将来が楽しみな日本の若手がグランドスラム・ジュニアデビューを果たした。望月慎太郎、6月2日に16歳になったばかりだ。 錦織圭、西岡良仁などと同じ盛田正明テニスファンドの奨学生で、アメリカ・ブラ…

将来が楽しみな日本の若手がグランドスラム・ジュニアデビューを果たした。望月慎太郎、6月2日に16歳になったばかりだ。 錦織圭、西岡良仁などと同じ盛田正明テニスファンドの奨学生で、アメリカ・ブラデントンのIMGアカデミーで腕を磨く。昨年9月のジュニアデビスカップに日本代表で出場、シングルスで5勝するなど、日本の5位進出に貢献した。

今年は1月にコスタリカのグレード1大会で優勝、全仏前哨戦のベルギーの大会ではベスト4に入った。 一見して、遅いボールをうまく使う選手だと感じた。配球と緩急でミスを誘ったかと思えば、一転、強打でウィナーを取る。クレーコートが得意と見たが、IMGアカデミーで指導にあたる山中夏雄コーチによると「クレーは苦手。日本選手に多い、早いタイミングでパンパンパンパーンとやるタイプ。速いコートが得意だった」という。

今は、クレーの戦い方を「試合で学んでいる」(山中コーチ)ところだ。今回のヨーロッパ遠征はこれが6大会目。初の四大大会となる全仏に照準を合わせ、クレーの5大会をこなしてきた。

もちろん、以前にもクレーの大会を経験したが、わずか6大会目でクレーコーターのようなプレーを披露できるのは適応力のたまものだ。山中コーチは「(目標を与え、そこに)ピントを合わせて大会を回らせれば、適応してくる」と目を細める。

望月のゆるいボールがクロスの浅いところに飛んでいく。一見、甘いボールだが、相手は前に入れず、攻撃的に返球できない。トップスピンの深いクロスと、回転量の少ないショートクロスのミックスに、相手が戸惑っているのが分かる。その返球を待ち構えてダウン・ザ・ラインにアタックする。このショットも、ストレートと逆クロス気味のボールなど、コースは多彩だ。さらに、ネットに詰めてフィニッシュに持っていく形も頻繁に見せる。ベテランのような組み立ての妙、パターンの豊富さだ。

山中コーチが小さく笑いながら、二人の秘策(?)を教えてくれた。 「メチージュの動画を見せたんです」

ミロスラフ・メチージュ。覚えてる方もいるだろう。チェコ・スロバキア(当時)が生んだこのショットの魔術師。今は解説で活躍するマッツ・ビランデルと同年代で、良きライバルでもあった。素早く、かつ柔らかい身のこなしで、メチージュには「ビッグ・キャット」の異名があった。ショットは極めて柔らかく、同じチェコ出身のイワン・レンドルと好対照だった。

その「無回転のアングルショット」(山中コーチ)から学んだのが、あの、やわらかいボールだった。山中コーチによると、こうしたクロスへの攻め方は直近のクレーの5大会で身につけたものだという。動画で学び、クレーの実戦で練習、四大大会ジュニアで披露するというのがこの世代らしさだが、短期間でものにする学習能力の高さ、このしたたかさは、どの選手にもある才能ではない。175㎝の身長は錦織と西岡の中間くらい。体の線はまだまだ細い。だからこそ、こうして武器を増やすのだ。

「西岡も、圭もそうですが、基本的に(海外の選手との)体格差は変わらない。そこでどう戦うか。体が大きくなればショットの質は上がる。でも、そこはあてにしないで、今の状態でどうやって勝つかを徹底的にやっています」

盛田ファンドの先輩たちの名を挙げて、山中コーチが育成方針を明かした。

8強入りが懸かる3回戦は、第1セットを7-5で取ったところで雨が激しくなり、順延となった。このまま勝てば、初めての四大大会ジュニアの舞台で、錦織が06年に全豪ジュニアと全仏ジュニアでマークしたベスト8の成績に並ぶ。

(秋山英宏)

※写真は2019年「全仏OPジュニア」3回戦の望月

(Photo by The Tennis Daily)