第5戦・スペインGPの表彰台に立ったマックス・フェルスタッペンの表情に、笑顔はほとんどなかった。 2カ月前の開幕戦オーストラリアGPで表彰台に登壇した時とは、まったく違う。マシンを降りたフェルスタッペンは大喜びをすることもなく、そばに…

 第5戦・スペインGPの表彰台に立ったマックス・フェルスタッペンの表情に、笑顔はほとんどなかった。

 2カ月前の開幕戦オーストラリアGPで表彰台に登壇した時とは、まったく違う。マシンを降りたフェルスタッペンは大喜びをすることもなく、そばに駐められたメルセデスAMGのマシンをまじまじと見詰めていた。



表彰台でフェルスタッペン(右)は笑顔をほとんど見せなかった

「別になんてことはなくて、自分のクルマと違うところを見ていただけだよ」

 フェルスタッペンはそう言った。

 たしかにレッドブルとメルセデスAMGでは、マシンのディテールは随分と違う。しかし、それ以上に違ったのは、スペインGPでの速さだ。開幕戦メルボルンではルイス・ハミルトンを追い立てることさえできていたのに、2カ月後の今はまったく歯が立たない存在になってしまっていた。

「ターン1はずいぶん忙しかったね。だから一旦は引いて、まさにその行動のおかげで次のターン3に向けていい位置取りができた。あそこでセブ(セバスチャン・ベッテル)をオーバーテイクできたことで、表彰台が決まったようなものだよ。ただ、そこからメルセデスAMG勢を追いかけようと思ったけど、彼らは速すぎた」

 新車を作りあげた時点でつまずいてしまったのは、ある意味ではメルセデスAMGも同じだった。ここバルセロナで行なわれた開幕前テストでは、中高速コーナーでリアの挙動が極めてセンシティブで、ドライバーたちはステアリングを小刻みに修正しながら恐る恐るターンインしていっていた。

 それが2カ月後の今週末は、見違えるように完璧な速さを手に入れていた。

 その間、レッドブルも全体的なグリップ不足は改善してきたとはいえ、まだ満足のいくレベルになったとは言えない。

「今回は誰もがアップグレードを持ち込んできたから、僕らはメルセデスAMGに対して少し後れを取ってしまった。僕らの進歩も悪くない。だけど、メルセデスAMGほどの進歩を遂げられなかったというだけだ。僕らはもっと努力しなければならないし、いいパーツを投入する必要がある」(フェルスタッペン)

 予選でのタイム差は、実に0.951秒。

 レッドブルの分析によれば、ストレートでのパフォーマンスはほぼ同等。しかし、コーナリングで負けているという。

「現時点でメルセデスAMGと比べてしまうと、どんなタイプのコーナーでも僕らは上回っていない。そんなに悪いクルマじゃないんだ。ただ、メルセデスAMGはどんなコーナーでも少しずつ速い」

 グリップが足りないからコーナリングが遅い。その原因は空力にあると、フェルスタッペンは言う。

「今回、アップグレードを投入したことでマシンは速くなった。でも、僕らのクルマはまだ僕らが望んだとおりのグリップを得られていない。だから、コーナーで失うのは当然だ。

 彼らのほうが、ダウンフォースが多い。グリップ不足は空力面に起因するものだと思う。とにかく、何かに問題があるというわけではなく、単純にグリップがもっとほしい」

 決勝で2台のフェラーリを食って表彰台を獲得したように、フェラーリとの差が縮まったことは確かだ。

 しかし、フェラーリはタイヤをうまく使えるかどうかで浮き沈みが大きい。開幕4戦で言えば、バーレーンとアゼルバイジャンではメルセデスAMGを上回る速さを見せたものの、それ以外では後れを取った。

 温度変化にセンシティブで適正温度に合わせ込むのが難しい今年のピレリタイヤを、フェラーリは理解し切れていない。開幕前テストであれだけ圧倒的な安定感と速さを見せたバルセロナでも、路面温度が15度ほど高くなった5月のグランプリ本番ではグリップ不足によるアンダーステアを消せず、コーナーを速く走ることができなかった。

 その浮き沈みを考えずにフェラーリと比較して、一時的な優劣に一喜一憂しても仕方がないとホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは語る。

「予選・決勝の結果からすると、これまでよりは縮まったかなという感じはあります。ただ、フェラーリは浮き沈みが多いので、今回が沈みに当たっているだけかもしれません。もう少し様子見が必要じゃないかと思います。我々もその差を気にしなければならないのは事実ですが、それよりも自分たちの開発に専念し、それを進めていくべきだと思っています」

 前戦のアゼルバイジャンGPでスペック2を投入したホンダに対し、スペインGPでは当初の予定を前倒ししてフェラーリとルノーがスペック2を投入してきた。パワーユニット単体での比較では、依然としてホンダはわずかに差をつけられている。

「ここでの結果解析の結果はこれから出てきますけど、シーズン開幕当初からお話ししてきたように、あいかわらずフェラーリやメルセデスAMGに対しては劣っていると認識しています」

 車体で後れをとり、パワーユニットでも後れをとり、それが大きな差になってしまっているのがレッドブル・ホンダの現状だ。3位表彰台を獲得したといっても手放しで喜んでいられないのは、そういう状況がはっきりとわかっているからなのだ。

 開幕戦の表彰台はホッとした安堵感があったというが、今回の表彰台は「『よかったですね』というレベル」だと、田辺テクニカルディレクターは冷静に語る。

「車体開発において、バルセロナはどのチームもベンチマークにするようなサーキットです。ここで断トツに速くて、高速サーキットだろうが低速サーキットだろうが誰も着いてこられないくらいのマシンパッケージができていれば安心できるんですけど、まだまだそういうレベルではありません」

 昨年は圧倒的な車体性能で制したモナコGPでも、今年は苦戦を強いられるだろうというのが、大方の見方だ。低速コーナーの連続するバルセロナのセクター3で、メルセデスAMGが圧倒的な速さを見せたからだ。

「ここの最終セクターの低速コーナーのパフォーマンスを見るかぎり、僕らがモナコの最有力候補でないことは明らかだ。去年のように圧倒的に速いことはないだろうね」(フェルスタッペン)

「モナコまでに初優勝」という開幕前の目標は、余程の波乱が起きないかぎり、純粋な実力での実現は難しそうだ。

 開幕戦以来の表彰台を獲得したスペインGPは、その厳しい現実が突きつけられたレース週末となった。



レッドブル・ホンダはスペインGPで厳しい現実を突きつけられた

「パワーユニットで持ち上げられる分と、車体で持ち上げられる分と、それぞれを足してお互いにどれだけ持ち分をメルセデスAMGに対して持てるのか? 今回また新たな差が見えてしまいましたから、ファクトリーへ戻ってチームとともに解析をした後、話し合います」(田辺テクニカルディレクター)

 表彰台に立つことが目標でもなければ、フェラーリに勝つことが目標でもない。彼らが目指しているのは、表彰台の頂点だ。

 だからこそ、さらに厳しいシーズン中盤戦に向けて、レッドブル・ホンダの戦いが始まった。