「(ネーションズリーグについて)多くの人やクラブが懐疑的に見て、反感さえ持っているようだ。興味がないという人もいる。…

「(ネーションズリーグについて)多くの人やクラブが懐疑的に見て、反感さえ持っているようだ。興味がないという人もいる。しかし実際には多くのチームが相手をしのごうとし、下部のチームは懸命に昇格を目指した。たしかに、当初は複雑なシステムだと思っていたけれど、徐々に明確になっていった。とても有意義な大会だよ」

 ネーションズリーグ決勝トーナメントの前日会見で、スイスのヴラディミル・ペトコビッチ監督はそう言った。今シーズンから始まったUEFAネーションズリーグは代表チームのリーグ戦で、トップディビジョンを勝ち上がった4チームが、頂点を目指してトーナメントを戦う。



ポルトガル代表で7度目のハットトリックを達成したロナウド

 リバプールのユルゲン・クロップ監督は「世界でもっとも意味のない大会」とこき下ろした。ドイツはリーグA(トップディビジョン)のグループ1で最下位になり降格してしまったが、大会の価値が見出せなかった分、ショックも少ないなどと言うファンもいる。

 クラブの指揮官からすれば、代表で真剣勝負がさらに増えることを危惧する気持ちはわかるし、いちファンはそんなふうに強がって母国の代表の地盤沈下に目を背けたくなっているのかもしれない。ただしニュートラルな視点に立てば、選手たちが流してプレーしているようなフレンドリーマッチよりも、何かをかけて戦っている姿を観るほうが断然いい。

 そして、ポルトのドラゴン・スタジアムのピッチ上には、期待を大きく上回るハイテンションな攻防が繰り広げられた。

 決勝トーナメント開催国ポルトガルの代表は、EURO2016の覇者だが、この時はグループリーグで3分けし、決勝トーナメントも4試合中3試合で延長戦を戦って制したぎりぎりの優勝だった。つまりこの大会を制すことになれば、一点の曇りもない欧州王者の称号を手にすることになる。「選手たちのモチベーションはスーパーだ」と前日に話したフェルナンド・サントス監督は、前線にクリスティアーノ・ロナウドとジョアン・フェリックスを並べた。34歳の前者はグループステージを回避、19歳の後者はこれが代表デビュー。つまり二人とも、これが初めてのネーションズリーグの舞台だった。

 その後ろのナンバー10の位置には、マンチェスター・シティでプレミアリーグを連覇したばかりのベルナルド・シウバを置き、アンカーにウォルバーハンプトンのルベン・ネベスを配するダイヤモンド型の4-4-2を採用。最終ラインを統率したのは36歳の大ベテラン、ぺぺだ。

 対するスイスは、スタートはフラットな4-4-1-1ながら、ヤングボーイズでメキメキと頭角を表すドレッドロックの右SBケビン・ムバブが頻繁に高い位置を取り、得意の突破とクロスで攻撃の端緒を開いた。1トップにはポルトガルのベンフィカで活躍するハリス・セフェロビッチ、その後ろで自由に攻撃を司ったのがリバプールの一員としてチャンピオンズリーグを制したばかりのジェルダン・シャキリだった。

 試合開始からどちらも激しいバトルを繰り広げ、ポルトガルのブルーノ・フェルナンデスがスイスのスティーブン・ツバーを削ったかと思えば、突破を試みるロナウドをムバブが後ろから倒して、ポルトガルに好位置でFKが与えられる。するとロナウドは壁の右上を越えて落ちる強烈なキックで、ポルトガルに先制点をもたらした。

 一方のスイスも後半にボールが止まった状況から同点に追いついたが、成り行きは「変な60秒」(ペトコビッチ監督)だった。52分に後方からのフィードを追ったスイスのツバーとポルトガルのネウソン・セメドがもつれて倒れるも笛は鳴らず、試合は続行。するとそこから逆襲が始まり、今度はベルナルド・シウバがスイスのボックス内で倒されてPKが与えられる。スイスが憤然と抗議すると、主審はVARでリプレーを確認し、判定は覆ってスイスにPKが与えられた。これをスイスのレフトバックのPK職人、リカルド・ロドリゲスが沈めてゲームは同点に。

 そこから試合は拮抗していき、中盤のつぶし合いに時間が割かれていく。グラニト・ジャカがベルナルド・シウバを激しくチャージし、シャキリがゴンサロ・グエデス(ほぼ何もできずほろ苦い代表デビューとなったフェリックスと交代で出場)を倒して、どちらもイエローカードを提示される。かたや、警告を一度も受けなかったポルトガルでは、ネベスのシンプルかつ巧みなゲームメイクが光り、左MFのウィリアム・カルバーリョは激しくもフェアなボール奪取でピンチの芽を摘み取っていく。

 すると、延長の可能性も感じられた88分、ネベスの見事なフィードをベルナルド・シウバがボックス右で優しくトラップし、中央に横パスを送る。ここに走り込んできたロナウドは、トップスピードのまま右足をミートさせ、勝ち越し点をマーク。さらに90分には、カウンターからグエデスのスルーパスを左で受けたロナウドが、ドルトムントのマヌエル・アカンジを子ども扱いするようにかわして、カットインから右足のシュートで力強くネットを揺らした。

 スタンドには無数のポルトガル国旗が振られ、『The White Stripes』の”Seven Nation Army”のメロディに合わせて、「オー、クリスティアーノ・ロナーウド!」と何度も連呼される。母国に帰ってきたスーパースターが、代表として自身7度目のハットトリックを達成。重要な一戦の勝利の立役者となった。

 前日の会見で、スイスのペトコビッチ監督は「ロナウドはケーキの上のチェリー(物事を完成させる最後のピース)。とはいえ、ポルトガルは一人の選手に依存しているチームではない。分析したところ、もっとも重要なのはロナウドの相棒のようだ」と言っていたが、フェリックスが不振に終わり、グエデスが最後の得点をアシストしたため、半分は外れ、半分は当たったということになるか。その敗軍の将は試合後、「私が言ったように、チェリーが違いを作ったね。(ロナウドは)4本シュートを放って、3ゴールを奪った」と脱帽した。

 ポルトガルのフェルナンド・サントス監督は、地元の記者に「ポルトガル語は形容詞が豊富です。あなたは今日のロナウドをどんな形容詞で表現しますか?」と聞かれ、「形容詞は無理だ。表現するなら、天才だ。アートの世界に天才がいるように、彼はフットボールの天才だ」と言って讃えた。

 時間があっという間に経過していった熱戦を制し、不世出の天才を擁するポルトガルが、またひとつ偉業に近づいた。