今年のインディ500では、2度目の挑戦となった元F1チャンピオンのフェルナンド・アロンソが予選落ちを喫し、超高速をキープして走る世界最大のレースが独特の世界であることがあらためて証明された。一筋縄ではいかない難しさ、奥深さを備えている…

 今年のインディ500では、2度目の挑戦となった元F1チャンピオンのフェルナンド・アロンソが予選落ちを喫し、超高速をキープして走る世界最大のレースが独特の世界であることがあらためて証明された。一筋縄ではいかない難しさ、奥深さを備えているのが100年以上の歴史を誇るインディ500なのだ。

 103回目のインディ500を制したのはシモン・パジェノーだった。フランス出身のパジェノーは2006年にアメリカに渡り、2011年にインディカーにスポット参戦するチャンスを与えられると、スピードと手堅さの両方を見せ、翌2012年にホンダ・エンジンを使うチームのレギュラーに抜擢された。

 そこから3年間で4勝を挙げて、2015年にシリーズ最強のチーム・ペンスキーに移籍、2016年にチャンピオンに輝いた。アメリカで奮闘を始めて11年目にひとつめの夢を叶えると、その3年後、もうひとつの目標だったインディ500での優勝を、8回目の挑戦で成し遂げた。

 2008年のインディ500ウィナー、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)は、燃費でアドバンテージを築いてチャンスをつかもうとしたが、展開が味方せず、最後はアクシデントに巻き込まれた。

 2013年ウィナーのトニー・カナーン(AJ・フォイト・エンタープライゼス)と2014年ウィナーのライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)は、今年は優勝を狙えるレベルまでマシンを仕上げることができなかった。

 また、インディ500で3回勝っているエリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)は、序盤に他のドライバーが犯したミスの餌食となり、史上最多の4勝目は今年も実現しなかった。

 そして、昨年のウィナー、ウィル・パワー(チーム・ペンスキー)は、ピットクルーにぶつかる自らのミスでペナルティを課され、優勝争いから脱落。



一時は周回遅れになりながら、インディ500で3位となった佐藤琢磨

 キャリア11回目、インディ500で初のポールポジションを獲得したパジェノーは、200周のレースで116周をリードした。スピードがあったのは確かだが、手のつけられないほどの速さではなく、常に逆転される危機に晒され続けていた。そして終盤、彼に挑んだのはアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)と佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)だった。ロッシは2016年、琢磨は2017年のウィナーだ。

 いつもどおり、バトルが過熱する終盤にアクシデントが重なり、最後のリスタートがゴールまで残り13周で切られることになった。フルコースコーションが出る直前にトップに出ていたロッシを先頭にしてレースは再開されたが、グリーンフラッグに合わせた加速が絶妙だったパジェノーがトップを奪い返した。

 このあと、彼らはさらに3回もポジションを入れ替えた。残り2周でロッシがターン1でトップに立った時は、大逆転での優勝が決まったかと思われた。しかし、パジェノーは冷静かつハングリーだった。1周半をかけ、199周目のターン3でロッシを抜き返した。ロッシは最終ラップのターン3でも、ターン4からゴールラインまでの加速でも逆転を目指したが、一歩及ばず。0.2086秒の差でパジェノーがウィナーとなった。

「人生最大の夢が叶った。本当に信じられない。予選前のプラクティスからマシンが速く、あとは自分がその力をフルに発揮し、不運に見舞われないことを祈るだけだと考えていた。以前に慎重になりすぎて勝機を失った経験から、今年はマシンを信じて全ラップ攻め続けた」と、パジェノーは語った。

 彼ら2人のすぐ後ろでゴールしたのが琢磨だった。最後の13周、彼はトップを走ることも、2位に浮上することもなかったが、ドラフティングを使っての大逆転が可能なのがインディカーのレースだ。琢磨は虎視眈々と前を行く2台を突くチャンスを伺っていた。

 最後のリスタート時、琢磨は5番手だった。レース序盤にピットのミスで周回遅れに陥ったが、100周以上をかけてリードラップに復帰した琢磨は、最後のピットストップがフルコースコーションの直前というタイミングのよさから優勝争いに加わることになった。

 琢磨はリスタート直後、ターン1でエド・カーペンター(エド・カーペンター・レーシング)をアウトからパス。インディ500で3回もポールポジションを獲得しているインディアナ州出身のカーペンターは、インディ500優勝を究極の目標に掲げている。その彼を豪快にアウトから抜き去ったのだ。

 カーペンターはターン3で琢磨のインサイドに飛び込んできた。彼自身、抜き返せたと思ったことだろう。しかし、琢磨は譲らず、2人はサイドバイサイドのままコーナリング。アウトからの高いスピードでコーナーに飛び込んだ琢磨が4番手の座を守った。このバトルには観客席が大きく沸いた。

 ゴール前10周、琢磨はジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)をパスする。場所はターン3。カーペンターに競り勝った時以上の切れ味の鋭さで、パジェノーのチームメイトをアウト側から抜き去った。

 勢いづく琢磨。スピードウェイに集まった30万人を超すファンは、パジェノーとロッシの死闘を見守りつつ、琢磨の可能性にも期待を抱いたようだ。歓声はさらに高まった。ウィナーとなったパジェノーも、琢磨が襲いかかってくるのを覚悟したという。

「前を走るのがあと2台になった時は、”やるしかない!”と思いました。でも、パジェノーは強かった。一度は2ラップダウンになりながら、ここまで挽回できたのですから、チームがすばらしい働きをしてくれたということです。今日は優勝したシモン・パジェノーにおめでとうと言いたいですね。アレクサンダー・ロッシと私は、持てる力のすべてを振り絞り、戦い切りました」と琢磨は語った。

 勝つことはできなかったが、最後までレースを大いに盛り上げる走りを見せ、トップ3フィニッシュを達成したことで、その表情は清々しかった。

 これで琢磨はランキング4位に再浮上。初のシリーズタイトル獲得に向けた戦いを続ける。