ローランギャロスの赤土でファビオ・フォニーニ(イタリア)の試合を見るのは、ちょっとした幸福だ。しかも、対戦相手はクレーコート巧者のロベルト・バウティスタ アグート(スペイン)なのだ。この日一番…

ローランギャロスの赤土でファビオ・フォニーニ(イタリア)の試合を見るのは、ちょっとした幸福だ。しかも、対戦相手はクレーコート巧者のロベルト・バウティスタ アグート(スペイン)なのだ。この日一番の好カードだった。控えめに言っても、楽しみなマッチアップだった。

両選手とも、組み立てて1ポイントを取るテニスの持ち主だ。179㎝のフォニーニと182㎝のバウティスタ アグート。今の男子ツアーでは小柄な両者、サーブ1本で終わるポイントは少ない。

しかも、それぞれ独特のスタイルがある。テニス職人のバウティスタ アグートは回り込んで打つ逆クロスのウィナーから逆算し、将棋のようにポイントを組み立てる。一方、フォニーニはしっかり組み立てを作りながら、一瞬のひらめきも重視する。粘りも思い切りも、どちらも一級品だ。ロジャー・フェデラー(スイス)や錦織圭(日本/日清食品)とは違った意味で、プレーに遊びがあるのもいい。

余談ながら、フォニーニは歩く姿もいい。上体を反らせ気味に、外股気味に、肩で風を切ってコートを歩く。紳士風、優男風の選手の中で強面ぶりが突出する。

期待した通り、ロングラリーが序盤から続いた。第1セットは1時間17分もかかった。早い試合なら第3セットくらいまで進んでる時間だ。しかし、進みが遅くても、まったく退屈しない。

サービスゲームのブレークが相次いだが、両者、それも承知の上でゲームを進めているように見える。特にフォニーニ。ブレークポイントでも最初のポイントでも、手堅くとか、堅実に、という言葉は彼の中には存在しないようだ。

強い日ざしのもとで行われた3時間10分の戦いを制したのはフォニーニだった。 「3時間もやってしまったよ。第1セットは1時間15分もかかった。ラリーが長くて、すごく長引いてしまった」

勝っても負けても、彼の口調はぶっきらぼうだ。

フォニーニと言えば、昨年、デビスカップイタリア代表として来日、単複3勝を挙げる大車輪の活躍で、一人で日本を倒した。会見の最後に盛岡の印象を問われると、こんな答えを返している。

「猛暑のメルボルンから来てみたら、雪だ。東京には来る機会があるかもしれないが、この街に来ることはもうないだろう」

英語の語彙が豊富ではないので、突き放すような受け答えになったが、そもそも社交辞令を返しておこうという気がないのだ。チームの勝利を決めたあとだったが、不機嫌そうな表情は最後まで変わらなかった。

忖度とは無縁。そもそも、ずっと本音で生きてきた人間なのだろう。外見のことを言っては悪いが、とても聖人君子には見えない。たとえは古いがマカロニウエスタン映画でクリント・イーストウッドのかたき役でも務めていそうな強面だ。

思い出すのが、2011年全豪オープンで錦織圭と対戦した1回戦だ。途中、コーチに何ごとか話しかけたフォニーニに日本人の観客が「英語で話せよ」と英語で声を掛けた。コーチングのルール違反を疑ってのことだが、これは明らかに観客の方の勇み足。フォニーニは何ごとか言い返し、一瞬、不穏な雰囲気になった。テニスの試合では珍しい出来事だった。

少し脱線しすぎたようだ。強面対職人の話である。

両者のスタイルは、展開を考え、組み立てて、それを成功させて、初めて得点に至る。そこにメンタル、フィジカル、偶然性がからむから、うまくいくこともあれば、いかないこともある。粘って、展開を作って、ようやく、というところで最後に失敗することもある。

もともと、テニスというのはそういうものなのだ。そこが面白いのだ。

パワーに左右される部分が大きくなりすぎているからこそ、組み立て重視の両者のせめぎ合いが強烈な印象を残した。長いラリーと両者のかけひきが堪能できた。

勝ったフォニーニは、4回戦では第5シードのアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)と当たる。

「今は疲れているし、少し痛みもあるけれど、1日以上あるから大丈夫さ。(足の故障が)重くないといいけど。できるだけ回復に努めるよ」とフォニーニ。

バウティスタ アグートとは違ったタイプのズベレフとの、激しいグラウンドストローク戦が楽しみだ。

(秋山英宏)

※写真は「全仏オープン」でのフォニーニ

(Photo by Clive Mason/Getty Images)