蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.65 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サ…

蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.65

 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎――。この企画では、経験豊富な達人3人が語り合います。今回のテーマは引き続き欧州チャンピオンズリーグ(CL)の準々決勝レビューと準決勝プレビュー。昨シーズン、惜しくも準優勝だったリバプールは、今季リベンジを果たせるのか。

――前回に続き、お三方にはCL準々決勝を振り返っていただきつつ、準決勝を展望していただきたいと思います。今回も、事実上の決勝戦とも言われているバルセロナ対リバプールについてお願いします。5月1日(日本時間2日早朝)にバルセロナのホーム、カンプ・ノウで行なわれるこのカードの第1戦、リバプールの戦力分析とともに、展望をお願いできればと思います。

倉敷 優勝候補筆頭のバルセロナと準決勝で対戦するのが、リバプールです。昨シーズンは決勝に進出しながら、モハメド・サラーが前半で負傷交代を強いられ、GKロリス・カリウスのミスもあり、レアル・マドリーの前に涙を呑みました。そのリベンジはなるか!? 準決勝までは順当に駒を進めた印象です。

 準々決勝の相手はポルトでしたが、ホームでの第1戦を2-0、アウェーでの第2戦も1-4で勝利し、トータルスコア6-1と大差をつけて勝ち上がりました。中山さんは、ポルトとの準々決勝をどう見ましたか?



昨シーズンCL準優勝のリバプールを率いるクロップ監督

中山 思った以上に両チームの実力に差があったと感じましたし、やはりポルトは大黒柱のエクトル・エレーラが累積警告により出場停止だったことが大きく響いていたと思います。しかも5分、26分と、早い時間帯で2失点したことで、チーム全体の士気も低下してしまった。

 それと、この対戦でいちばん注目していたセルジオ・コンセイソン監督の采配についても、期待外れに終わった印象です。エレーラ不在が影響してか、鉄板の4-4-2ではなく、珍しく3-4-2-1に変更して戦ったわけですが、個人的にはセルジオ・コンセイソンの4-4-2がリバプールにどこまで通用するかを見たかったというのが本音です。第2戦は4-4-2に戻して戦ったわけですけど、その時点ではほとんど勝負がついていたので、もっと緊迫した状況でそれを見たかったです。

小澤 おっしゃるとおり、コンセイソン監督の5バック起用がすべてでした。エレーラに加えて、ペペが出場停止だったことで守備的なシステムにしたのでしょうが、シーズンを通してほとんど使っていないシステムですし、完全に付け焼刃でした。後ろを重くする5バックの守備的な戦術でしたので、リバプールが簡単にボールをポルト陣内まで運んでいて、いとも簡単にアタッキングサードまで侵入されていました。キックオフ直後の2分にムサ・マレガに決定機があったとはいえ、完全に弱腰になった監督の采配が裏目に出た試合でした。

倉敷 いくらポルトがホームで攻勢を仕掛けても、もともと持っているボリュームやカロリーに大きな差があるので、まるで重い階級のボクサーと戦っているようにパンチが効きません。善戦しても結局はリバプールが圧倒してしまった。しかし相手がバルサとなると、今度は同じ階級か、もしくはバルサのほうが少し重い階級になるので、リバプールはどこかで足を使うというか、無理をして戦う時間を作る必要がでてきます。

小澤 どうしてもバルセロナに押し込まれてしまいますからね。

倉敷 中盤はバルサに分がありますね。リバプールは、ロベルト・フィルミーノ、サディオ・マネ、サラーのコンビネーションが魅力的ですが、あまりにも中盤が圧倒されるとカウンターのチャンスすらほとんど作れないかもしれません。

小澤 注目は、バルサにボールを持たれて押し込まれたときに、リバプールが前線の3枚の残し方をどのようにするかですね。基本的に、サラーにはあまり守備をさせたくないはずなので、そうなったときに、バルサの左サイドバックのジョルディ・アルバを誰が見るのか。フィルミーノとサラーのポジションを入れ替えるとは思いますが、バルサは右のネルソン・セメド、セルジ・ロベルトよりもアルバの方が脅威になりますので、普段とは異なるオーガナイズにしないと、ちょっと難しいでしょうね。

倉敷 リバプールの右サイドバック、トレント・アレクサンダー・アーノルドは攻撃こそ魅力の選手ですし、右センターバックのジョエル・マティプもやられる可能性が高い。左センターバックのフィルジル・ファン・ダイクは十分に守れると思うので、バルサにとってはジョルディ・アルバサイドからの攻撃でかなりチャンスが作れるのではないでしょうか。

小澤 そうですね。バルサはもともと右サイドで崩すことは少ないですし、基本的に右サイドで作ってメッシから左サイドに展開するというパターンなので、当然リバプールの右サイドを狙ってくるでしょうね。

中山 リバプールは戦い方が難しいですね。たとえば、リバプールが果敢に前からハメようとしても、現在のバルサは無理してパスをつなぐことをせず、それを吸収しながらロングボールをうまく使ってチャンスを作って無力化することができる。そこがリバプールにとってはやっかいです。

小澤 そう。今のバルサはGKマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンからのロングフィード1本でゴールを決められますし、カウンターアタックもできますからね。

