全仏テニス準決勝でナダルに敗れたものの、最高のプレーを見せたフェデラー ロジャー・フェデラーが、センターコートから去る時、観客から”ロジャーコール”が巻き起こり、その時ラファエル・ナダルは、ベンチから自分が倒した相手へ敬意を表するかのように…



全仏テニス準決勝でナダルに敗れたものの、最高のプレーを見せたフェデラー

 ロジャー・フェデラーが、センターコートから去る時、観客から”ロジャーコール”が巻き起こり、その時ラファエル・ナダルは、ベンチから自分が倒した相手へ敬意を表するかのように拍手を送った。そして、フェデラーの姿が見えなくなると、今度は”ラファコール”が湧き起こり、観客のボルテージは頂点に達した--。

 全仏テニス(ローランギャロス)準決勝で、第2シードのナダル(ATPランキング2位、5月27日づけ以下同/スペイン)は、第3シードのフェデラー(3位、スイス)を6-3、6-4、6-2のストレートで破り、3年連続12回目の決勝進出を決めた。

 2019年ローランギャロスで、多くのファンから一番望まれていた対戦の実現だった。数々の名勝負を繰り広げて来た2人が、全仏の舞台で再び対峙したのだ。

 フェデラーは、男子史上最多となるグランドスラムタイトル20個を誇り、ナダルは17個(史上2位)で、フェデラーを追いかけている。

 30歳を過ぎてからも、フェデラーが4個、ナダルが3個のグランドスラムタイトルを獲得しており、円熟味が増す中でも、実績と経験に裏打ちされた強さを発揮して、37歳のフェデラーと33歳のナダルは共に”生けるレジェンド”にふさわしい存在感を見せつけている。

 今回で39回目の対決となる2人の対戦成績は、フェデラーが15勝、ナダルが23勝。

 2017年10月のマスターズ1000・上海大会決勝以来、久しぶりの対戦となった。

 最近はフェデラーが5連勝(2019年3月のインディアンウェルズでのナダルの棄権を含まず)しており、ナダルの勝利は、2014年全豪オープン準決勝まで遡らなければならない。

 ただし、レッドクレーでの対戦に限ると、ナダルが13勝、フェデラーが2勝で、ナダルが大きく勝ち越している。クレーでのフェデラーの勝利は、2009年5月のマスターズ1000・マドリード大会決勝で10年も前のことだ。

 そして、ローランギャロスでは2011年の決勝以来8年ぶりの対戦となった。これまでローランギャロスでは、2005年準決勝、2006年決勝、2007年決勝、2008年決勝、2011年決勝、5回すべてナダルが勝っている。

 実はフェデラーにとって、全仏での試合は4年ぶりだった。

 2017年と2018年は、クレーシーズンをスキップして、グラス(天然芝)シーズンに備えていたが、今季フェデラーは、コンディションが良好なことから、クレーシーズンを戦うことを春に表明。体力的な負担の大きいクレー大会に出場するために、周到な準備を行ない、家族とコーチ陣から同意を得た。そして、最終的に全仏への出場に青信号が灯ったのだ。

「パリに戻って来られて、とてもうれしい。今の自分のキャリアにおいては健康であることが本当にキーになる」

 こう語るフェデラーは、2009年ローランギャロスで念願の初優勝をすると同時に、テニスの4大メジャーをすべて制覇するキャリアグランドスラムも達成したことがあり、決して忘れることのない記憶と記録になっている。

「もちろん10年前にここで優勝したことは、夢の実現でした。自分の人生の中ですばらしい瞬間のひとつでした」

 そして、ローランギャロスへの帰還を決めると、ナダルとの再戦も自然とフェデラーの意識の片隅に生まれた。

「クレーで戦うことを決めた時、できればラファとの対戦が実現すればと思っていた。彼を避けようとする心構えなら、クレーで戦うべきではない。この心構えが、準決勝までいいプレーができた助けになっている」

 一方、ナダルは、2005年に初優勝してから実に11回もの全仏のタイトルを手にしてきた。今年の準決勝までで全仏での対戦成績は91勝2敗という驚異的な数字を残しており、他の追随を許さない。”キングオブクレー”は、まさにナダルにふさわしい称号だ。これは彼の絶え間ない向上心があったからこそで、彼の努力の賜物だ。

「高いゲームレベルを維持することが自分の目標です。ほんの少しでも進化できれば。健康であることにも重きを置いています。メンタルもフィジカルもフレッシュであれば、いい状態で競うことができます」

 フェデラーとの対戦が決まったナダルは、「私たちはキャリアの中で重要な局面を共有してきた。特別な瞬間になるだろう」と試合を心待ちにしていた。

 準決勝は、強風が吹き荒れ、ときにはコート上のレンガの粉を吹き上げて砂嵐が巻き起こる難しいコンディションの中での試合となり、両者共に何とか適応しながらプレーしていった。

 フェデラーは攻撃的なプレーで果敢にネットへ出るものの、ナダルがダウンザラインへのカウンター気味のパッシングショットを何度か決めて、雄叫びをあげながら右拳を高く突き上げた。さらに、ナダルは自分のミスをできるだけしないように、重要な場面ではフェデラーのバックサイドに強力なトップスピンのかかったボールを集めてミスを誘った。

 結局、「自分のゲームプランに自信を持っている」と言うナダルが、クレーではフェデラーのプレーを凌駕して、大会史上最多となる12回目の優勝まであと1勝とした。

「再びローランギャロスの決勝に戻れた意味はすごく大きい。容易ではなかったし、(右ひざの)ケガからのカムバックだったから。この2~3週間高いテニスレベルに戻れたことを誇りに思う」

 ラファがこの勝利を喜ぶ一方で、フェデラーも長年のライバルを最大限に称えた。

「ラファは、クレーでのベストプレーヤーだ。その事実を受け入れることができる。クレーでは信じられないような能力がある」

 だが、負けたとはいえ、37歳でベスト4の結果を残したフェデラーもまた賞賛に値する。クレーシーズンが始まる前はまったく自信がないと語っていたフェデラーだったが、今回の全仏出場の選択が正しかったことを証明した。

「すばらしい大会だった。大会終盤に残れるなんて自分自身で驚いているし、実際、大会中はいいプレーができた。(久しぶりの)クレーシーズン、そしてフレンチオープンを楽しめたよ」

 そしてナダルは、フェデラーと自分のキャリアが終盤に来ていることを自覚しつつも、もう少しフェデラーと共にテニスを楽しむ時間があればと望んでいる。

「僕たち2人に、あと数年すばらしい未来が待っているといいね。もちろん10年もここ(全仏)にはいないだろうけど」

 今後、我々は、フェデラーとナダルの黄金対決をあと何回見ることができるだろうか。

 2019年の全仏で1回戦や2回戦ではなく、準決勝で2人の対決が実現したのは、テニスの神様が与えてくれたギフトだったのかもしれない。