第98回全国高等学校野球選手権大会が8月7日から甲子園で開幕する。選抜に出場した智弁学園(奈良)、秀岳館(熊本)、東邦(愛知)が春夏連続で甲子園切符を手にする中で、春の悔しさをバネに夏にかけてきた横浜(神奈川)と履正社(大阪)が激戦区を制し…

第98回全国高等学校野球選手権大会が8月7日から甲子園で開幕する。選抜に出場した智弁学園(奈良)、秀岳館(熊本)、東邦(愛知)が春夏連続で甲子園切符を手にする中で、春の悔しさをバネに夏にかけてきた横浜(神奈川)と履正社(大阪)が激戦区を制した。両校は今夏の優勝候補に挙げられている。

■秋の敗戦から学んだ横浜、藤平&石川のWエース、7試合65得点の強打戦誕生の原点

 第98回全国高等学校野球選手権大会が8月7日から甲子園で開幕する。選抜に出場した智弁学園(奈良)、秀岳館(熊本)、東邦(愛知)が春夏連続で甲子園切符を手にする中で、春の悔しさをバネに夏にかけてきた横浜(神奈川)と履正社(大阪)が激戦区を制した。両校は今夏の優勝候補に挙げられている。

 これだけの評価を受けながら、なぜ春の出場が叶わなかったのか。それは勝負の世界。力はありながらも、横浜は関東大会で、履正社は大阪大会で競り負けた。

 昨秋、横浜はエース・藤平尚真、主砲の公家響、村田雄大、春にはエースナンバーをつけて投打で安定した力を発揮する石川達也ら好選手をそろえ、平田監督の新体制の下、新チームが発足。昨夏甲子園Vの東海大相模を破って、圧倒的な力で県大会を制し、関東大会へ進んだ。しかし、選抜選考の重要参考となるこの大会で、1回戦で常総学院(茨城)に1-3で敗れ、初戦敗退。選抜出場は絶望となった。

 チームの力は甲乙つけがたかった。後に、茨城・常総学院の佐々木監督は「横浜に勝つためには奇襲を仕掛けるしかなかった」と、相手が格上と分析していた事実を明かした。選抜出場へ一番の難関と考え、常総サイドはこちらもプロ注目のエース左腕で打力もある鈴木昭汰を、藤平対策として1番打者に起用してきた。藤平はヒットこそ許さなかったが、いきなり大きな中飛を放たれるなど、プレッシャーをかけられた。鈴木とは侍ジャパンU-15のチームメートで打撃も高い技術を持つことは知っていた。マークを分散させる佐々木監督の狙いははまった。藤平は宮里ら常総の中軸にとらえられ、5回に一気に3失点。失点はそのイニングだけだったが、打線は鈴木に8安打しながらも1点に抑えられた。

 この秋の敗戦から、奇襲にも動じない藤平、石川のWエースの成長、どんな好投手が来ても打ち勝つための打力が生まれた。夏の大会は7試合で65得点、大会新記録となる14本塁打で甲子園出場を決めた。

■背中で引っ張った主将&エース左腕・寺島、個人よりもチーム全体の底上げに集中

 履正社は、秋の大会で選抜参考の近畿大会にも出場していない。準決勝で大阪桐蔭に1-2で敗れ、3位決定戦にまわった。勝てば近畿大会、選抜出場の可能性を残していたが、阪南大高にも0-1で敗れた。夏の決勝では12得点で圧勝したチームは、この時、貧打に悩まされていた。岡田監督が「チームがまだ成熟していなかった」と話すように、劣勢になると沈滞ムードで試合が進み、はねかえす力がなかった。主将でエースでもある寺島は、チームに甘さがある、と先頭に立って変えることを決意。チーム練習では必死に声を張り上げ、個人練習では誰よりも黙々と走り込むなど、背中で牽引。寺島が登板する試合では、エースの負担を減らすために、副主将の四川が主将代理を務めるなど、個人ではなく、チーム全体の力を底上げすることを目指した。

 春の大会は目の色を変えてのぞんだ。秋に負けているチームに必要なのは勝ち癖をつけることだった。春は学校によって、夏大会に向けた育成に力を注ぐことも多いが、岡田監督はこのチームに自信をつけさせるため、勝ちにこだわった。春の府大会は決勝で大阪桐蔭を破り、近畿大会も選抜王者の智弁学園を倒し、優勝。夏も力を維持しながら、挑戦者の気持ちを忘れることなく戦った。寺島、山口のW左腕、リードオフマン・福田、2年生4番・安田らも力を発揮。秋から見違えるチームに成長した。

 一躍、夏の甲子園の優勝候補になった両高校だが、はじめから順当だったわけではない。秋のひとつの敗戦から、選手たちは考える力を養った。元々、個々の力は高かった。自分たちに何が必要か、自分たちは弱者だ、という考えをチームに全体に植え付けることができた指導者の力も大きい。秋の悔しさが、この夏のどこまでの爆発力、躍進につながるか注目だ。

 悔しさは必ず力になる。敗者は勝者を作る。高校野球はその繰り返しなのかもしれない。