異次元のプレーだった。男子シングルス第2シードのラファエル・ナダルが、全仏オープン初出場のヤニック・ハンフマンを6-2、6-1、6-3で圧倒、2時間足らずの早業で2回戦進出を決めた。 この全仏には12度目の優勝がかかる。男女を通じて、同一の…

異次元のプレーだった。男子シングルス第2シードのラファエル・ナダルが、全仏オープン初出場のヤニック・ハンフマンを6-2、6-1、6-3で圧倒、2時間足らずの早業で2回戦進出を決めた。

 この全仏には12度目の優勝がかかる。男女を通じて、同一の四大大会で12回も頂点に立った選手はいない。ナダルは昨年大会で11度目の優勝を飾り、女子のマーガレット・コートが全豪オープンで達成した記録に並んだ。1970年代後半から90年にかけてウィンブルドンを席巻したマルチナ・ナブラチロワでさえ優勝は9回と言えば、「11回」の重さが伝わるだろう。

 2005年に19歳で初優勝した頃に比べ、格段にプレーが早くなった。相手の甘いボールを見逃さず、ぐいぐい前に入っていく。ダウン・ザ・ラインへの展開に躊躇はない。早々とヒッティングポジションに入り、深いふところをつくって構えると、相手は足がすくんだようになって動けなくなる。

 あとは広く空いたスペースにボールを突き刺すだけだ。ウイニングショットも、得意のフォアハンドの逆クロスだけでなく、バックハンドで叩く場面も増え、自由自在の攻めを見せる。

 以前は堅実な守りがプレーの土台だったが、小さなモデルチェンジを試みたからこそ、10年以上も勝ち続けることができたのだ。攻撃的なスタイルへの移行には苦労したが、それを忘れさせるような攻めのスムーズさがこの試合でも見られた。

 正しくは、スタイルを変えたのではない。男子テニスの動向に合わせ、攻撃的に進化させたのだ。この進化こそ、ナダルらしさ、クレーコートの王者の真骨頂と見るべきかもしれない。

 進化の原動力は、猛練習だ。練習について、ナダルはこう話している。

「僕にとってよかったのは、2時間でも3時間でも、強度の高い練習を常にこなせていることだ。それがすべてだ。それこそ僕がキャリアを通じてやってきたことだ。僕は何かを向上させようとコートに足を運ぶ。そうすることで、生きていると感じるんだ。向上のプロセスが僕の情熱を呼び起こす」

 努力できることは素晴らしい才能だ、という常套句があるが、ナダルほどこの言葉を体現するテニスプレーヤーはいない。

 全仏は「最も重要なトーナメント」だという。これまでに11回優勝していても、「毎年が新しいチャレンジだ」とナダルは言う。

 この日の試合後には「今日(1回戦)は最初のチャレンジをクリアできたから、あさっては2番目のチャレンジだ。それしか道はない」と話した。優勝へのチャレンジは、すなわち一戦一戦のチャレンジの積み重ねなのである。

 チャレンジは実は前哨戦から始まっていた。今シーズンは開幕から優勝がなく、一つ前の大会、マスターズ1000のイタリア国際でようやく初タイトルを獲得した。得意のクレーでなかなか勝てず、一昨年、昨年に続く全仏3連覇を不安視する向きもあったが、しっかり帳尻を合わせ、この大会に臨んだ。

 これまでも、そうやって大小のチャレンジを続け、たどり着いたのが11個の全仏タイトルなのだ。

 初優勝の05年以降、ナダルが全仏で優勝を逃したのはわずかに3度。09年にはロジャー・フェデラーが、16年にはノバク・ジョコビッチが優勝しており、フェデラー、ナダル、ジョコビッチの「BIG3」以外の優勝は、15年にスタン・ワウリンカが優勝した1度きりだ。開幕日のフェデラーに続き、この日はジョコビッチも快勝で2回戦に進出した。ナダルを含め、BIG3がそろって初戦をストレート勝ち。所要時間はいずれも1時間半から2時間の間に収まっている。

 昨年準優勝の第4シード、ドミニク・ティームや、クレーコートのテニスに開眼し、マドリードでナダルを破った第6シード、ステファノス・チチパスなど、V12をねらうナダルの前に立ちふさがるライバルは多いが、やはり第1シードのジョコビッチと第3シードのフェデラーは最大の難関だろう。ナダルにとってはそこが最大の「チャレンジ」となる。

(秋山英宏)

※写真は「ATP1000 ローマ」でのナダル(Photo by Clive Brunskill/Getty Images)