蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.64 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サ…
蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.64
サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎――。この企画では、経験豊富な達人3人が語り合います。今回のテーマは引き続き欧州CLの準々決勝レビューと準決勝プレビュー。4シーズンぶりの制覇を目指すバルセロナと、まだまだ進化をし続けるメッシに迫ります。
――前回に続き、お三方にはチャンピオンズリーグ(CL)準々決勝を振り返っていただきつつ、準決勝を展望していただきたいと思います。今回は、事実上の決勝戦とも言われているバルセロナ対リバプールについてお願いします。このカードの第1戦は5月1日(日本時間2日早朝)にバルセロナのホーム、カンプ・ノウで行なわれますが、まずは両チームの勝ち上がりについてレビューしていただけたらと思います。
倉敷 まずマンチェスター・ユナイテッドと対戦したバルセロナの準々決勝は、アウェーでの初戦に0-1で勝利し、ホームでの第2戦も3-0。トータルスコア4-0とバルサが完勝して準決勝に駒を進めました。現地で取材した小澤さんは、この2試合をどのように見ていましたか?

今シーズンもゴールを量産しているメッシ
小澤 まずオールド・トラッフォードでの第1戦については、ユナイテッドの5バックが機能していたと思います。というのも、通常5枚にすると後ろを重くするので前の人数を削ることになるわけですけど、その試合ではマーカス・ラッシュフォードとロメル・ルカクの2トップを、バルサのセンターバック2枚、ジェラール・ピケとクレメン・ラングレに当ててきたので、バルサとしてはビルドアップの自由が制限されていた印象を受けました。
ただ、そういうなかでも、バルサはCLモードのリオネル・メッシとルイス・スアレスが序盤から相手のディフェンスラインの背後にスプリントを仕掛けていきました。前半12分のルーク・ショーのオウンゴールの場面も、セルヒオ・ブスケツからのループ気味のパスをメッシがディフェンスの背後で受けたところから生まれたものでした。
バルサとしては中盤にパスを出すところがなかったため、仕方なく相手DFラインの背後のスペースを使うべくメッシやスアレスのスプリントに頼った格好ですが、ユナイテッドが前からハメてくるなかで、そういった別の手で得点できたところが、バルサの勝因になったと思います。
その後は、前半30分ぐらいにメッシがクリス・スモーリングとの接触で出血してから消えてしまった印象もありましたし、追加点が生まれそうな雰囲気はなかったですね。ユナイテッドは負けましたけど、全体的にはよく戦ったと見ています。
中山 第1戦のユナイテッドは中盤の選手、とくにスコット・マクトミネイとフレッジがよかったですよね。小澤さんが言うように、ユナイテッドはその時点でできることをすべて出せていたと思います。ただ、それでもバルサには及ばなかった。そういう意味では、あの試合のパフォーマンスが現在のユナイテッドのマックス値だった、ということにもなりますが。
倉敷 バルサは優勝争いを演じていたライバル、アトレティコ・マドリー戦の直後でしたから体力的、精神的な消耗もあったはずです。
小澤 逆にユナイテッドはスケジュール的に余裕があるなかで戦えたので、コンディションはよかったと思います。ただ、これはエルネスト・バルベルデ監督も含めてのことですが、やっぱりバルセロナの選手は、相手のシステムやポジショニング、戦い方などを試合のなかで見極めるのがすごく早い。その象徴的選手が、セルヒオ・ブスケッツやイヴァン・ラキティッチだと思います。
まずは相手の配置と出方を見たうえで、この試合ではどの辺にスペースが空きそうか、どの位置でビルドアップの起点を作れるか、そういった肝の部分を2人が素早く見極めていることが、今回の第1戦、第2戦を現地で明確に見て取ることができました。
たとえば、ユナイテッドはポール・ポグバが自分のタイミングで前に出て行くので、彼の背後にスペースが生まれる傾向がありましたが、2戦共にバルサの選手はそれを見つけると、すぐにポグバの背後を狙い始めていました。
倉敷 第1戦では見えにくかったディテールの差も第2戦でははっきりと露呈しました。バルサ圧勝のゲームを小澤さんはどう見ましたか? ユナイテッドは、GKのダヴィド・デ・ヘアが信じられないような凡ミスをしたり、第1戦とはまったく別の顔を見せてしまいましたね。
小澤 オーレ・グンナー・スールシャール監督がルカクをスタメンから外したことが、いちばんの敗因だと思いました。なぜマルシャルを起用したのかが謎ですし、前線に置いたラッシュフォード、ジェシー・リンガード、アントニー・マルシャルのポジショニングやプレッシング時の約束事に規則性がありませんでした。つまりは、そこまで詰めていなかったのだと理解しています。
中山 第1戦で一応の成功を見せた5バックではなく、第2戦では4-3-3に戻してしまったのも理解に苦しむところです。たとえ勝つしかないという状況だとしても、第1戦で大差をつけられていたわけではないですからね。だからスタートは5バックで試合を落ち着かせて、途中から攻撃的にシフトしていくと予想していましたが、蓋を開けてみるとスールシャールは開始から勝負をかけて、結果的に前半で勝負をつけられた格好です。
それと、3-0とリードされた後の65分にマルシャルに代えてディオゴ・ダロトを入れて3-5-2に変更したと思ったら、80分にはアレクシス・サンチェスを投入して4-4-2に変更して、それぞれの狙いもよくわからない戦術変更を繰り返していた印象でした。この試合のユナイテッド・ベンチは、相当に混乱していたのではないでしょうか。
倉敷 この試合のスールシャールは変でしたね。ルカク、アンドレアス・ペレイラ、それとネマニャ・マティッチを使ったほうがバルサは嫌だったと思いますけど。
小澤 そうですね。ルーク・ショーが出られなかったとしても、ヴィクトル・リンデレフの右サイドバック起用は理解できません。だから、たとえラッシュフォードの開始1分のシュートが決まっていたとしても、ユナイテッドは普通に負けていたでしょうね。
スールシャールが選手の配置をしっかり決めていないので、リンガード、ラッシュフォード、マルシャルが曖昧な動きをしていて、それにポグバもついていってしまったので、前線の守備がまったくハマっていませんでした。前半の半ばからポグバはイライラして、客席に聞こえるくらいの声で味方を怒鳴っていました。
倉敷 これは失敗でしたね。ユナイテッドの限界を見てしまったような気がします。それ以降のユナイテッドを見るにつけ、この試合で選手たちの気持ちがスールシャール監督から離れたような気もします。
中山 きっとフロント陣も、スールシャールでは来シーズンも厳しくなると見て、正式監督の契約をかわしたことを後悔しているのではないでしょうか。
倉敷 一方、バルサのエルネスト・バルベルデ監督の評価に関しては、結果を出しているもののサッカーがつまらないという意見もありますね。つまり、ヨハン・クライフが大好きだったバルセロナになかったものをバルベルデが持ち込んだという指摘が一部にあると思いますが、流通イメージとしてのバルセロナを考えた場合、これから先もバルサはこの路線を突き進むのでしょうか?
