専門誌では読めない雑学コラム木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第206回 以前、2020年東京五輪のゴルフ会場となる霞ヶ関カンツリー倶楽部の改造工事が終わって、マスコミ関係者にお披露目されたニュースをお届けしました。同コースの場合は五輪会…
専門誌では読めない雑学コラム
木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第206回
以前、2020年東京五輪のゴルフ会場となる霞ヶ関カンツリー倶楽部の改造工事が終わって、マスコミ関係者にお披露目されたニュースをお届けしました。同コースの場合は五輪会場になったことがきっかけですが、同様にオープンから何十年も経っているコースは、”美容整形手術”を施すかのように、改修・改造工事を結構行なっています。
では、なにゆえコースを改造するのか?
今回は、その理由を探ってみたいと思います。
理由はさまざまありますが、まず挙げられるのはこれです。
(1)日本独特のグリーンからの脱却
昭和50年代の半ば(1980年代初頭)くらいまでに造られたゴルフ場の多くは、ベント芝と高麗芝の2つのグリーンを併用していました。涼しい気候を好むベント芝は、夏場の高温多湿な気候に適さないため、その時期には高麗芝のグリーンを使うなど、2グリーンを交互に使用することで、1年間を凌ごうとしてきました。
そうやって2グリーン化が進みましたが、最近は芝生の品種改良も進化し、オールシーズン、ベント芝でやっていけるようになりました。そこで、予算のあるコースは、日本独特の2グリーンから、世界基準の1グリーン(ベント芝)へと改造するコースが増えました。
日本で最初の1グリーンコースは、1982年(昭和57年)にオープンしたオーク・ヒルズカントリークラブ(千葉県)と言われています。それ以降、1ベントグリーンのコースが続々と開業しました。
ただ、グリーンの改造に際しては、設計者が有名な方だったりすると、高麗からベントへ芝生だけ張り替えて、2グリーンのままにしているところもあります。そのほうが、非常に安く済みますからね。高麗グリーンはカップ周辺で独特の切れ方をするので、さほど人気がないこともあって、2つのベントグリーンを交互に使用して運営しているコースはわりと多いです。
(2)距離の短いコースから長いコースへ
バックティーからドライバーを打って、シングルプレーヤーがおおよそ届く距離、専門用語(測量用語)で「IP(インタークロス・セクション・ポイント)」と言っていますが、それはだいたい240~250ヤード地点のこと。昔、設計されたコースの多くは、その地点がおおよそドッグレッグホールの曲がり角となっています。
しかし現在、アマチュアでも飛ばし屋の方なら、ドライバーで260~280ヤードぐらい飛ばします。昔からあるコースだと、短く感じるホールが多くなります。
そこで、ゴルフ場側も距離を長くする改造に踏み切ります。だからといって、すべてのホールを長くしても、アベレージメンバーからクレームが来ますので、いろいろと調整して、数ホールだけ距離を延ばす改造をしたりします。
ただその改造は、アマチュアゴルファーの多くからはそれほど求められていません。コース側の見栄と言いますか、「ウチも長いホールがあるんだぞ」「チャンピオンコースなんだぞ」と、自慢したいだけなんですね。
(3)プロトーナメントの会場となる
プロのトーナメントコース、特に男子ツアーの会場になることは、コースとしては非常に名誉なことです。有名トーナメントの使用コースとなれば、それが宣伝材料にもなって、会員権相場が上がり、お客さんもたくさんやってきて、営業的な効果も絶大です。
そうなると、何億円をかけて改造しても、将来的には元が取れる――そう計算するわけです。
しかし、全長7000ヤード超えのチャンピオンコースを造ったとしても、それが使われるのは年1回、わずか1週間のことでしょ。毎年開催されるビッグトーナメントならまだしも、たった1回で終わったら、あとは宝の持ち腐れです。