中山 ルイス・エンリケ、エルネスト・バルベルデと監督がバトンタッチしたなかで、次第にそういった戦い方が浸透してきたのが近年のバルサなので、そこをユルゲン・クロップ監督がどのように分析して、対策を練ってくるのかが注目です。たとえばお互いが4-3-3でがっぷり四つの戦いをしたとして、バルサは力でねじ伏せられない場合に4-4-2に変更してカウンター狙いの戦い方もできます。

 しかも、バルサは控えの駒も豊富なので試合の途中で変化をつけられますけど、リバプールはそこまで戦い方を変えられません。そこでクロップが何を考えるのかが、この試合の最大のポイントになるでしょう。

小澤 リバプールはそれほど選手層が厚くないですから、それこそフィルミーノをベンチに下げたら前線が機能しなくなってしまいます。控えの駒が、ディヴォック・オリジとダニエル・スタリッジではバルサのような相手だと厳しいですね。

倉敷 フィルミーノさえいなければサラーとマネをセットで消してしまえる優秀なチームはいくつか存在します。クロップ監督がピッチ上で抱えるあらゆる問題を解決するために、フィルミーノは不可欠な選手でしょう。

 リバプールにとってのアドバンテージは第2戦をホームで戦えるという点でしょうか。

小澤 そこは間違いないでしょう。カンプ・ノウでは圧倒的に強いバルサですけど、アウェーではそこまでではないですから。それを考えると、リバプールとしては第1戦から高いインテンシティーで臨むことはないと思います。あくまでも勝負はアンフィールドでの第2戦と考えているはずです。

倉敷 なんとか第1戦は0-0でしのぐ。負けたとしても1-0ならOK。そんなプランでしょうか?

中山 あとは、リバプールがそういう戦い方に徹することができるかどうかですね。リバプールは力のあるチームですし、バルサを倒すなら彼らしかいないと思うので可能性は十分あるとは思いますが、なにせ現在のバルサには隙が見当たらない。何か予想外の出来事が起こらないと、さすがのリバプールでも勝つのは難しいように思います。

倉敷 国内リーグにあまり参考になりそうな試合は見当たりません。アンフィールドでのマンチェスター・シティ戦は0-0、シティとのアウェー戦は2-1で負けていて、CLではバイエルンにアウェーで1-3で負けています。意外とクロップはこれだというゲームを作れていないんです。

中山 リバプールは監督がクロップになって、2017年にサラーが加わったことで不動の3トップが完成しましたが、ある意味で今シーズンは総仕上げ的な意味合いがあると思っていて、プレミアのタイトルもそうですが、CL優勝も今シーズンが最大かつ最後のチャンスになるような気がします。今回勝てなかったら、また来シーズンにこの3トップでタイトルを狙えるというイメージがなかなか湧きません。とくにサラーは、ここにきて移籍の噂が絶えませんしね。

小澤 そうですね。昨シーズンもあと一歩のところまで行きましたからね。

倉敷 ここでタイトルを獲れないと、このクラブにおけるクロップのサイクルの終わりが近いと感じてしまいそうです。バイエルンの監督が、来シーズンどうなるのかまだわからない状況ですし。

小澤 クロップ本人は狙っているんですか?

倉敷 否定はしていますが、狙っているんじゃないですか? バイエルンの首脳陣は、ニコ・コヴァチ監督では満足していなさそうですね。

中山 クロップはCL優勝よりもプレミア優勝に比重を置いたほうがいいかもしれませんね。クラブとしても、どちらかと言えばプレミア優勝のほうがほしいでしょうし。バルサはすでに国内リーグの優勝を決めているので、マンチェスター・シティと熾烈なプレミアリーグ優勝争いを繰り広げているリバプールにとっては、この試合とは別のところにハンディがあります。もちろん国内ではシティが全勝したら勝てないわけですけど、二兎を追う者は一兎をも得ずという昨シーズンの教訓もありますし、どこかで割り切る必要はありそうです。

小澤 リバプールの残りのスケジュールを見ても、上位との対戦はないですからね。

倉敷 リバプールのプレミアリーグは、バルサとの第1戦の3日後にニューカッスル、第2戦の5日後にウルブズという2試合のみです。最後のウルブズだけは少し危険があったかもしれません。彼らは大物食いのチームなので、もし勝ち点を落とすとしたらそこでしょうね。

 リバプールのOB陣はCLを捨ててプレミアで優勝してほしいとメディアに向け騒ぎ立てていますが、クロップにとっては国内リーグよりもCLのタイトルを獲ったほうが監督としてのステータスは上がるわけなので、そうは考えないでしょうけど。

中山 それと比べると、バルサはリーグ優勝を決めたことでCLに集中できる環境が整いましたね。国王杯の決勝戦もリバプール戦から少し間をおいて、5月25日に予定されていますし、リバプールよりも余裕があります。

倉敷 事実上の決勝戦と言われているこのカードですが、総合的に見てバルサ有利は否めません。でも、何が起こるかわからないのがフットボール。もしかしたらまたVARが勝敗を分ける可能性もあります。いずれにしても、このカードは今シーズンを象徴するような試合になりそうですから、いろいろな視点から注目してみましょう。