小澤 そうせざるを得ないでしょうね。ただ、ジョゼップ・マリア・バルトメウ現会長の体制ではこの流れが変わることはないでしょうけど、やっぱり現地のメディアでもバルサのアイデンティティが失われてきているという話はシーズンを通して出ています。クレの本音は、もっとボールを握って、相手をコントロールするような試合を見たいのではないでしょうか。
倉敷 たとえば、アルトゥールがもう少し成長して、来シーズン、フレンキー・デ・ヨング(アヤックス)が加わればバルサのサッカーに変化が起こる可能性はありますよね。
小澤 十分ありますし、カルラス・アレニャーにしても、もっと試合で使っていいレベルにあると思います。でも、メッシとスアレスが前線にいるので、そこで守備のフィルターがかからないという問題があります。彼らは自分の好きなタイミングでしか動かないので、そこについては、バルベルデでなくても、誰が監督をしてもコントロールできないでしょう。そういう意味では、メッシとスアレスがいる限り、サッカーの中身、とくに守備の仕方を大きく変えるのは難しいと思います。
倉敷 そうですね。結局、この第2戦もメッシの活躍で勝ったわけですしね。メッシが本気になっている時のバルサは本当に強いですね。
中山 現在のメッシは完全にニュータイプになりましたよね。相手のチームからすると、抑えようがないです。ディフェンスラインから中盤にかけての広いエリアで、相手の隙を探知しながらウロウロ歩いて、一瞬のスプリントで裏に抜けることもあるし、時にはボールを奪ってしまうこともある。そうかと思えば、ボランチの位置まで下がってシャビ・アロンソ張りにロングボールを供給するという展開力も見せるようになっています。
もちろんメッシ以外の選手がカバーしているからできるプレーですけど、あれをやられると誰がメッシを見るのか相手が決めきれず、マークが曖昧なままになって結果的にメッシが自由にプレーできるという現象が起こります。どれほどの効果があるかわかりませんが、それこそ「トイレについて行くまで」誰かひとりをメッシに張りつかせて、10人対10人と考えて戦うという古い作戦を使ったほうがいいかもしれません。
倉敷 ディフェンスが際立って優れているチームはもうないのでメッシを止められるチームはないでしょうね。
小澤 現在のメッシであれば、コンディションさえよければ間違いなくどのチームに対してもゴールは決められますね。ただし、3月に代表復帰して恥骨炎の問題が露呈しましたので、今夏にコパ・アメリカに招集され、アルゼンチン代表が勝ち進んで消耗したり、ケガをするようだと、来季は今季のような稼働ができるかどうかわかりません。
中山 今のメッシは、フリーキックもすごい。何でもできるメッシなので目立ちませんが、おそらく現在世界ナンバーワンのフリーキッカーになっていると思います。
小澤 まるでPKみたいに決めていますからね。現在のメッシは努力する天才になっていて、実際、試合前のウォーミングアップ時に蹴っているフリーキックも練習さながらの真剣さで蹴っていますし、相手をしているヤスパー・シレッセンもまったく動けないシュートをバンバン決めています。
それと、現在のバルサの守備で言うと、ピケとラングレが安定しているので、ほとんど穴は見当たりません。
倉敷 個人的には、ウスマン・デンベレがカギを握っていると思っています。もしメッシとスアレスを抑えられたとしても、途中から2人とはまったく違ったタイプのデンベレが出てくると、相手は嫌でしょうね。
小澤 デンベレはその2枚とのコンビネーションから隔離して、単独で突破するような使い方をすると、もっと相手は恐怖を感じるでしょうね。
中山 デンベレに加えて、ここにきてアルトゥーロ・ビダルも有効な駒になっていますしね。攻撃的にいきたいときでも、試合を終わらせたいときでも、この2人がいれば十分なほど贅沢な控えの陣容だと思います。他の3チームにこれだけハイレベルな控え選手は見当たりませんし、そういう部分でもバルサがひとつ抜けていますね。
倉敷 リーグ戦で優勝したバルサはもうCL一本に絞ってくるでしょう。その前に立ちはだかるのが昨シーズンの準優勝チーム、リバプールです。バルサを破ることができるとしたら彼らしかいないような気もしますが、果たして?
次回はリバプールの準々決勝の戦いぶりを振り返りつつ、バルサとの準決勝を展望しようと思います。