錦織圭が難しい初戦を無難に乗り切った。相手は主催者推薦出場の世界ランク153位、カンタン・アリス(フランス)。四大大会のシングルスでは16年全豪と同年全仏で1勝ずつしただけで、下部ツアーを中心…

錦織圭が難しい初戦を無難に乗り切った。相手は主催者推薦出場の世界ランク153位、カンタン・アリス(フランス)。四大大会のシングルスでは16年全豪と同年全仏で1勝ずつしただけで、下部ツアーを中心に戦う22歳だ。恐れる要素は何もないはずだが、錦織にはそうとも言えない事情があった。

 昨年の全仏でも同じく主催者推薦の地元選手と当たった。ストレートで勝ったものの、相手の恐れを知らない強打に、終始、我慢のプレーを強いられた。

 今年の全豪では、予選から勝ち上がった当時176位、カミル・マイクシャク(ポーランド)に苦しめられ、立ち上がりから2セットを連続で失った。それでも2セット連取で盛り返すと、最終セットは相手がケイレンを起こし途中棄権した。逃げ切った錦織は「(相手は)すごく良いテニスをしていた。もし元気だったら危なかった」と胸をなで下ろした。

 四大大会ではランキングは大きな意味を持たないとも言われる。予選を勝ち上がった選手は勢いに乗り、地元の応援を背に登場した選手は一世一代のプレーを見せようと張り切る。ただでさえ、大きな大会の初戦は難しい。ボールのバウンドなど試合環境にはまだ慣れず、独特の緊張感も強敵となる。

 しかも、錦織の全仏に向けてのクレーコートシーズンは、思うように運んでいなかった。昨年準優勝のモンテカルロは初戦の2回戦で敗退。ローマでは準々決勝でディエゴ・シュワルツマン(アルゼンチン)に敗れ、「全仏に向けて気持ちを切り替えていくしかない」と話した。

 このときは、調子は「ベストではない」と正直に話したが、「毎週毎週、よくはなっているので、そこまで気にはしていない」と、つとめてポジティブに現状と向き合おうとする様子も見てとれた。

 大なり小なり不安を抱えて臨んだ大会、しかも難しい初戦に6-2、6-3、6-4のストレートで勝てたのは大きい。体力も温存できたし、何より内容がよかった。

「反省点はほぼなかったです。プレーはよかったので。相手のミスが早かったのは、自分のプレーが彼を焦らせたところもあった。早いタイミングでプレーできた。自信にはなりました。この2カ月くらいのクレーコート大会の中ではすごくよかったので、自信になりました」

 今、何よりほしいのは、この自信だ。このクレーコートシーズンは、大事なゲーム、大事なポイントが取れず、もたつく場面が目立った。ショットの調子は戻ってきたが、あふれるほどの自信がないために、ここという場面でたたみかけることができず、勝ち星が増えなかった。

 錦織にとって自信のみなもとは、第一に練習だ。ショットの感触がよくなければ徹底的な練習で修正し、自信を回復させる。開幕2日前の記者会見では、プレーの鍵を握るフォアハンドのストロークについて「毎日、ちょっとずつはよくなっている。いい準備はできている」と話した。この1回戦でも終始、攻撃的なショットを繰り出した。相手の反撃にあった第3セットも、耐えるのではなく、攻めて状況を打破した。錦織は「最後の数ゲームはフォアハンドを使って攻撃的にできた。パフォーマンスには満足している」と快勝を振り返った。

 2回戦ではジョーウィルフリード・ツォンガ(フランス)とペーター・ゴヨブチック(ドイツ)の勝者と当たる。ツォンガには15年大会の準々決勝でフルセットで敗れた苦い思い出もある。錦織はこの相手について「勝てるイメージはできていますが、底力というか、トップクラスのフォアハンドとサーブ、前に出るパターンがあるので脅威ではあります。大変にはなる」と警戒する。

 滑り出しは上々だ。勝ち星は、当然ながら、選手に自信を与えてくれる。それを、まず一つ手に入れることができた。一つずつ増やしていけば、当面の目標である大会第1週を乗り切ることができるはずだ。

(秋山英宏)

※写真は全仏オープンでの錦織(Photo by Clive Mason/Getty Images)