昨年の全米オープンで大坂なおみが優勝すると、彼女の使用するラケットが脚光を浴びた。市販モデルのEzone 98にプロ専用の改造を施したもので、ベースとなるモデルは3万円前後の価格帯だ。一時は市…

昨年の全米オープンで大坂なおみが優勝すると、彼女の使用するラケットが脚光を浴びた。市販モデルのEzone 98にプロ専用の改造を施したもので、ベースとなるモデルは3万円前後の価格帯だ。一時は市販品と同等との情報が流れたことから、「弘法筆を選ばず」との話題で持ちきりになった。事実、ガットは市販品と同じものを使用しているという。スターの相棒を務めるラケットの秘密に迫る。

♦︎コントロールに優れる独特なヘッド

上級者向けラケットの特集を組むIndependent紙は、数ある市販品のなかから選び抜かれたモデルを紹介。そのなかでも大坂なおみが使用するもののベースとなったEzone 98をイチ押しの商品に選定している。一般的な楕円形のフレームとは異なり、トップの部分をフラット気味に仕上げた「アイソメトリック・ヘッド」が特徴的。コントロールが効きやすい逸品になっており、仮にガットのセンターを外れても打ち損じは少ない、と同紙は評価している。

アイソメトリック・ヘッドは、同社が30年かけて進歩させてきた。従来のラケットと比較すると、無理のない返球を生みやすいスイートエリアが約7%拡大している。楕円形から長方形に近い形にまでフレームを広げることで、スイートエリアを大きく取るという発想だ。日本のものづくりの精神に加え、独特なヘッドでアスリートたちに魅力を振りまいている、とForbes誌は述べている。

♦︎高弾性カーボン採用で抜群のパワー

Ezone 98は、HYPER-MGと呼ばれる高弾性カーボンをフレームトップ部に採用。通常のカーボンの倍以上の弾性率を誇り、パワーと安定性に優れたモデルとなっている。Tennis.comのEzone 98レビューは、先行モデルのEzone DR 98はボールがスイートスポットを外れると不安定になる問題があったが、高品質なカーボンの採用によってこの問題の解消が図られているのではないか、と記している。

高弾性カーボンが生み出すパワーについては、Forbes誌も製品の一番の特徴だと評価。フレームのしなりを抑えて反発性能を高める設計となっており、パワーとスピードが乗った球を生み出す。愛用する大坂なおみは、まさにパワーに溢れる豪快なプレーが持ち味。彼女のプレースタイルにぴったり合致したラケットだ。

♦︎若い時代からユーザー取り込む

ヨネックスを愛用する大坂だが、どのようにしてブランドに惹かれたのだろうか? メーカーとの出会いは、彼女がまだ10歳だった時分に遡る。当時大坂の一家はフロリダに在住していたが、母親の環(たまき)さんは日本のヨネックスの社長に手紙を送り、製品面のサポートを依頼。日本本社は現地の大坂とコンタクトを取るようアメリカのチームに指示し、それが縁で10年以上に及ぶ長い付き合いが始まった。Forbes誌はこのような経緯を取り上げた上で、未来のスターとジュニア時代からパートナーシップを組むのが同社の戦略だと解説している。過去にはマルチナ・ヒンギス(スイス)やアンナ・クルニコワ(ロシア)にもサポートを行ってきた。製品に込められた技術と美しさに加え、無名のジュニア時代からコネクションを持つことで選手たちの心を捉えている、と同誌。

さらに、独特なヘッド形状が若きプレーヤーの琴線に触れることもあるようだ。ニック・キリオス(オーストラリア)は「子供時代、あの形に心を奪われた」と述べ、ほかのプレーヤーと差別化できる形状に強く惹かれたことを明かしている。ヨネックスのラケットはバックハンドの相棒としても抜群で、少年時代の活躍をサポート。成長してからも一度馴染んだブランドから離れられないとキリオスは語っている(Forbes)。現在その手が握るのは、大坂と同じヨネックスEZone 98だ。

独自の設計技術と未来のプロを支援するマーケティング戦略により、ヨネックスのラケットは世界のプロに愛用されている。

(テニスデイリー編集部)

※写真は大坂なおみとEzone 98(Leonard Zhukovsky / Shutterstock.com)