初夏の花の都を制するのは、歴戦の王者・ナダルか、はたまた予想外の伏兵か。今年も全仏オープンの開幕が近づいた。四大大会のなかでも異例ずくめのこの大会は、大番狂わせが起きやすいことでも有名。数々の…

初夏の花の都を制するのは、歴戦の王者・ナダルか、はたまた予想外の伏兵か。今年も全仏オープンの開幕が近づいた。四大大会のなかでも異例ずくめのこの大会は、大番狂わせが起きやすいことでも有名。数々のドラマチックな激闘と、スタミナ勝負の接戦の舞台となってきた。

♦︎100余年の歴史が育む、独自の大会文化

パリ郊外、豊かな緑地が広がるブローニュの森。全仏の試合会場となるスタッド・ローラン・ギャロス競技場はその片隅に位置する。1891年にフランス選手権として創設された歴史ある本大会は、1928年、フランスを代表するパイロットであるローラン・ギャロスの名を冠するこの会場に開催地を移した。言わずと知れた四大大会の一つに数えられる、歴史と権威のある大会だ。

メインコートに開閉式の屋根が備わるほかの四大大会とは異なり、すべてのコートに屋根がない。そのため天候の影響を受けやすく、2016年には大会9日目の全試合が雨で順延されるという珍しい事態が発生した。四大大会では唯一、ホークアイ(審判補助システム)を判定手法として採用していない点もユニークだ。判定に疑義が生じた場合、主審は審判台からコートまで降り、赤土に残された球の痕を確認するという伝統的な手法で検証を行う。さらに試合中のコールがフランス語のみで行われるなど、グランドスラムのなかでも独自色の強い大会だ。毎年日曜から始まる点も独特。今年は5月26日(日)から6月9日(日)の15日間、ブローニュの森に強豪が集う。

♦︎クレーコートの魔物

グランドスラム大会では唯一、全仏オープンだけがクレーコートを採用する。番狂わせを起こしやすく、「赤土には魔物が潜む」と言われるほど、ドラマチックな展開を生み出すことで有名だ。粘土質の土を砂で覆う日本のクレーコートとは異なり、表層には細かく砕いたレンガが敷き詰められる。ボールのエネルギーを吸収しやすいため球足が遅くなり、ラリーが続く消耗戦に突入しやすい。バウンドの方向が読みにくいことから、球筋の正確な予測も勝敗をわけるポイントとなる。

このようなコートの特性を知り尽くした選手が、全仏オープンでは圧倒的に有利だ。2005年以降の男子シングルス部門では、ラファエル・ナダル(スペイン)が14大会中11大会を制する強さを見せている。ただし近年では2015年にスタン・ワウリンカ(スイス)、2016年にノバク・ジョコビッチ(セルビア)がトロフィーを手にしており、2連覇中の赤土の覇者・ナダルとて気の抜けない大会となるだろう。

♦︎スタミナの限りを尽くす、死戦の数々

波乱を生む赤土は、多くの死闘の舞台となってきた。1989年決勝のマイケル・チャン(アメリカ)vsステファン・エドバーグ(スウェーデン)戦は、現在でも語り継がれる伝説的な名勝負だ。当時17歳だったチャンは並み居る強豪を破り、史上最年少で決勝に駒を進めた。6—1、3—6、4—6、6—4、6—2と接戦の末に試合を制し、アメリカ人選手として34年ぶりの優勝を決めた。長引くラリーを耐え、ときにリズムを崩すことで相手のミスをうまく誘った。3時間41分の激戦に報いたのは、彼一流の粘り強さだった。

女子シングルスでは、1992年にトロフィーを争ったモニカ・セレス(当時ユーゴスラビア国籍)vsシュテフィ・グラフ(ドイツ)戦が語り継がれている。TIME誌はこの試合を、歴代の全仏オープンでの名勝負10戦の一つとして選定。6—2、3—6、10—8でセレスが3年連続の全仏優勝を決めたこの試合では、最終セットが90分間に及ぶ長丁場となった。対戦相手のグラフも、マッチポイントを5度セーブする健闘を見せている。

今年はどのような名勝負が繰り広げられるだろうか。いよいよ5月26日、赤土舞うドラマチックな全仏オープンが開幕する。

(テニスデイリー編集部)

※写真は赤土とナダル(Dana Gardner / Shutterstock.com)