ゴールデンウィーク中に開催されるスーパーGT第2戦・富士は、毎年シーズンを通して最も動員数の多い大会だ。今年は10連休の影響もあってか、5月4日の決勝日には5万6000人が来場。2日間合計で9万1800人ものファンが訪れ、例年以上に熱…

 ゴールデンウィーク中に開催されるスーパーGT第2戦・富士は、毎年シーズンを通して最も動員数の多い大会だ。今年は10連休の影響もあってか、5月4日の決勝日には5万6000人が来場。2日間合計で9万1800人ものファンが訪れ、例年以上に熱気あふれるレースウィークとなった。



変化する路面コンディションをモノともせずに快走するジェンソン・バトン

 だが、元号が平成から令和となって初めて行なわれたスーパーGTは、開幕戦に続いて荒れた天気でのレースとなる。序盤は雷雨がサーキットを襲い、第1戦・岡山に続いて赤旗中断。レース再開後は雨が上がり、コンディションも回復していったが、各所でアクシデントは絶えなかった。

 そんな厳しいレースを制したのは、ZENT CERUMO LC500(ナンバー38)の立川祐路/石浦宏明組。松田次生/ロニー・クインタレッリ組のMOTUL AUTECH GT-R(ナンバー23)と激しいトップ争いを演じた末、レクサス陣営に今季初勝利をもたらした。

 レクサス対日産の優勝争いは、実に見応えがあった。しかし、それを上回る存在感でファンの視線を奪ったのは、昨年王者の山本尚貴/ジェンソン・バトン組、RAYBRIG NSX-GT(ナンバー1)だろう。とくに、雨が上がって路面が乾き始めている時にパートを担当したバトンの走りは圧巻だった。

 1号車は公式練習からマシンが跳ねる症状に悩まされ、予選Q1でアタックを担当した山本はパフォーマンスを引き出せず12番手に終わってしまった。解決策が見えずに苦しんだ山本は、「トンネルから抜け出せないまま予選が終わってしまった」と困った表情を見せていた。

 そして迎えた決勝レース。直前に降り始めた雨の影響で、各車はウェットコンディションでスタートを切った。第1スティント、担当する山本はタイヤが温まらずに苦戦を強いられ、9周目にはGT300のマシンと交錯してスピン。一時は最後尾まで順位を下げてしまう。

 しかしその後、悪天候による赤旗中断のタイミングで、山本は追い上げを開始。徐々に順位を上げていき、38周目にピットインしてバトンと交代した。

 この時点で雨は上がっていたものの、路面はまだ完全にドライコンディションと言える状態ではなかった。しかし、天候が回復していくのは明らかで、1号車はすぐさまドライタイヤへの交換を決断する。リスクは少なからずある状況だったが、ここからバトンが元F1王者の底力を見せた。

「僕が乗り始めた時はダンプ(湿っている)コンディションで、まだドライと言える状況じゃなかった。だから正直、大変だったよ。最初の2周はウェットタイヤを履いているGT300のマシンにも抜かれた。

 ただ、徐々にタイヤが温まってきたので、ペースを上げていくことができた。こういうコンディションのレースはF1でも経験があったから、それがすごく生きた」(バトン)

 刻々と路面コンディションが変わっていく状況において、バトンの判断力・対応力はF1時代から人一倍長けていると評されていた。実際、バトンがF1で勝利したレースを振り返ると、雨絡みの展開だったことも多い。

 いくつか例を挙げると、まずは2006年のハンガリーGP。このレースはウェットコンディションでスタートし、そこから徐々に路面が乾いていく展開だった。ドライタイヤに交換するタイミングでライバルが混乱するなか、バトンは冷静に対応して14番手スタートからトップに浮上。自身のF1初優勝を飾るとともに、第3期ホンダF1プロジェクトに唯一の勝利をもたらした。

 2010年のオーストラリアGPも、雨が上がって徐々に路面が乾いていく内容だった。スタート時は各車ウェットタイヤを履いていたが、いち早くドライタイヤに交換したのがバトンだった。それが功を奏し、逆転でトップを奪取。マクラーレン移籍後、初の優勝を飾った。

 また、バトンのF1でのベストレースのひとつにも挙げられる2011年のカナダGPもそう。雨模様のレース序盤は、彼自身もアクシデントに巻き込まれ、一時は21番手まで後退。レースは大雨によって一時中断となった。だが、天候が回復して再開されると、バトンはドライタイヤで猛追を開始。そして最終ラップ、トップのセバスチャン・ベッテル(当時レッドブル)がミスした隙に逆転し、優勝を飾った。

 コンディションの変わり目には、絶対的な強さを見せる――。バトンの抜きん出た能力は、このスーパーGTの舞台でも大いに発揮された。

 レース中盤、不安定な路面コンディションの影響により、各チームともアクシデントが続出する。しかし、バトンはまったくミスをすることなく冷静に対処。全車が1回目のピットを終えて順位を見ると、バトンはいつしか4番手まで浮上していた。

 これで流れを引き寄せた1号車は、最終スティント担当の山本がさらなる追い上げを見せ、DENSO KOBELCO SARD LC500(ナンバー39)のヘイキ・コバライネンを猛追。そして残り6周で追い抜き、3番手のポジションを守り抜いて今季初の表彰台を獲得した。

 レースを終えた山本は、あらためてバトンのすごさを感じたという。

「ウェットからドライに切り替わるタイミングのなか、JB(バトン)がしっかり走ってくれました。今日の3位は、彼がいてくれたから獲れたものだと思います」

 開幕戦では不運な同士討ちにあい、ポイントを獲得することができなかった。今回の第2戦でも予選から不調が続き、後方に沈む苦しい展開となった。それを、バトンが”匠の技”で流れを取り戻した。

 山本/バトン組は今回の快走で11ポイントを獲得し、ドライバーズランキングも4位に浮上。2018年王者の逆襲が、ようやく始まった。