早いもので2019年のNTTインディカー・シリーズは折り返し点を迎えた。5月から6月にかけては、インディカーグランプリに始まり、インディ500予選、インディ500決勝、デトロイトでのダブルヘッダー、そしてテキサスと、今年も5週間休みな…

 早いもので2019年のNTTインディカー・シリーズは折り返し点を迎えた。5月から6月にかけては、インディカーグランプリに始まり、インディ500予選、インディ500決勝、デトロイトでのダブルヘッダー、そしてテキサスと、今年も5週間休みなしの強行軍が続いた。



テキサスでのレース序盤、快調に首位を走る佐藤琢磨

 ここで勢いに乗ることがチャンピオンシップでは大きなポイントになるのだが、それを果たしたのがジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)だった。デトロイトのレース1とテキサスで合計2勝、開幕戦の優勝と合わせて勝ち星を3に伸ばし、ポイントリーダーの座を保っている。

 1シーズンに3勝すると、チャンピオンになれる可能性は高まる。ホンダ対シボレーがワンメイクシャシーで対決を始めた2012年以降だけでも、7年間で2回、3勝のドライバーがタイトルを獲得している(いずれもスコット・ディクソン)。

 2017年のインディカー・チャンピオンであるニューガーデンは、強運の持ち主だ。今シーズンだけを見ても、デトロイトとテキサスの勝利はギャンブル性の高い作戦が大当たり。トップに出たアドバンテージを活かして逃げ切った。

 テキサスでは予選7位で、レースでも走りが冴えずにポジションを上げられず、トラフィックに揉まれ続ける状態が延々と続いた。そんなニューガーデンを救ったのは、レース中盤過ぎのイエロー中に彼をピットへ呼び入れ、トップグループとのピットタイミングを変える作戦だった。

 上位陣が燃費を気にしてペースを上げ切れない走行を続けたのに対し、ニューガーデンは新品タイヤと満タンの燃料で全開走行。レース終盤の勝負どころでも、ライバルたちよりタイヤが新しい優位にあり、アレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)の猛攻を振り切ることに成功した。チーム・ペンスキーの素早く確実なピット作業も勝利に大きく貢献した。

 ニューガーデンのなすべきことは、強運で引き込んだ優位を勢いに変えること。幸いにも、昨年圧勝したロードアメリカが次のレースだ。

 一方のロッシは、第2戦サーキット・オブ・ジ・アメリカスと第7戦デトロイト・レース1で間違いなく最速だったが、スピードを勝利へとつなげることができなかった。レース展開を味方につけて勝利を挙げたニューガーデンとは対照的だ。インディ500ではシモン・パジェノー(チーム・ペンスキー)がわずかに速く、2位に甘んじた。

 テキサスでのロッシは、予選こそ11位だったが、レースではトップ争いに加わり、最後の最後で優勝のチャンスをうかがった。しかし、結果は今シーズン3回目の2位、7回目のトップ5となった。

 ロッシは今のインディカー・シリーズで最も”乗れている”ドライバー。走りのキレで彼に対抗できるのは、絶好調時のウィル・パワー(チーム・ペンスキー)か、驚異的パフォーマンスを見せているルーキーのコルトン・ハータ(ハーディング・スタインブレナー・レーシング)ぐらい。ニューガーデンを25点差で追うポイント2番手のロッシとしては、不運の連鎖を断ち切りたいところだ。

 テキサスでは、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)がクラッシュで17位、佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)がピットでのアクシデントで13位となってポイントを伸ばせなかった。このまま今年のタイトル争いはニューガーデン対ロッシの一騎打ちとなるのか。それを阻止するためには、パジェノー、ディクソン、琢磨らが、次戦ロードアメリカで好成績を挙げ、ポイント上位に踏ん張り続ける必要がある。

 テキサスの予選では、琢磨がポールポジション(PP)を獲得した。昨年はチーム・ペンスキーが予選でトップ3を独占し、琢磨は9位だったが、1年で立場を逆転させた。その背景には、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングのエンジニアリング能力の向上がある。インディ500ではPP争いができなかったが、1カ月足らずのうちに、マシンをトップレベルまで大幅に引き上げてみせた。

 琢磨は、「テキサスの予選は、ダウンフォースを小さくすればいいってものでなく、マシンのスライドを最小限に抑え、2ラップ目にタイムが落ちないよう、ダウンフォースはある程度つけていくのが正解」と、PP獲得の秘訣を明かす。そうした味付けが可能なレベルにまで、高いマシンの仕上がりを実現していた。

 レースでも、琢磨は序盤戦を力強くリードした。ディクソンを突き放してトップを快調に60周走り続け、燃費も上々だった。大きな空気抵抗を受ける先頭を長く走りながらの好燃費はライバルを驚かせた。

 しかし、最初のピットストップで自分のボックスに止まり切れず、クルーにぶつかって勝利のチャンスを失った。ペナルティも課せられ3周遅れに陥り、挽回は不可能となった。

 幸いにもクルーは手首の軽いケガだけで済んだが、なぜ琢磨があそこまでのオーバースピードでピットにアプローチすることになったのか、ドライバーにもミスがあったのは確かだろうが、果たしてそれだけが原因だったのか。ナイトレースのピットの暗さなども影響していたはずだ。チームは同じミスが二度と起こらないよう、対策を施す必要がある。

 テキサスでは予選9位だった琢磨のチームメイト、グレアム・レイホールが3位で今季初の表彰台に上った。これはグッドニュースだ。琢磨のアクシデントで下がりそうだったチームの士気は高く保たれることになった。

 残りは8レース。初タイトルを狙う琢磨にとっての朗報は、ほぼその全コースで過去に好パフォーマンスを見せていることだ。常設ロードコースが4戦と最も多いのもの、第4戦バーバーでポールトゥウィンを飾っている琢磨にとっては、マシンに高い戦闘力が期待できる好材料。ショートオーバル2戦のうち、アイオワは去年優勝争いをしたコース。ポコノの高速オーバルも得意とするうえ、テキサスでPPを獲得したことから、いい走りが期待できる。残り1戦となったストリートも、トロントは去年優勝争いを展開したコースだ。

 未知数なのは最終戦、久しぶりの開催で琢磨がレースをしたことのないラグナ・セカ(ロードコース)だけだろう。チャンピオン獲得に意欲を燃やす琢磨とレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングが、シーズン後半戦、どんな戦いぶりを見せるのか、楽しみだ。