文・写真=鈴木栄一

小さな努力の積み重ねで地道にステップアップした琉球

琉球ゴールデンキングスはbjリーグで通算4度の優勝を果たしているが、同リーグのプレーオフはベスト4が有明コロシアムに集う一発勝負のトーナメント形式で開催されてきた。Bリーグ初年度の『歴史的開幕戦』も代々木第一体育館での開催だった。そういう意味で、今週末のBリーグのチャンピオンシップ、セミファイナルのアルバルク東京戦は、2007-08シーズンにbjリーグ参戦を果たしてから始まった歴史の中でも、ホームで開催する最も注目度の高い試合となる。

対戦相手のA東京は、世界の大企業トヨタを母体とし豊富な資金力と恵まれた施設を有する国内随一のビッグクラブ。ともに常にベストを尽くし、フロント、現場で向上心を持って取り組んできた姿勢は同じだが、クラブとしての歩みはまさに正反対と言っていい。

Bリーグの中でも有数の人気とビジネス力を誇る琉球であるが、チームは全くのゼロからバスケットボール好きな人間たちによって誕生した。親会社を持たない完全な独立型クラブであり、それは今も変わっていない。設立当初から不変である『沖縄をもっと元気に!』という活動理念に賛同した、沖縄に根付いた企業、そして沖縄の人々の愛情によって、大企業の経営参加による資本増強といったカンフル剤もなく、小さな努力の積み重ねで地道にステップアップしてきた。

「沖縄はバスケ王国だから」という声を耳にすることもあるが、競技人口が多い、高校バスケが強いイコール、プロバスケが成功しやすいというのはただの幻想でしかない。沖縄には確かにバスケ熱があるが、それと同時にかつてはプロスポーツ不毛の地で、スモールマーケットという困難があることは間違いない。

例えば数年前からホームゲームは満員御礼が続き、現在はレギュラーシーズンのチケットでさえ入手するのが難しい状況になっている。しかし、チーム誕生時、プロ野球やJリーグといったメジャースポーツのチームが存在していなかった沖縄には『スポーツ観戦にお金を払う文化』がなく、興行をする上では大きなマイナスを抱えてのスタートだった。

また、bjリーグで優勝したといっても、今のBリーグと比べても認知度が低く、大きな訴求力をもたらす要因にはならなかった。そんな中、今ではどのチームも試みていることではあるが、バスケを知っている、知っていないは関係なく、子供も大人もお年寄りもすべての世代に楽しんでもらえる空間を提供する。そういったお客さんを選ばないエンターテイメントの提供を毎年、細かい部分でバージョンアップさせてきたことが今の絶大なる人気に繋がってきた。

ハードワークを根幹としディフェンスで我慢し続ける『哲学』

両チームの『因縁』はBリーグ初年度の開幕戦で激突しただけではない。リーグ統一前、琉球が初めてNBLのチームを招いて実施したプレシーズンゲームの対戦相手がA東京だった。

名将ルカ・パヴィチェヴィッチの下、3名の日本代表を筆頭としたタレントを擁し、周囲から尊敬される品格と強さを兼備する。A東京こそ琉球が沖縄で開催する過去最大のビッグマッチの相手として、まさにうってつけだ。

琉球にとってコツコツと継続によって積み上げてきたのは経営力だけではない。bjリーグ最初の2度の王座をもたらした桶谷大が築いた哲学、『ハードワークを根幹としディフェンスで我慢し続ける』は、3度目、4度目の優勝を導いた伊佐勉が紡いでいった。そしてチーム唯一の永久欠番であるジェフ・ニュートンや外国籍では異例の9年間在籍したアンソニー・マクヘンリーがチームの血肉にまで浸透させたものだ

ニュートンは得点力ではなく、ここ一番の勝負どころで確実にもぎ取るディフェンスリバウンドが最大の持ち味だった。マクヘンリーも得点を量産するタイプではないが、常にプレーの強度を落とさない勤勉さと献身さが光るハードワーカーである。この2人が長らく外国籍としてプレーを続けたことからも、琉球が何を基盤としてチームを作っていたのかが分かる。

そしてbjリーグ時代と違い、今の琉球には古川孝敏や橋本竜馬といった日本代表を経験した選手がおり、タレント力は大きく向上した。ただ、それでも現指揮官の佐々宜央もチームの要としているのはこの『ハードワークを根幹としディフェンスで我慢し続ける』という哲学だ。

それはクォーターファイナルの名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦で、GAME1を落としてから連勝で勝ち上がった最大の要因が、GAME2を53失点、GAME3を43失点に抑え込んだように、我慢を続けることで相手の心をへし折る鉄壁のディフェンスであったことが示している。

琉球が作り上げた『バスケ熱』をいかに引き出すか

とはいえ、A東京のレギュラーシーズンの成績は琉球の40勝に対して44勝。選手層も厚く、何より前年王者である。下馬評ではA東京優位と評されるのが妥当だろう。

しかし、琉球にはホームコートアドバンテージという大きなプラス材料がある。このホームの熱狂も、琉球を常に支えて続けてきたものだ。今回のクォーターファイナルもシリーズの流れを変えたのは会場の熱だった。GAME1で大敗を喫し崖っぷちで迎えたGAME2、最初のプレーで古川孝敏がシュートを決めた直後、会場はまるでブザービーターを決めて勝利したような盛り上がりを見せ、さらに直後には自然発生的に会場中からディフェンスコールが巻き起こった。

あの時、GAME1の敗戦による重苦しい雰囲気は完全に払拭された。この会場の熱をいかに引き出されるのか、それは琉球が勝つために不可欠な要素だ。

5月4日から始まるセミファイナルは、琉球だけでなく琉球を支えて続けた沖縄の企業、沖縄のファンにとっての晴れ舞台となる。それは、琉球に携わるすべての人々の力でつかみ取ったもの。だからこそ、チーム、そしてファンには何はともかく存分に楽しんでもらいたい。