男子テニス界ではBIG3が長年頂点に立っているものの、彼ら以外にも素晴らしい選手は多い。BIG3相手に毎回タイトルを争うとは限らなくても、時には名勝負を繰り広げ、このスポーツをより魅力的にしてくれるベテラン・中堅勢を紹介していこう。今回取り…

男子テニス界ではBIG3が長年頂点に立っているものの、彼ら以外にも素晴らしい選手は多い。BIG3相手に毎回タイトルを争うとは限らなくても、時には名勝負を繰り広げ、このスポーツをより魅力的にしてくれるベテラン・中堅勢を紹介していこう。

今回取り上げるのは、クレーコートでBIG3に次ぐ勝率(74.7%)を誇るドミニク・ティーム(オーストリア)。

1993年生まれでBIG3と5歳以上離れているティームは、ここ数年にわたり期待の若手と見なされてきた。ともにテニスコーチの両親を持ち、2011年にプロ入りすると 、2015年には初優勝を飾った「コート・ダジュール・ニース・オープン 」を皮切りに3つのタイトルを獲得。「全仏オープン」で2016年と2017年に準決勝、2018年には初の決勝へ進出。ファイナルでは絶対的王者ラファエル・ナダル(スペイン)の前に敗れたとはいえ、25歳以下の選手ではグランドスラム優勝に最も近い存在だ。2016年から3年連続で40勝以上を記録し、約3年にわたり世界ランキングでトップ10をキープ。現在のトップ10で彼よりも長く圏内に留まり続けているのはナダルだけだ。

ティームが期待されるのには、こうした安定感だけでなく、BIG3からしっかり勝利をあげていることも大きい。ノバク・ジョコビッチ(セルビア)には2勝6敗。最初に5連敗を喫したが、2017年「全仏オープン」準々決勝という大舞台で初勝利し、翌年の「ATP1000 モンテカルロ」でも連勝。2019年5月の「ATP1000 マドリード」で3試合ぶりに敗れたが、2セットともタイブレークと拮抗していた。ロジャー・フェデラー(スイス)には4勝2敗と勝ち越し。自身が得意なクレーでの2大会はもちろん、グラスとハードでも勝利しており、フェデラーを3つのサーフェスすべてで破った選手となった。

ナダルに対しては4勝8敗と大きく負け越しているものの、12回の対戦中11回はナダルが勝率91.6%を誇るクレーで、そんな相手から同サーフェスで4勝あげたことは評価できる。事実、ティーム以外でそれを成し遂げたのはジョコビッチだけだ。また、2018年「ATP1000 マドリード」ではナダルにクレーで約1年ぶりに土をつけ、翌年の「ATP500 バルセロナ」では同大会12回の優勝を狙う王者にストレート勝利と、ナダルの母国でも白星をあげている。そして二人にとって唯一のクレーコート以外での対戦となった2018年「全米オープン」では、4時間49分に及ぶ熱戦の末にナダルが勝利。本人たちが「どちらが勝ってもおかしくなかった」と振り返った試合は、ATPによって同年の四大大会ベストマッチに選ばれた。

ティームは8歳の頃から、オーストリアの伝説的なコーチ、ギュンター・ブレスニクの指導を受けている。ブレスニクは、四大大会6度の優勝を誇るボリス・ベッカー(ドイツ)をはじめ、アンリ・ルコント(フランス)、パトリック・マッケンロー(アメリカ)などトップ100の選手たち約30人を教えてきた大ベテラン。ティームへの指導は型破りかつハードなもので、練習は朝8時から夜8時までが基本で、ウエスト周りに重りをつけた状態で森から家まで走って戻るといったトレーニングもあるという。

そこへ2019年2月に新たなコーチが加わった。元世界9位のニコラス・マスー(チリ)だ。いまひとつ伸び悩んでいたティームの「クレーだけでなくハードコートでの戦い方も向上させること」を目的に招かれたマスーは、ティームが心身ともに疲弊していることに気づき、自身もお世話になった経験あるフィジカルトレーナーを呼び寄せた。プレーに関しては、サーブのリターンでより攻撃的に出る方法や、あらゆるショットをいつどうやって使うかについての知識を授け、バックハンドの強化も行っている。

その結果はすぐさま表れる。2019年シーズン序盤は「全豪オープン」2回戦敗退に終わるなど出遅れていたティームだったが、マスーがチームに加わってから1ヵ月後の3月、ハードコートで行われた「ATP1000 インディアンウェルズ」でマスターズ初優勝。ATPから「スローテンポなクレーで見せてきた技術を、このハードコートでもそのまま披露してみせた」と賞賛される出来で、本人も「最初のビッグタイトルをクレー以外のサーフェスで獲れたなんて最高」と歓喜した。

ティームはさらに翌月の「ATP500 バルセロナ」でナダルやダニール・メドベージェフ(ロシア)らを相手に1セットも落とさない完全優勝。決勝で対戦したメドベージェフは「ベストを尽くしたけど、彼が素晴らしすぎて1ポイント取るだけでも大変だった」と舌を巻いた。前述の通り「ATP1000 マドリード」では準決勝でジョコビッチに惜敗してシーズン3つ目のタイトルは逃したものの、「とてもいい結果。毎回強敵を倒せるわけじゃない」とティームは気にしていない。

ブレスニクによって精神的にも肉体的にもタフになり、試合中ずっと走り回るフィジカルの強さもあってか、同じくクレーコートを得意とした同国の先輩、元世界1位のトーマス・ムスターの愛称“アイアンマン(鉄人)”を受け継いだティーム。さらなる高みへ上るためのピースをマスーによって得た彼が「個人的に一年で最大のハイライト」と表現する「全仏オープン」は、現地時間の5月26日に開幕する。マスー曰く「王者の資質がある」ティームが四大大会の優勝トロフィーを掲げる日は、もうすぐそこまで来ているのかもしれない。

(テニスデイリー編集部)

※写真は2019「ATP500 バルセロナ」でのティーム(Photo by Alex Caparros/Getty Images)