「リバプールが決勝に進出する可能性は3%──」 そんな絶望的な数字を叩き出していたのは、サッカー分析サイト『ユーロ・…
「リバプールが決勝に進出する可能性は3%──」
そんな絶望的な数字を叩き出していたのは、サッカー分析サイト『ユーロ・クラブ・インデックス』だった。バルセロナとのチャンピオンズリーグ(CL)準決勝・第1戦の直前まで、同社はリバプールのファイナル進出を「23%」と予想していた。しかし、カンプ・ノウで行なわれた第1戦を0-3で落としたことで、「3%」まで下方修正した。

リバプールは圧倒的不利な状況からCL決勝進出を果たした
実際、過去の歴史を紐解くと、いかに厳しい状況に置かれているのかがわかる。
CL準決勝の舞台で、第1戦の3点差をひっくり返して決勝に進んだチームはひとつもない。CLの前身であるヨーロピアンカップを振り返っても、1970-1971シーズンのパナシナイコス(vsレッドスター・ベオグラード)と、1985-1986シーズンのバルセロナ(vsヨーテボリ)の2回しかないのだ。
しかもリバプールは、3日前の国内リーグ・ニューカッスル戦で起こした脳震盪の影響で、得点源のFWモハメド・サラーが欠場。CFのロベルト・フィルミーノとMFのナビ・ケイタもケガで欠いた。
対するバルセロナは、週末の国内リーグでターンオーバーを実施。優勝争いの真っ只中にいるリバプールと、国内リーグ優勝を決めて主力に休養を与えたバルセロナには、コンディションの点でも大きな開きがあった。
要するに、リバプールの不安要素を挙げれば、キリがなかった。
第1戦のスコアは0-3。リバプールが追いつくには、最低でも3ゴールを奪う必要がある。同時に、ひとつでもゴールを許せば、バルセロナにアウェーゴールが加算される。そうなれば、リバプールは合計5ゴールを挙げないと勝ち抜けない。3ゴールを狙いながら、ゴールを許してはならない――という極めて難しいタスクが課されていたわけだ。
そのせいか、試合前は楽観論がほぼ聞こえず、悲観的な意見が多くを占めた。リバプールのOBで現在は英BBC放送で解説者を務めるマーク・ローレンソンも、「第2戦では慎重なアプローチが必要」と説いていた。
「第1戦のパフォーマンスはすばらしかったが、すべてを投げ出して攻める策はギャンブルでしかなかった。第2戦で同じことをすれば、アウェーゴールを奪われ、キックオフからほんの数分で決着がついてしまうかもしれない。それゆえ、リバプールは極めて慎重に試合を進めなければならない。ハンドブレーキをしっかりと引いてプレーする必要がある」
ところが、である。ユルゲン・クロップ監督は意に介さなかった。
キックオフからリバプールは、フルスロットルで走り回った。失点を臆することなく、前線からフォアチェックを積極的にかけ、バルセロナ陣内へ圧力をかけていった。左サイドのクロスからMFジョーダン・ヘンダーソンが飛び込んだ開始1分のシーンにも、リバプールの気迫が伝わってきた。
前半7分の先制点は、リバプールが勢いで押し切ったゴールだった。FWサディオ・マネがバルセロナの左SBジョルディ・アルバのバックパスをかっさらい、フィルミーノの代わりに先発したFWディボック・オリジが最後は押し込んだ。
その後も、ムチを打ち続けるリバプール。攻守の切り替えが極めて速い、目の回るような展開に持ち込んだ。試合前にクロップ監督が「もし勝利できれば、すばらしいのひと言。実現できなければ、接戦で美しく散ってやろうじゃないか」と語っていた通りの戦いぶりだった。
印象的だったのは、左SBアンドリュー・ロバートソンのクロスボールに、ヘンダーソンが左足を伸ばしてシュートを放った23分の場面。シュートはDFにクリアされたが、テクニカルエリアにいたクロップ監督は「これでいいんだ」と言わんばかりに、両手を叩きながら何度も頭を上下して納得の表情を見せていた。
ただ同時に、リバプールは綱渡りの状態が続いた。バルセロナに1点でも奪われれば、合計5ゴールが必要になる。1失点がそのまま敗退につながる危険と、となり合わせの状況は変わらなかった。
とくに前半は、バルセロナが決定的なチャンスを重ねた。だが、GKアリソン・ベッカーがファインセーブを連発して阻止。フィルジル・ファン・ダイクとジョエル・マティプのCBコンビも、ブロック&カバーで防波堤として機能した。
そんな張り詰めた空気のなか、リバプールは後半9分と同11分にMFジョルジニオ・ワイナルドゥムが立て続けにゴールを決めた。これで、2試合合計スコアは3-3の同点。
得点後、熱狂的なサポーターが集うゴール裏のKOPスタンドは、地鳴りのような歓声とともに喜びを爆発させた。対照的に、バルセロナのルイス・スアレスは、手を左右に振って苛立つ様子を見せた。
イケイケになるリバプールと、焦りを増すバルセロナ。とくにバルセロナは、1点を奪われた時点でまだ1-3(2試合合計)になっただけだったが、どこか落ち着きを失ったように見えた。3-3にされると、焦りと失望の色は明らかに濃くなった。
もちろん、アンフィールドの住人たちの存在も、リバプールの攻勢を後押しし、バルセロナの窮地に追い込んだ一因だった。
試合前にバルセロナが円陣を組むと巨大なブーイングを浴びせ、彼らがボールを持てば耳をつんざくような口笛を鳴らした。そして、自軍の好プレーには割れんばかりの拍手と歓声で応える。「最高の雰囲気だった」と、試合後のクロップ監督が語ったように、12番目の選手としてリバプールをサポートした。
こうして迎えた後半34分、集中が完全に切れていたバルセロナ守備陣を見逃さず、トレント・アレクサンダー=アーノルドが素早くCKを蹴ると、オリジが右足を一閃──。ついに、リバプールが逆転に成功した。
試合は、このままリバプールが劇的な勝利を収めた。英紙『タイムズ』は「リバプールが不可能を可能にした」と報道。英BBC放送も「2005年のチャンピオンズリーグ決勝・ACミラン戦を上回る逆転劇だった」とし、前半の0-3から後半に3-3の同点に追いつき、PK戦の末に勝利した「イスタンブールの奇跡」を超える試合だったと伝えた。
試合後、クロップ監督は「勝利するだけでも難しいのに、無失点に抑えた。今夜のことは、これからもずっと記憶に残るだろう。過去にこのような勝利があったかわからないし、今後起こると確信も持てないからだ。選手たちは本当によくやった」と胸を張った。
3%の可能性を信じ、積極果敢に仕掛けて逆転勝利を呼び込んだリバプール。最高の勝利とともに、チャンピオンズリーグ決勝の舞台となるスペイン・マドリードへ乗り込むことになった。