に入ったりしましたね。日頃からみんなに大分をバカにされるので、大分の魅力が伝わってよかったなと思います。
柴田 同窓会だったり、姉の結婚式だったり、大きなイベントがありましたね。長期オフの後に、それぞれが各所の名産品を持ち寄るのですが、それが楽しかったです。美味しいものをシェアしたのが楽しかったです。
僕は富山県出身なので、ますのお寿司を買って帰りました。秋田、岩手、鹿児島、大分、など全国各地の美味しいものを持ち寄りました。
幸重 僕が持って行った『かぼす餅』は大不評でした(笑)。大分っぽいなと思って買ったんですけど…。
柴田 唯一余る、っていう(笑)。
幸重 みんな全然食べてくれなくて(笑)。でも、自分も確かに「なんじゃこりゃ」と思いました。次は違うのにチャレンジしようと思います。
――就活の息抜きやリラックス方法はありますか
幸重 最近本当に息抜きできてないんですよね。もしかしたら食堂にいる時間かもしれないですね。みんなでワイワイ騒いで、息抜きできる時間です。部屋に帰ってしまうと、一人になって「ああ…」ってなってしまうので、食堂でみんなと話していると気持ち的にちょっと楽になりますね。
柴田 確かに、その時間が息抜きになっている説あるね。
「悔しさを晴らすには、『荒ぶる』しかない」(柴田)
――チームのスローガンが決定したと伺いました。そこに込めている思いをそれぞれ教えてください
幸重 テーマを決める段階で、4年生がどういうチームにしていきたいかという思いを全部出してもらいました。そこからまとめていって、自分たちの思いが入るようなスローガンにしたので、4年生はそのスローガンに自信を持っていると思います。それをしっかり下のチームに伝えて、チームが一つになるキーワードになればいいかなと思います。
柴田 天が言ってくれた通りで、4年生の思いがすべて集約されたスローガンになっていると思います。そこには自信を持っています。何か辛いこととかがあっても、そこに立ち返っていきたいと思います。
――今年度の目標を教えてください
幸重 まず、チームとしては大学日本一、『荒ぶる』を奪還するというのが目標です。個人としては、試合に出続けて、その中でチームを引っ張っていけたらなと思います。
柴田 全部言われちゃいました(笑)。
――『荒ぶる』のために、どういうチームにしていきたいですか
幸重 やはりチーム全体で戦う意識を持てるようにすることだと思います。去年はまとまっていたと思いますが、中での競り合いが少なかったと思います。そこは全員が一軍を目指して戦う姿勢を持っていけたらと思います。僕は去年は出られていたかもしれませんが、下からのプレッシャーがあればもっと自分も成長できるし、もしかしたら自分が出られなくなるかもしれないし。そうやってチーム全体がどんどん強くなっていって、その中で自分が出て引っ張れたらなと思います。
柴田 チーム全体で戦っていきたいですが、ただの仲良しこよしではなくて、厳しいことも言い合って成長していけるようなチームを目指していきたいです。それもしながら、最後は自分が試合に出てチームを引っ張っていきたいです。
――春シーズンの抱負を教えてください
幸重 監督以下のコーチ陣が変わったということで、どういうラグビーをするのかをまだ擦り合わせていません。どういうラグビーをするかはわからないですが、春に上のリーグ(関東大学春季大会Aグループ)で戦えるということは昨年とは違って大きなチャンスだと思っています。そこでどれだけ自分たちの力が出せるかだと思います。例年春に結果を残せていないので、「夏、秋で伸びる早稲田」と言われているかもしれませんが、春も1試合1試合しっかり成長できるようにやっていきたいと思います。
柴田 1試合1試合挑戦していきたいなというふうに思っていますね。去年からずっと「チャレンジャー」と言ってきているので。天も言ってくれましたが、「春は負けても…」みたいな雰囲気があったのですが、そんなのはなしで、しっかり勝ちにこだわってチャレンジしていきたいです。
――春シーズンでポイントだと思う試合はどこでしょうか
幸重 やはり帝京大戦と明大戦です。明大さんは昨年優勝されていますし、早明戦という舞台は春、秋関係ないと思います。帝京大さんも、昨年負けたとはいっても、これまで9連覇してきた大学なので、自分たちにとって大きな壁であることは間違いありません。どれだけやれるかチャレンジしてみたいです。
――他大学で意識している選手はいますか
幸重 僕は天理大のフランカー岡山くん(仙治)です。遠征とかで一緒になって、ディフェンスでチームの流れを変えられるような選手を目の当たりにして。それこそ、大学選手権の準決勝と決勝のプレーも見ていました。小さくてもチームのために体を張って引っ張ることができる選手に僕もなっていきたいなと思っています。
柴田 特定の個人はいないですが、やっぱり高校の同期がいるチームには負けたくないですね。慶応、明大、成蹊大、東海大、上智大、専修大…いろんなところにいるのですが、特に高校の同期には負けたくないです。
――『荒ぶる』へ向けて、意気込みをお願いします!
柴田 ここまでの3年間で、去年が一番悔しい思いをしました。目の前で先輩たちが泣いているのをここまで見てきて、ものすごく悔しい気持ちが募ってきていて、それを晴らしたいという思いが本当に溢れています。そのためには『荒ぶる』を取るしかないと思っています。
幸重 大学4年間で『荒ぶる』を取れずに終わるのというのは将来後悔すると思います。絶対最後は僕らが『荒ぶる』を取って卒業して、後輩たちにいいものを残せるように精進していきたいと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 石井尚紀、石名遥)
両フランカーの活躍に期待です!
◆幸重天(ゆきしげ・たかし)(※写真左)
1998(平10)年1月29日生まれ。175センチ、93キロ。大分舞鶴高出身。文化構想学部4年。果敢なボールキャリーは折り紙付きの幸重選手。ムードメーカーとしても早大には欠かせません!『天、幸重のすべらない話』は部内でも好評を博しているとか…。
◆柴田徹(しばた・てつ)(※写真右)
1997(平9)年5月12日2日生まれ。173センチ、89キロ。神奈川・桐蔭学園高出身。社会科学部4年。高校時代は副将だった柴田選手。最終学年の今季は寮長としてチームを日本一へと導きます。粘り強く最後まで体を張り続けるプレーは見逃せません!一時期ペン習字を練習していたそうで、なるほど達筆の謎が解けました。お気に入りのYoutubeは「ディスカバリーチャンネル」。