身長155.5㎝の小柄な体は信念のかたまりだ。日没順延で2日がかりとなった女子シングルス1回戦、奈良くるみは自分の信じるゲームプラン、自分のスタイルを貫いて、2時間43分を戦い抜いた。 ダリラ…
身長155.5㎝の小柄な体は信念のかたまりだ。日没順延で2日がかりとなった女子シングルス1回戦、奈良くるみは自分の信じるゲームプラン、自分のスタイルを貫いて、2時間43分を戦い抜いた。
ダリラ・ヤクポビッチ(スロベニア)は奈良と似たタイプ、一発のヒット力はないが、積極的に前に入って攻めてきた。思い切りよく打つフラットはよく伸び、切れ味のあるドロップショットもやっかいだった。
27日の午後7時過ぎにスタートした試合は、両者が1セットずつ取り合ったところで日没順延になった。
ここまでで2時間近くかかっている。走り比べ、時間の奪い合いが、予選から4試合目となる奈良の体力を消耗させた。
第2セットの奈良は、日没順延となることを願いながらプレーしていたという。それくらい、この2時間にすべてを出しきったという意味だ。
一晩のインターバルではリカバリーは到底、不可能だ。そこで「体もキツく、できることは限られる」と割り切り、再開後はリラックスして臨むことを考えたという。
しかし、ヤクポビッチは最終セットも好調を維持、奈良は1-3と先行を許した。それでも奈良は踏みとどまる。ここが試合の大きな分岐点となった。
「ロングラリーを避けすぎている。もう一度、気持ちを切り替えよう」
体力は100%を大きく割り込んでいる。そこで、ひとまず長いラリーを避け、早い勝負を目指したが、早々にプランを見直したのだ。試合前のプランはそれとして、実戦で得た情報、感覚をもとに状況をとらえ直す。まさに試合巧者の真骨頂だ。
「とにかく重いボールからスタートして、じっくりやってみよう」
もともと、これが本来の形だ。重いボールとは、しっかり回転をかけ、高い弾道でベースライン深く打ち込むトップスピン。このショットからの組み立てが効果を上げ、予選から勝ち上がった。奈良がそのボールの効用を明かした。
「じっくりやることで、自分が前に入るパターンも増えた。ディフェンスではなく、自分のプレーのため、コートを広く使うために、まず、ゆっくりのボールを入れる。それが後半、効いてきたと思います」
重いボール、着地後にしっかり跳ねるボールを深く打てば、相手は容易に強打できない。返球が甘くなるのを予測し、前に入って厳しいコースに展開する。状況によってはウィナーを決めにいく--パワーだけでは勝てない奈良が、磨いてきた戦術だ。
これで試合は大きく様相を変えた。1-3から5ゲーム連取で、奈良が勝利をつかんだ。
「この2日間は気持ちがしっかり折れずに頑張れたと思います」
表情に満足感が溢れた。
WTAツアーレベルでは17年9月のタシケント以来の勝利となった。
現在の世界ランキングは238位。自己最高の32位から大きく降下している。下部サーキットではそこそこ勝てても、ツアーや四大大会など大きな大会で勝たないことにはランキングは上がらない。
「こういう大きい大会で勝つことの重みは感じる。チャンスをものにできたことはすごく大きい」
と奈良が勝利を噛みしめた。ランキングポイント、そして、再浮上のきっかけは喉から手が出るほどほしいはずだ。ランキングポイントや賞金だけではない。自分が信じてきたこと、やってきたことの正しさをこの勝利で証明できたのだ。
大きな勝利だった。2日間、2時間43分の頑張りが報われた。四大大会の勝ち星は17年全米以来、そこから1年9カ月の苦闘が報われた瞬間でもあった。
(秋山英宏)
※写真は奈良くるみ(Photo by Clive Brunskill/Getty Images)