ゆえに、もしプロトーナメントの開催で改造する場合は、ゴルフ場の経営者側と、メンバーらによる理事会側との思惑が一致したときだけ。それが決定事項となって大改造が決まれば、メンバーに多額の寄付を依頼するケースがほとんどです。
ゴルフ場を自分の家のように愛して、惜しみなく寄付できるか? この時、ホームコースに対しての愛情が試されます。
とまあ、いろいろと面倒くさいので、新規で男子トーナメントの開催コースに名乗りを挙げるゴルフ場は、今ではほとんどないです。
(4)オーナーのわがままで
バブルの頃、ゴルフ場のオーナーが、有名設計家が造ったコースを改造したがりました。
その昔、やってみたい職業と言えば……。男として生まれたからには、「映画監督」「オーケストラの指揮者」「プロ野球の監督」なんて言われていました(そこに「連合艦隊の司令長官」が入る説もあります……って、いつの時代?)。
それがゴルフ好きの場合、「ゴルフ場の設計者」でしたね。自分の思い描いたコースを造ってみたい、と思ってしまうんですな。
そして、実際にゴルフ場のオーナーとなった今、目の前に有名設計家が造ったコースがあるではないか!? 自ら自由に改造していい立場にある。ならば、「ここのグリーン周りに池をこしらえて」「ここも、もっと難しくして」と、あれこれ考えるわけです。
現にそうやって、たくさんの名コースが改造されました。結論としては、そのほとんどが”改悪された”と言っても差し支えないでしょう。
やっぱり、所詮は素人の考えです。ペットのトイプードルに、自分好みのグルーミングをして、自分のお気に入りの服を着せるのとは、訳が違います。
コースを改造して、満足しているのはオーナーのみ、でしょう。
単に難しくしたところで意味はありません。大事なことは、ゲストが楽しめるかどうか、攻め甲斐があるかどうか。加えて、品格があるかどうか。結局、そこまでの改造は、素人にはできませんから。
オーナーの自己満足にせよ、お客さんのためにせよ、極端なコース改造はどうなのでしょう...
その結果、現在はどういうことが起きているのか?
設計当初の姿に戻す”回復運動”が各コースで行なわれ、往年の姿に戻りつつあります。そもそも、そんなわがままなオーナーなんて、今はいません。バブル時代の名残でしょう。
(5)簡略化の流れによって
結局、ゴルフ場は誰のために設計し、あるいは改造されるべきか。
年1回しか使わない男子トーナメントのために改造するのは、馬鹿げています。もしプロトーナメントの舞台としたいなら、女子ツアーやシニアツアーを開催すればいいのです。
距離はそのまま使えますから、改造の必要はありません。ラフを長くして、グリーンを速くすれば、トーナメントコースの一丁上がりです。ゆえに、女子ツアーやシニアツアーを誘致しようとするコースはたくさんあります。
事実、それらツアーの開催コースは、どこもすごく人気です。
そんなわけで、トーナメントコースは年1回、月例競技などが月1回で、1年365日のうち、俗に言うビジターさんが使う日が340日ぐらいでしょうか。だったら、ビジターが楽しめるコースでいいじゃないですか。
そうして、最近の傾向としては(2)で記したような距離を長くする風潮から一転、距離をどんどん短くしているコースが増えています。お客のメインとなるシニア層が、飛ばなくなっているからです。
レギュラーティーで400ヤードを越えるホールがあると、「あそこ(のコース)は距離が長いから、他(のコース)にしよう」と敬遠されてしまうんですな。
じゃあ、シニアティーで打てばいいじゃん、と思うでしょ。でも、そういうことはしたくないのです。安いプライドがありますから。
そのため、現在は”チャンピオンコース至上主義”は影を潜め、”レギュラーティーエンジョイ主義”が台頭。たまに、以前は距離が長かったというコースに行くと、レギュラーティーの位置が相当前に変わっていたりします。お客さんが敬遠しないよう、距離を短めに変えているのです。
現実的に、ゴルフ人口がどんどん減っている今、コースの改造にどれだけ予算が割けるかは疑問です。改造して難しくしたら、お客さんが減った、なんてことが起きていますしね。
ということで、今からの大胆なコース改造は考えものです。むしろスタート小屋や、トイレ、避難所などの改修をしてくれたほうがよっぽどありがたい。そう思えてなりません。