ペールは100%に遠く及ばない出来だった。試合後には「普通なら3セットか4セットで負けていただろう」と話している。5試合を戦って優勝した前週からの疲労もあったのか、動きは重く、彼には珍しく、硬…

ペールは100%に遠く及ばない出来だった。試合後には「普通なら3セットか4セットで負けていただろう」と話している。5試合を戦って優勝した前週からの疲労もあったのか、動きは重く、彼には珍しく、硬くなってイージーミスをおかす場面も少なくなかった。トリッキーなプレーで相手を幻惑する魔術師ペールも、これだけミスが増えれば怖さは半減する。ところが、錦織も彼らしくない稚拙なゲーム運びで混戦を招いてしまう。

 第2セット2-2からのペールのサービスゲームは0-30となった。次のポイント、バックハンドで返球したペールは体勢を大きく崩し、アドコート側に広いオープンスペースができた。どこに打ってもウィナーが取れる状況だが、錦織はフォアハンドをネットに掛けてしまう。結局、ブレークの機会を逃し、次のゲームで逆にブレークを許して相手を生き返らせた。

 突き放せずに、泥沼に足をとられるような戦いを招くのは、3回戦とまったく同じだった。

 勢いに乗れなかったのは、第一に体のコンディション、次にショットへの自信のなさだろう。

 3回戦で約4時間半のフルセットを戦い、この4回戦も2日にまたがる乱戦。しかも、前日、3セットで日没順延となった時点ですでに約2時間20分もプレーしていた。

「フレッシュな状態ではなかった。脚が思うようには動いてくれなかった」

 と錦織が明かした。さらにやっかいだったのは、ショットの不安定さだった。第1セットもベストではなかったが、ごまかしごまかし、切り抜けた。しかし、第2セット、既述した第5ゲームの逸機くらいから、こわごわ打つ状態になった。腕が縮むからショットの精度が落ち、ボールを置きにいくから相手に狙われる。

 体のコンディションと自信には当然、相関関係がある。小兵の錦織を支えるのは、年々、たくましさをましたフィジカルだ。体力不足は、彼のテクニック、特に調整力をもってしても補えるものではない。脚が動かないことで手打ちになって、ショットの精度は落ちる。ねらい通りのボールが打てなければ、ショットへの不安が増す。この連鎖を断ち切るのは難しい。

「ファイナルセットはあんまり勝てるとは思っていなかった」という。

「相手のプレーも良かったですし、自分のサービスゲームでは常にプレッシャーを感じていました」

 と錦織が振り返る。ところが、その状況から盛り返すのだから、この選手はやはり違う。しかも、この最終セットは3-5で相手のサービスゲームと、土俵際まで追い込まれたのだ。最終セット0-3まで追い込まれた3回戦より、さらに厳しい状況だった。ところが、またしても錦織が反発力を見せる。

「3-5からプレーが良くなった。攻撃的にプレーできた。フォアハンドで主導権を握ることができた」

 最後の最後にギアを上げ、本来のプレーを取り戻した。「動けていなかったので、気力で戦っていた」という錦織が見せた底力だ。

 四大大会では昨年のウィンブルドンから4大会連続の準々決勝進出となる。4強入りを果たせば全仏では自身初、日本の男子選手としては1933年の佐藤次郎以来86年ぶりとなる。

 大会第10日に予定されるラファエル・ナダル(スペイン)との準々決勝には、3日連戦で臨むことになる。3回戦で4時間26分、4回戦では3時間55分のマラソンマッチを強いられた。「たぶん、フレッシュ(な状態)は無理です」と錦織は正直だ。

 大きなハンディを背負ってクレーコート・キングに挑むことになる。

「できるだけ(コンディションを)戻す。どこまで戻ってくるか分からないですけど。長いラリーが必然的に多くなるので、どうにかしてリカバリーしたいと思います」

 100%は到底無理でも、いかに高いコンディションに持っていけるか。錦織と陣営の、4強入りを懸けた戦いはすでに始まっている。

(秋山英宏)

※写真は「全仏オープン」での錦織圭

(Photo by Clive Brunskill/Getty Images)