前日、2日がかりの4回戦を終えた時点で、錦織圭は燃料タンクがすっかり空になったと感じていた。翌日の準々決勝は「まったく動けないくらいかな」と覚悟した。しかし、治療とリカバリーで、残量ゼロに近か…

前日、2日がかりの4回戦を終えた時点で、錦織圭は燃料タンクがすっかり空になったと感じていた。翌日の準々決勝は「まったく動けないくらいかな」と覚悟した。しかし、治療とリカバリーで、残量ゼロに近かった体力は、いくらか目盛りを戻した。実際、この試合では「思ったより動けていた」という。と言っても、コンディションは「15とか20(%)」という状態だった。

ラファエル・ナダル(スペイン)は中1日の休養をとって準々決勝に臨んだが、錦織は4回戦が2日がかりとなったことで3日連戦となった。初戦からの4戦の合計所要時間では、ナダルの9時間8分に対し、錦織は13時間22分と4時間以上も余計にプレーしていた。

 5セットマッチを二つ制したのは立派だったが、その後の勝ち上がりを考えれば、消耗は最小限に抑えたい。この状態でナダルに挑まねばならなかったこと自体、錦織の失敗だった。

 ナダルが終始、高い集中力を保っていたことも指摘しておきたい。速いファーストサーブとよく跳ねるセカンドサーブで錦織のリターンを封じ、数年前から質を上げたバックハンドで錦織のフォアを厳しく攻めた。ナダルが振り返る。

「もちろん、ケイは間違いなくいつもより疲れていた。でも、僕も自分のやるべきことがうまくできた。ボールはよく飛んでいた。やることをやるだけだった」

 クレーコート・キングに盤石のプレーをされては、ただでさえ立ち向かうのは困難なのに、「15とか20」ではチャンスは少ない。体が動いていないからヒッティングポジションに入れず、ショットは安定性を欠いた。武器であるはずの反応も少しずつ遅れ、ボールを追えなかった。

 それでも、錦織らしい頑張りは見せた。フォアハンドで主導権を握ろうという意図は明白だった。ただ、攻めようという気持ちはあっても、肝心のショットが精度を欠いた。アンフォーストエラーは3セットで30本、ナダルのプレーにミスを強いられたフォーストエラーは29本に達し、これだけで自分の総獲得ポイント55を超えてしまった。

「最初の2セットはコート上にいるのがつらかった」というほど一方的な内容となる。「体が動かなかったのでフラストレーションはたまった」が、それでも、最後まで下を向かなかった。

 この気力が、四大大会で4大会連続、準々決勝以上に進出という、BIG3にも匹敵する好成績を支えてきたのだ。

 しかしながら、そのBIG3を超えるのは容易ではない。昨年のウィンブルドンと全米オープン、そして今年の全豪オープンではノバク・ジョコビッチ(セルビア)に敗れ、今回はナダルに行く手を阻まれた。全豪では4回戦までの4戦のうち3試合が5セットにもつれ、体力切れで臨んだジョコビッチとの準々決勝は途中棄権となった。今回も似たような経緯での敗退となった。

 BIG3にいかに挑むかという以前に、いかに消耗を抑え、すなわちセットを落とさずに、ランキング下位選手との対戦を切り抜けるかを考えなくてはならない。全豪で明確になった課題だが、今回もクリアできなかった。

 もっとも、個々の戦いを見れば収穫は少なくない。ラスロ・ジェレ(セルビア)との3回戦と、ブノワ・ペール(フランス)との4回戦では、最終セットに恐るべき集中力の高さ、攻めの厳しさを見せた。もたついても最後に勝てるのは、土壇場で攻める力、精神力があるからだ。

 また、この春からの不振を抜け出し、「クレーでの戦いではここが一番良かった」とショットの調子を取り戻した。「次の芝(グラスコートシーズン)には、いい気分で入れる」と自信を回復させたのは、なによりの好材料だ。

 間違いなく、この好感触が前に進む力に、課題に挑むモチベーションになる。

 100%は到底無理でも、いかに高いコンディションに持っていけるか。錦織と陣営の、4強入りを懸けた戦いはすでに始まっている。

(秋山英宏)

※写真は「全仏オープン」での錦織圭

(Photo by Julian Finney/Getty Images)