文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦「平常心に見られがちですけど、平常心ではないです」三好南穂はリオ五輪の参加メンバーの一人。当時22歳で、吉田亜沙美、町田瑠唯に続くポイントガードの3番手を務めた。その後、吉田が代表活動から離れていく中で、順当に…

文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

「平常心に見られがちですけど、平常心ではないです」

三好南穂はリオ五輪の参加メンバーの一人。当時22歳で、吉田亜沙美、町田瑠唯に続くポイントガードの3番手を務めた。その後、吉田が代表活動から離れていく中で、順当に繰り上がれば三好は日本代表の中核メンバーとなっていたはず。ところが実際は苦戦続き。ワールドカップイヤーの昨年は、開催国のスペインまでチームの一員として帯同しながら、最後の最後で12名の最終メンバーに入れず帰国する屈辱を味わった。心が折れてもおかしくはないが、三好は今回も招集に応じ、声を出して代表合宿を引っ張っている。

「去年はスペインで落ちているので、自分の持ち味である3ポイントシュートを発揮して頑張りたい」と三好は言う。表情は明るく、始動したばかりの代表合宿を楽しんでいるようにも見えるが、本人は「試合でも平常心に見られがちですけど、平常心ではないです」と燃えている。

「自分でもよく続いているなって思います。もちろん、去年の落ち方はキツかったけど、私としては毎回の合宿で後悔せずに出すことが大事で、それができているから今年もう一回チャレンジしようと思えるんです。結果は伴ったり伴わなかったりと波はありますが、最後は後悔なくすっきりした気持ちで終われています。そこでリセットして、また呼んでもらえるなら私は行きたいです」

この切り替えの上手さが三好の持ち味なのかもしれない。「その自覚はあります。周りからも結構メンタルはタフだと言われるので、『そうなんだろうなあ』って(笑)」

「ゲームコントロールより3ポイントシュート」

リオ五輪以後は藤岡麻菜美、本橋菜子が台頭。今年は23歳の川井麻衣が新たなポイントガードとして代表候補に入った。リオ組の町田と三好を含めた5人が、おそらく3枠を争う。吉田という絶対的な存在が抜けた今、ここの競争が高いレベルで行われない限り、日本代表の力は大きく損なわれてしまう。代表サバイバルを勝ち抜くため、三好の考えは明確だ。

「シュートタッチは他の選手より良いので、そこは自信を持って3ポイントシュートを持ち味にしたいです。去年は自分の中で迷った時期があって、町田選手、本橋選手、藤岡選手はアシストが上手くて、そういう選手が使われるから自分も合わせよう、そういうプレーに変えていこうと迷いました。でも結局、最後は自分は他の3人とはプレースタイルが違うし、自分の持ち味である3ポイントシュートでやりきって落ちる分にはいいや、と思ったんです」

「残りたいから合わせていく、自分のプレーを変える、と考えている間はプレーにも迷いがありました。吹っ切れてからは自分で積極的に行けて、プレーも良くなったところがあって、悔しい思いをした昨年の中でも『私はスリーでやっていくんだ』というのは収穫でした」

もともと、リオ五輪では3番手のポイントカードという意識は薄かったと三好は言う。「フランス戦で3ポイントシュートを決めたように、ワンポイントの使われ方でした。吉田選手と町田選手でポイントカードは回して、私は起爆剤として3ポイントシュートを期待されて選ばれたと思っていました。その後、吉田さん不在の競争になって、そこでワンポイントじゃないアピールが必要だという迷いが出始めました」

ただ、その迷いは過去のもの。昨夏に吹っ切れたことは、トヨタ自動車アンテロープスでのプレーにも良い影響を与えた。大神雄子が引退した後も、三好は大神の役割をそのまま引き継ごうとはしなかった。「1番で出ている時間帯にはコントロールしなければいけないところはあるけど、私を使ってくれるコーチが自分に何を求めているかと言えば3ポイントシュートでした。逆に空いているのに打たなかったら怒られたので、ゲームコントロールよりも自分の3ポイントシュートと考えていました。去年の代表での経験で『私はスリーでやっていくんだ』という気持ちになり、昨シーズンはそれをさらに追求する気持ちでやっていました」

「それを極めればトムさんのメンバーに入っていける」

日本代表ヘッドコーチのトム・ホーバスが掲げる日本代表のスタイルの一つに、ビッグマンも含めどのポジションの選手も3ポイントシュートを打つことがある。髙田真希も渡嘉敷来夢もそのスキル向上に取り組んでいるが、その一方で町田や藤岡は3ポイントシュートをあまり打たず、スピードやボールハンドリング、パスという持ち味を買われ、「世界でベストのパッシングチーム」と指揮官が誇るスタイルを委ねられている。

それでも三好は、3ポイントシュートで評価を勝ち取るつもりだ。「トムさんからもスリーをどう生かすか、例えばドライブするにしてもスリーの構えで相手を飛ばして行けと言われます。私がそれを極めればトムさんのメンバーに入っていけると思う。去年の私にはそれが足りなかった。みんなのアシスト力に勝るスリーの魅力をアピールしていきたい」

だからこそ、今の三好が取り組むのは3ポイントシュートの精度を高めること、そして距離を伸ばすことだ。「3ポイントシュートを打つのは分かっているので、普通の選手ができないところまでディープスリーを打てるようになりたいです。ディフェンスが打つと思わない距離からなら打ちやすいし、そこで決めれば出てくるしかないのでドライブもパスも効くようになります」

「自分の武器の3ポイントシュートをとことん見せて、どれだけ入らなかったとしてもメンタルを強く持って打ち続けて、最後の12人に残りたい」

笑顔を絶やさない三好だが、その表情の奥には強い意志が感じられる。吹っ切れた三好の復活が、ポイントガードの競争を一段と激しくすることは間違いない。